〜15〜海底探索しました。
さて、私はいつまでもここに留まっている気は無いので、”私の死因を思い出すための旅”の続きをはじめなければ。
そうなるとフィエルをどうやって連れて今まで通りの速さで移動するか、という話になるのだが、この話はすぐに解決した。
隷従の瞳のおかげで、自身の従者に私のスキルの効果を付与する事が出来たのだ。
そのおかげで『水操作(強・改)』の効果をフィエルに付与し、私と同じ速度で移動してもらう。
初めは慣れなかったようだが、そのうち感覚を掴んだのか今では楽しそうに身を委ねている。
「ご主人様、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
『何?』
「ご主人様はどこに向かうご予定でしょうか」
『特に決めてないけど、目的は決まっている』
「それはどのような目的かお聞きしても?」
『私の死因ッ……を思い出すための旅だ』
「……それは、どういうことでしょうか」
え、こっっっわ!!!!
怖すぎるっっ!!
死因と言葉にした瞬間に左側から軽い殺気が飛んできた。
すぐに抑えたようだが、これを直に食らっていたら以前の比ではない、比べ物にもならない殺気で私は簡単に死んでいた……。
なるべく怒らせないようにしよう……。
今は笑顔で私の続きを待っているけど、目がもう笑ってない。
これはさっさと話して話題を変えた方がいいかな。
『あー、その、私には所謂前世の記憶というものがあってね。
気がついたらこの姿になってここにいたのだけど、どうやってここに来たのかが全く分からないんだ。
しかも、死んだ時の記憶が無いから、本当にこの世界に生まれ変わったのさえ分からない。
だから、私の死因を思い出す。
それが今の目的』
「前世の記憶を持って生まれるという話は初めて聞きました」
『まぁ、そうだうね』
「なぜ死因を思い出そうとしているのでしょうか?」
『……何となくだけど、そこに私がここに来た理由がある気がする』
「左様でございましたか」
まぁ、なんか意味ありげに言ってるけど、私はただ自分の死因が知りたいだけなんだけどね。
けど、思い出せない私の死因に何かあるのではという気持ちも確かなものだ。
思い出せないというのが、とてもモヤモヤする。
特にあてもなく、なんとなしにあちらに行こうと思った本能に従って進んで行く。
それはまるで何かに導かれているようで、自分でも分からないけどこちらに行った方がいいと頭の中に浮かびがってくる。
いつかの催眠を思い出すが、あの時のような感じは全くせず、これは私が完全に私の勘だけで進む道を決めていると断言出来る。
海底に沿って移動しているので以前のように襲ってくる生物はおらず、もし襲ってきてもフィエルの持っているスキル『条件結界(極)』に阻まれて近づくことすら出来ない。
このスキルは条件を設定して一つでもその条件を満たすことが出来なければ、結界内に入ることが不可能になるというスキル。
さらに、結界内に入るための条件の項目を増やせば増やすほど、つまり条件の内容を細かくすればするほど、その結界は強固になっていくという。
そして、条件を設定するにはMPを使用し、一定時間で結界が解けてしまうので、その都度条件の継続更新として再度MPを使用しなければならない。
設定する条件の内容と量によって使用するMPが変動し、条件の内容によっては大量のMPを使用しなければ設定出来ない条件もあるのだとか。
敵に回したら面倒なスキルこの上ない。
今回、フィエルが結界内に入るために条件として設定されているのは”私に敵意がないもの”、”私と会話する意思があるもの”、”私に忠誠を誓うもの”、”私の為だけに生きたいと願うもの”、”私の存在が神々しすぎて眩しいと感じるもの”だ。
前半二つに関しては何も言うことは何のだが、後半三つに関して私は一切関与していないとだけ言っておく。
その条件は必要ないと言ったのだが、真顔で入りますと言われてしまったのでつい頷いてしまったのだ。
誰も襲ってこない安全な旅とはこれほどまでに素晴らしいものだったんだなと心から思う。
一度だけカエニビに似た上位互換のような生物が襲ってきたのだが、それが視界によぎった瞬間に真顔のフィエルによってあっという間に呆気なく倒されてしまった。
本当に一瞬のことで、私が倒したことに気が付いた事に気が付いたフィエルは、「申し訳ありません」と謝ると続けて「次は気をつけます」と言ったのだが、何に気をつけるのだろうか。
暫くして目の前に巨大な海底谷が現れた。
今いる場所が最深部だと思っていたが、まだまだ底があるだなんてね。
そっと覗いてみるが、そこは全く見えずにただただ真っ暗闇が拡がっているだけだった。
けど、奥底に何かがあるように感じて、私達は海底谷に入ることにした。
暗闇に関しては、フィエルが水の中でも使える魔石を使用して点火する、黒塗りのオシャレなランタンを持っていたので、ありがたく周りを明るくしてもらう。
その際、この灯りで何か生物が寄って襲って来ないかと心配したのだが、ランタンの灯りはランタンを中心に半径1m以内にいる者にしか見えないのだという。
周りが明るくなったおかげで周囲がより見えやすくなり、岩肌の凹凸までしっかりと見えるようになった。
それでも、この海底谷の底は見える気配すらない。
「っ!ご主人様、あちらを」
『どうした、……なに、あれ』
フィエルが指差す先にあったものは、それは息を飲むほど美しく、夢に見るほど幻想的で、胸を締め付けられるような悲しみに溢れた、輝かしい朽ち果てたお城、いや、国がそこにはあった。
何も無かった場所にいきなり現れた美しい国に、私は目を奪われると同時に懐かしさを覚えた。
透き通るような瑠璃色と呑み込まれそうな漆黒を基調とした西洋風のお城は、金色に薄らと煌めく純白の巨木に侵食されている。
神々しい巨木は全てを受け入れるように大きく枝をひろげ、生い茂る若緑色の葉は温かみを感じる。
枝から蔦り垂れ下がる蔦は水の流れに身を任せてユラユラと揺れ動く。
朽ち果てたお城の眼下に広がる街並みも同様に殆どが廃墟と化している。
統一感のあっだろう建物は巨木から伸ばされた太い根に侵食されて、見る影もなく破壊し尽くされて無惨な姿になっている。
そして、全てを護るように囲っている球体状の半透明で薄い水色の結界だと思われるものには、読めない文字が細かく刻み込まれてクルクルと回り続けている。
けど、どれだけ目を凝らしてみても球体の中には生物の影ひとつ見当たらなず、どこか寂しく悲しい雰囲気をしている。
「あれは……まさか、”溟海帝国ラピスリズラ”!?」
隣でいきなりフィエルが叫んで驚いたが、なんか聞いたことがあるような単語が出てきた。
ラピスリズラってラピスラズリのことだろうか。
なんて思いながら、驚きに満ちているフィエルは信じられないものを見るような目で美しい廃墟を見つめている。
『あれを知ってるのか?』
「……はい。
おそらくですがあちらは溟海帝国ラピスリズラ、の廃墟かと思われます。
溟海帝国ラピスリズラはかつてこの世界を統一したとされる、皇帝ラピスリズラにより建国された帝国です。
ですが、建国されて一年も経たずに滅ぼされ、その存在は歴史の闇に葬られた幻の帝国。
知られているのは帝国と皇帝の名と、世界統一を果たしたという功績のみで、それ以外の殆どが謎に包まれております」
『だったら、これは世紀の大発見になるのではないか?』
「左様でございます」




