〜14〜執事自薦されました3。
取り敢えず、なんだか凄そうな”隷従の瞳”というのが簡単に取り除いて握り潰せたということは、本当にクソ野郎様のことを心からクソ野郎って思っているということか。
そこには一切の忠義の欠片も無く。
いや、本当にこのクソ野郎様とは何者なのだろうか。
とことん骨の髄まで嫌われているね、クソ野郎様って。ここまで来ると逆にすごいよ。
「ご理解頂けたでしょうか」
『出来ました』
つまり、目の前の相手を執事にするためにはこの世界のルールに則って目をあげないといけない、ということになるのだろう。
にしても目をあげる……か。
別に私は二十四個の目を持ってるから一つくらいはどうって事ないだろうから構わないのだけど、問題はどう渡すかだ。
やり方が全く分からない。
目をくり抜いて渡すだけでいいのだろうか?
『どうやって目を渡したらいいんですか?』
「隷従の瞳をいただく際に使用される特別な道具があったと記憶しておりますが、そういった道具を使用するのは基本的に何か特別な日や催し物の時のみです。
ですので、これといって特に何かをする必要はございません。
貴方様の目をお与え下さればそれで良いのです」
いや、だからその方法を聞いたのだが?
はぁ……、色々と新しい情報が入りすぎたし、ちゃんと会話をしたのがリヴァイアランさん以来だったから頭の中が破裂寸前の気がする。
もう、今現在頭の中にあるのはさっさとこの会話を終わらせることのみ。
なんかもう、今更だけど精神的に疲れているのかな。
肉体的には疲れを感じてないどころか、むしろ元気な気がするけど……精神の方がボロボロだ。
だって、考えてみて欲しい。
知らぬうちに死んで、目が覚めたら知らない場所、知らない世界に来ていて。
なんか人間じゃ無くなってるし、いきなり食われそうになるし、初めて見つけた意思疎通出来る相手が人語を話す人外。
その後もまた食われそうになり、八つ裂きにされそうになり、十中八九人外の封印知らずに解いてしまって、挙句の果てには目をくださいだよ。
内容がもう濃すぎる。
私の奥底にしまい込んで見て見ぬふりをしていた、忘れることの出来ない人間の感性が、今に来て拒否反応を起こしている。
いや、本当はもっと前から起こしていたのだろうね。
それが無視できないほど酷くなったということは、要はキャパオーバーというものだろう。
そのせいか、私の思考もかなり前からおかしくなっていた事を自覚している。
だから私は『斬撃(微弱)』を使用して傘の部分にある小さな目を一つ斬り離すと、『水操作(強・改)』で執事の目の前まで持っていく。
正直、いつもの私なら絶対にしないようなことをした自分にとても驚いている。
だって、自分で自分を傷付けるなんて怖くて痛くて、やりたくないから。
運ばれた目に気が付いた執事は少し震えた両手で優しくそっと包み込む。
そして大事そうに抱えると、誰もが見惚れるような美しい満面の笑みを浮かべた。
「有り難き幸せにございます!」
体全体から幸せのオーラが発して、背後に色鮮やかな花が飛び待っているような幻覚が見える。
花だけではなく、後光が差しているかのように、その笑顔は疲れた私にとって眩しかった。
こういうのを「うわっ眩しい」というのだろうね。
執事は歓喜のあまりに残像が見えるくらい震えながら、私の目をぽっかりと空いた右目に入れて目を閉じた。
数秒程経ってからゆっくりと開かれた右目には、米粒のように小さかった目が大きくなって、ピッタリの大きさで元からそこにあったかのように、綺麗に埋め込まれていた。
その瞳の色は吸い込まれそうなほど深く、誰も辿り着けることの出来ない未知なる深海を思わす濃い青色。
よくよく目を凝らして見ると、透明感のある青紫色が薄らと混じっている。
それはまるで果てしない宇宙を閉じ込めたようで、宝石で例えるならばきっとタンザナイトが相応しいかな。
……ところで、どうやって大きくしたのだろうか。
……あっ、そういえばまだ名前を聞いてなかった。
これから一緒にいる事になるのだから、名前を知っていないと呼ぶ時に困る。
それに、私の名前も教えていなかった。
『名前を聞いてもいいですか?』
「ワタクシの名は”フィエル”、と申します。
どうかフィエルとお呼びください。
それから、ワタクシに対する敬語は不要でございます。
貴方様はワタクシの唯一のご主人様で、ワタクシはご主人様の唯一の執事にございますので」
『分かった、これからはそうする。
それと、私の名前はミツキだ。
ご主人様呼びはやめてくれ』
「ではなんとお呼びすればよろしいでしょうか」
『普通にミツキでいい』
「それはなりません!
主君を呼び捨てにする従者などどこにおりましょうか!」
『わ、分かった。
ならそのままでいい』
「感謝申し上げます」
これから私、ご主人様と呼ばれるのか……。
なんでもいいから精神的に回復する方法はないのだろうか。
目の前で今にも踊り出しそうな程に感極まっているフィエルを放置して、目をあげたことによって何かステータスに変化が起きてないかを確認する。
どこに変化が現れていたのかはすぐに分かった。
MPが現在進行形で増え続けているその下に、従者という項目が増えているのだ。
そこを確認してみると『フィエル(執事)』と出てくる。選択してみると鑑定を使っていないのに、おそらくフィエルのであろうステータスが現れたので、急いで選択解除した。
危ない危ない。
断りなく勝手に見るのは従者になったとはいえ失礼になる。
『フィエル』
「はい、ご主人様。
いかがなさいましたか?」
『フィエルのステータスを見ていいか?』
「構いませんが、もしやご主人様は『鑑定』のスキルをお持ちでしょうか?」
『似たようなものは持っているが、それとは別に見る方法があってね』
「左様でございましたか。
どうぞ、お好きなだけご覧くださいませ」
『じゃあ、見るね』
許可をとって改めて確認したステータスは私の想像を絶するものだった。
〘名前:フィエル
称号:唯一の執事
種族:堕天使
HP:707(+9999)/707
MP:1497(+9999)/1497
無効:状態異常(極)・物理攻撃(超)・水属性攻撃(中)・風属性攻撃(弱)・闇属性攻撃(極)
耐性:魔法攻撃(超)・魔核攻撃(超)・精神攻撃(極)・全属性攻撃(超)
発動中スキル:
『HP自動回復(超)』『MP自動回復(超)』『HP増加(強・改)』『MP増加(強・改)』『HP回復量上昇(強)』『MP回復量上昇(強)』『魔核隠蔽(極)』『探知(超)』『水圧操作(強)』『水中呼吸(極)』『擬態:人間(超)』『完全記憶(極)』『忠誠心(極)』
保有スキル:
『無属性魔法(強)』『火属性魔法(超)』『光属性魔法(極)』『闇属性魔法(微弱)』『槍術(極)』『強力無双(極)』『貫通(超)』『硬化(強・改)』『衝撃波(強・改)』『飛斬(極)』『粉砕(超)』『防御破壊(極)』『確定瀕死(中)』『戦闘継続(超)』『千里眼:擬(超)』『未来視:擬(極)』『粉骨砕身(超)』『身体強化(極)』『思考加速(極)』『飛翔加速(極)』『加速強化(極)』『加速倍増(極)』『強化倍増(極)』『威力倍増(極)』『倍増倍増(極)』『損傷軽減(弱)』『条件結界(極)』『条件封印(極)』『条件無効(極)』『結界破壊(極)』『封印破壊(極)』『魔核透視(強)』『認識阻害(強・改)』『気配隠蔽(超)』『浄化(超)』『洗浄(強)』『念話(強・改)』『鑑定(超)』『有限箱(7/10)』〙
…………は?
………………フィエル、一体何者?
種族の時点でもうどこかぶっ飛んでいる気がする。
称号なんてものがあったんだね、初めて知った。
HPとMPを増やすことなんて出来たんだ……。
そこは私の方がぶっ飛んでいると思っていたのに、それ以上があったんだね。
これ、状態異常が効かないなんて、私の主な攻撃が効かないということになるから、私の天敵確定だ。
そして、この馬鹿げたスキルの量と強さが敵対しなくて良かったと心からの安堵をもたらした。
いや、本当に味方にしてよかったし、あの契約内容にして本当に良かった!!
だって、ラスボス超えて裏ボスみたいな相手に、どうやって勝てと言うんだ!?
こんなのレベルカンストの魔王に対して、レベル1の武器防具回復道具必殺技無しの勇者が特攻仕掛けるようなものだ。
本当に、心から、味方にして良かった!!
『フィエル……その、なんか、凄いね』
「お褒めに預かり光栄です」
『この堕天使って、元は天使だったの?』
「左様にございます。
クソ野郎様……いえ、もうあの方は主君ではありませんので敬称は不要ですね。
クソ野郎に辞表を叩きつけた際にワタクシは堕天しました。
新たな主君を望んだが故に堕天したのでしょう」
『そんな簡単に堕天って出来るものなのか?』
「そうですね、ワタクシが純粋な天使では無かった、ということも少なからず関係しているでしょう。
ワタクシは人間から天使へと種族改変を行った人造天使でございます。
その性能は純粋な天使と同等、いえ、それ以上の力を秘めております」
『そうなんだ』
人造天使なんて種族もあるのか、この世界。




