〜11〜海底到着しました。
進化したスキル『水操作(強・改)』を使用して落下するジェットコースターにも勝る速さで下に進んで行く。
こんなに早く移動できるなんて、初めの私は思わなかっただろうね。
岩肌に沿って降りているのだが、魔石がたくさんあったのはカエニビが居た付近だけだったようで、今のところ影すら見えない。
下に進むにつれて遠くに見えていた魔物と思われる生物の光の数が確実に減ってきている。
その代わりにまるで綿毛のような小さな紺色に光る、光の粒子が視界に入るようになった。
こんな光景はリヴァイアランさんに会う前以来で、あの時と違うのはこの粒子ら私に触れると吸収されるということ。
初めはほんの些細な変化だったので気付けなかったのだが、約一分に増えるMPが2づつ、時には3づつになっていて、それがこの粒子のせいだと『自己把握』のおかげで分かった。
まず、この紺色の光の粒子は徐々に大きくなる水圧によって結晶化した、魔石になる前の魔素の塊で魔粒子と呼ばれる。
そもそも魔素とはこの世界のありとあらゆるところに漂っている、前世の私の世界で言うところの酸素のようなもの。
基本的には目に見えることが出来ないのだという。
それが何らかの力で圧縮されて、結晶化することによって目に見えるようになったのがこの光の粒子、もとい魔粒子。
ここでは水圧により魔素が圧縮されてこのような結晶化が起こっている。
そして、この魔粒子は魔力を持っている生物が触れると、MP回復の効果が得られるのだとか。
と、そうこうしているうちに底が見えてきた。
薄く光る魔粒子のおかげでそこまで暗くはない。
例えるならば、暗闇の中にたくさんの蛍が周りを飛び舞っている光景だろう。
この光景を目に焼き付けながら辿り着いた底をフラフラ漂っていると、視界の右端に何か棒のようなものがあることに気が付いた。
その棒が一番よく見える目を主要の目に切り替えて確認すると、それは一本だけではなくその奥にもあることが分かる。
……気になる。
ものすごく気になる。
なぜだか分からないけど、とにかく気になる。
そんな好奇心から周りを警戒しながら近付いてみると、そこにあったのはなにかの遺跡のような酷く寂れた建造物の跡地だった。
縦に長い石碑とその下にある棺桶のようなものを中心に、その周りを五本の柱のような石の棒が円を描くように均等に並んでいる。
土台となる部分よほとんどは黄緑色の水草に覆われていて、薄く淡い光を纏っている。
さらに近付いていって、席にの目の前にやってくる。
まじかで見てみるとうっすらと表面に何かが刻まれていることに気がついた。
おそらく文字なのだろう掘られたそれに、物凄く見覚えがありすぎて思わず念話が漏れる。
『これ、カタカナ?』
いや、どっからどう見てもこれはカタカナだ。
うん、この形、間違えようがない。
え、でもどうしてカタカナ?
もしかしてここは日本だった?
いや、ここは異世界の水の中。
それはもう証明されている。
いや、でもこれはカタカナ。
混乱してきた、少し落ち着こう。
……フゥ、よし。
これは、見たまんまカタカナだ。
それ以外は考えられない。
でも、もしかしたらこの世界では、カタカナに何か別の用途があるかもしれない。
読んで確かめるしかないね。
ーーオコシタラコロスーー
ッ読みにくい!
何が書いてあるのかは分かったけど、すごく読みにくい。
何より、字が汚い!
よくカタカナだって分かったね、私!
いや、オコシタラコロス……起こしたら殺す?
それってこの棺桶の中に誰かがいて、眠っているということかな?
……死人が蘇るということなのか?
……これは関わらない方が良さそうだ。
即刻立ち去ろう。
そう決断して、くるっと後ろを向いて立ち去ろうとした。
「カチッ」
カチ?
……な、なんの音だろう。
嫌な予感がする。
「ガガガガガ」
背後から何か重いものが動く音がする。
あぁ、最悪だ。
「ガコンッ」
今度は何かが落ちた音がして、重く鈍い音が辺りいっぱいに響いた。
キラキラと舞い踊っていた魔粒子が吸い込まれるように、すごい速さで横を通り過ぎていく。
魔粒子がきれいさっぱり消えると、『視覚拡張』を使用しているというのに視界が真っ暗に染まる。
これはまずいと思って逃げようとしても、何かに掴まれているかのように動けないことに気が付いた。
きっと、恐怖で動けなくなったのだろう。
「……まったく、一体、どこのどいつですか?
最低最悪のクソ野郎様から確実に逃れるために、三日三晩かけて施した封印を解いてくれやがった素晴らしいお方は。
もし手先でしたら悪ふぜけでなくても今すぐに、その命を刈り取って差し上げますよ。
さぁ、姿を現しなさい」
まずいまずいまずいまずい!
火事場の馬鹿力のように、咄嗟に水草の中に潜り込んで隠れたけど、こんなのすぐにバレるに決まっている!
今まで私を襲ってきた魔物やカエニビとは次元が違う、体にまとわりついて飲み込まれるような、おぞましい怒気と殺気。
どうやったらこの状況を打破できるんだ!?
「……おや、この気配。
もしや、確定者様、ですか?」
っ確定者!!
そういえば、リヴァイアランさんも私が確定者がどうのこうの言っていた覚えがあるけれど、確定者とは一体何なのだろう。
やっぱり、その事についてちゃんと聞いておけばよかった。
後悔してももう遅い。
「まさか、…………フフ、フフフ。
ワタクシの封印を解いたお方が確定者様だとは、なんという巡り合わせなのでしょうか。
あのクソ野郎様の呪縛から解き放たれる日が来るとは!!」
クソ野郎様の呪縛?
……なんだろう、これ。
疑問ばかり増えていく。
いつの間にか辺りを渦巻いていた怒気や殺気は消え去り、歓喜に満ちた声が響いている。
数秒前との落差が酷い、酷すぎる。
その声があまりにも幸福に満ちていたから、誰がそこにいるのか、姿を見たくなった。
だから、つい、水草からそっと姿を見れるように傘を覗かせた。
その瞬間、目の前に現れた美しい顔面に目を奪われ、その間に伸びてきた手に傘の部分をガシッと掴まれて身動きが取れなくなった。
後ろで高く結われた深く濃いワインレッドのきめ細かい髪は水の流れに舞うように揺れて華々しい。
髪の毛と同じ色の長いまつ毛に縁取られた目はやや垂れ目で優しげな雰囲気を醸し出し、右目はアメジスト、左目はガーネットのように輝くオッドアイの瞳は透き通るように美しく、右目には銀で縁取られたモノクルをかけている。
けど、宝石のような輝かしい色を持つ瞳は一切光が入っておらず、見ているだけで全てが呑み込まれそうだ。
身につけている服は汚れやシワが一切見られず新品同然の気品ある、アニメや漫画の執事キャラの殆どが身につけているであろうあの執事服。
なんかもう、一つ一つのパーツが全てが、何もかも美しすぎて体が震える。
「クヴァレ種の魔物……それも希少種。
なぜこんなところに?」
『ぁ、あの〜、離して欲しいのですが……』
「っ!?」
またもや気になる言葉が出てきたけれど、とりあえずこの掴んでいる手を離して欲しくて『念話』で話しかけたら、目を見開いて驚かれた。
けど、驚いたのは一瞬で掴んでいる手はそのままで、驚いた表情もすぐに戻ってしまう。
何事にも動じず、たとえ動揺しても一瞬で平常心を取り戻す、これが本物の執事というものなのだろうか。
そう頭の中で現実逃避をしていると、さらに美しい顔が近付いて見つめられる。
「もしや、貴方様がワタクシの封印を解いた確定者様ですか?」
『封印を解いたかどうかは分かりませんが、……確定者というのは多分、私です』




