Come On A My House 同棲は悪魔とともに? その1
「ちくしょう。なんでこんなことに……。だいたいお前、家に帰らなくてパパやママが心配しないのか?」
「う……。仕方ないのじゃ。一度契約をしたら、それから先はマ……、両親と離れて、契約者とともに過ごさねばらならぬ。そういう掟なのじゃ」
「掟って……。時代劇じゃあるまいし、魔界の時代感覚ってどうなってんだよ。でもほら、俺は男だし、お前は子供とはいえ女の子なんだぞ。危ないとは思わないのか?」
「……?あぶないって?」
「ほ、ほら、世の中には、『無垢な感じの女の子がたまらんぜ!』とか、『つるぺたこそサイコー!』とか、『幼女の素足で踏み踏みされたいでござる!』とか、『プニプニのホッペこそ至高なり!』とか、『膨らみかけの胸がなんとも言えませんなぁハァハァ……』とかいう変態がいてだな……。と、とにかくそういう特殊な性癖を持つ男がいるんだよ!も、もちろん俺は違うけどな!」
「せーへき……?よくわかんないけど、ママ言ってたよ。『おんなの子はいずれけいけんすることなんだから、あいてがわかくてカッコいいおとこの子だったら、早いうちにキメちゃいなさい』って。ねえ、キメちゃうってなに?」
「おいぃぃぃっ!母ちゃんんんっ!」
ヤバい……。こいつの母ちゃん絶対ヤバいぞ。どんだけビッチ脳なんだよ!こいつはまだ明らかな幼女だぞ。娘が心配じゃないのかよ。悪魔の倫理観どうなってんだよ。いや、悪魔だからいい……のか?それよりも、こんな年齢でデキんのか!?
だが……、待てよ?逆に考えれば、こんな美幼女の母ちゃんってことは、きっととてつもない美女に違いない。それがそんなにもヤリマ……じゃない、積極的だというのなら、むしろ一度お会いして、一発ご教授願うのも手では……。
いかん。思わず本音が漏れそうになってしまった。俺は慌てて軌道修正を図る。でも、俺だってヤリたい盛りの男の子である。きっとこの気持ちを理解してくれる人はいるだろう。ね?世のナイスバディ好きの人はそうだよね?
「ち、ちなみに、ママは何歳なんだ?」
「ママ?んーとね、たしか、にじゅう……よん?」
「そっ、そうか!そんなに若いのか。ふふっ、それはそれは……」
メルは明らかに自分の設定年齢よりも、母親が若いことを忘れているようだ。しかし……。やはりそうだ。俺の予想どおり、メルの母親はヤンママだ。
一瞬同い歳の姉貴の顔が思い浮かび萎えかけるが、メルの母親は比べ物にならないほど美人だろう。かくなるうえは、義母との禁断の関係を……。
けど、確認は慎重にね。
「な、なあ、お前はパパとママ、どっちに似てるって言われてるんだ?」
「う……?んーとね、ママそっくりって言われるけど……、なんで?」
「ゥィイ……ッッエッス!!」
意味不明な叫び声とともに、思わずガッツポーズを取ってしまった。おっといかん。その前に、旦那がいるんだった。はやる気持ちを押さえ、冷静を装う。
「そっ、それで?パパは契約のこと、何て言ってるんだ?」
「パパはねえ、『おかしなことをされそうになったら、すぐにパパをこうりんさせなさいって。あいてのおとこは、にくへんものこさず、八つざきにしてやるから』って。おかしなことってなに?」
「おいぃぃぃっ!こっちはもっとヤベー奴じゃねーか!」
降臨とか八つ裂きとか、漫画の世界では普通に使われてるけど、現実世界で聞いたことの無い言葉だぞ?それを平然と使うこいつの父ちゃんって、どんだけの存在なんだよ!?てゆーか、母ちゃんの浮気相手ってまだ生きてんのか?
正直、こいつの母親に手を出すのは諦めたほうが良さそうだ。マフィアのボスの愛人に手を出す以上にリスキーそうだ。
そういやこいつも、大人ぶってる時は自分のこと『我』って言ってるし……。間違いなく親の影響なんだろう。もしかしたら、結構な地位の悪魔の娘かもしれないな……。
しかし、親馬鹿パパとビッチママか……。こいつを宿無しで放りだしたら、親父(魔界のヌシ的存在?)にすぐさま殺されそうだし、万が一にもビッチママが妙な性知識を吹き込んでいたら、俺の社会的存在が危うい。そう考えれば、一緒に住むのは危険じゃないのか?
歩きながら考えるが、良い考えは思いつかない。そうこうしているうちに、アパートはどんどんと近付いてくる。今日ほど、バイト先から俺のアパートの距離が近いことを恨んだことは無いだろう。
だが、どれほどアパートに帰りたくないと思おうが、そうこうしているうちに、無情にも我がオンボロアパートは姿を現したのだった……。
☆ ☆ ☆
「いいか、頼むからおとなしくして、騒ぐんじゃないぞ。それと、人前で絶対に魔界との空間を繋ぐなよ。あとはなるべくほかの住人に見つからないようして……、って、それはそれでよろしくないのか……」
結局メルをアパートに住まわせるしかない状況に追い込まれた俺は、帰り道でアパートでの暮らし方をレクチャーしていた。
話を聞くかぎりでは、こちらの知識は両親から聞きかじったものと、プリキュンの世界で知ったものしか無さそうだった。まあ、社会的な知識の無さに関しては、年齢を考えれば十分に誤魔化せるだろう。だが、大勢の前で先ほどの魔界空間を繋げるようなマネでもされたら、どう考えても誤魔化しようがない。
しかし、注意をしながらも俺の頭の中には、つい最近世間を賑わせた、幼女誘拐事件のニュースが浮かんでいた。
その犯人は恐怖心で幼い被害者を束縛し静かにさせ、アパートで監禁していたのにも関わらず、周囲の人間は誰一人幼女の存在に気付かなかったのだという。
驚くことに、そんな生活が2年近くも続き、その間周りの人間は誰も幼女に気付くことが無かったのだ。
まあ、この手の犯罪が起きれば、毎度のごとく世間は近所の繋がりが……、などと声高に言うが、実際アパート暮らしで近所付き合いも無いものだ。俺だって、同じアパートでそんな事件が起きていても、気付くかどうか自信は無い。
そんなこともあり、露骨にメルのことを隠し通せば、万が一の時に俺もそんなサイコパスの同類と思われても言い訳のしようがない。
そもそも、人一人の存在などいつまでも隠しとおせるものでもないし、だったら下手に隠すよりは、普通に妹としてアピールしたほうがいいか。
だが、問題は姉貴と雨蘭、そして可憐である。両親が来ることはまず無いから問題はないが、あの二人は月に数回はここを訪れる。
「うん、明日考えよう……」
疲労と空腹で濁った思考では、どうせこれ以上良い案は出ないだろう。俺は目の前の現実から目を背け、とりあえず帰宅することにしたのだった。