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Restaurant Blues 悪魔の契約はエンゲージリング? その1

「別に疑ってるわけじゃないんだよ。ほら、ご近所さんから、ちょっと騒いでる人達がいるって苦情も来ちゃったし、一応事情を聞くのも私らの仕事だからね。君はお父さん……かな?それにしては、随分若いねぇ。あ、もしかしてお兄さんかな?でも歳も離れてるし、あんまり似てない兄妹だねぇ。二人はどんな関係かな?あ、お兄さんの身分証とかあるかな?」


 にこやかな顔をし、なにも疑っていないよと言う言葉を発しながらも、警官は無線機を握り締めたまま離さないし、目は1ミリたりとも笑っていない。目の前の幼女誘拐犯と疑わしき男(不本意ながら、どう考えても俺しかいない)が何らかのアクションを起こせば、瞬時に応援要請をする気満々である。

 それにしても、さすがにヤバかった……。あと10秒コンニチハに気付くのが遅れていたら、幼女に下半身を見せ付けていた変態男として、間違いなく留置所にぶち込まれていただろう。

 いや、露出魔程度の勘違いならまだマシな方か。下手をしたら、幼女強○未遂事件として、問答無用で逮捕されていたかもしれない……。

 

「や、やだなぁ。妹にせがまれて、そこのファミレスまで行くとこだったんすよ。なっ、妹よ。そうだろ?」

「……?」


 俺は必死に幼女に目配せをするが、当の本人はポカンとしている。

 

「ふーん。妹さんねぇ。それにしては……」


 警官が疑問に思うのは当然だろう。俺と幼女はかなり歳が離れている以前に、あまりにも見た目が違いすぎるのだ。いや、こいつの可愛さに比べて、俺がブサイクすぎるとかではない(と、信じたい)。そもそも人種が違うんだから当たり前の話だ。俺達を見て『そっくりな兄妹ですね』などとのたまう奴がいたら、とんでもないおべっか野郎か、目が腐っているかのどちらかだろう。

 だが、ここで本当の兄妹でないなどと言ってしまったら、おそらく近所の交番へ一直線である。『実は幼女が絡んできまして……』と、正直に告げても信じてもらえないだろう。まして、『娘がいなくなったんです!』などと、こいつの親に捜索願いなど出されていた日には、最悪一晩留置所で過ごす可能性もある。それを避けるためには、何が何でも嘘を吐きとおさねばならない。

 世間の常識では、幼女と見知らぬ男が一緒にいたら、事実に関係なく(・・・・・・・)悪いのは男に間違いないのだ。

 そしてそれは、幾多のニュースで実証済みのことである。

 

「い、いや、そのことなんですけど、実は複雑な事情がありまして……」

「なっ、なにをするんだ!?」


 俺は、警官の袖を引き幼女から距離を取る。一瞬身構えた警官だったが、すぐに敵意はないと判断したのだろう。大人しく俺についてくる。


「大きな声では言えないんですけど、実はこの子……。俺とお袋を捨てて出て行った親父が、外国で作った愛人の子なんです」

「え!?」


 どうやら斜め上の俺の返答に、警官は一瞬パニックになったようだ。この機を逃さず、俺はたたみかける。

 

「それで、この前親父が何年かぶりにふらりと戻ってきたかと思うと、『陽太、お前の妹だぞ』って……。どうやら愛人との生活は長続きしなくて、それでもこの子は引き取ったみたいなんですけど……」

「そ、それで……?」


 おそらく純粋な人なのだろう。俺の嘘に、警官は好奇心半分、同情半分といった表情で、少し離れた場所に立つ幼女を見ている。


「ところが、またしても新しく出来た愛人との生活に、この子が邪魔になったみたいで……。それで、俺のところに預けに来たってわけです」

「なんて酷い……。あ……、いや、君のお父さんを悪く言うわけじゃないが、それでも……」

「いいんです。確かに最低の父親ですから。でも、だからこそ俺は、ちゃんとこの子の面倒を見てやろうと決心したんです。けっして昔の俺のような、寂しい思いはさせないって」

「偉い!今時君のような、立派な若者がいることに感動したよ。それに比べて、家の娘ときたら……。ああ、すまない。こっちのことだよ」


 どうやら自分の娘のことを思い出したようで、警官はため息を吐く。見た目からすると、警官の年齢は40代中盤くらいだろう。となると、娘さんは高校生くらいだろうか。まあ、難しい年頃ではあるのだろう。


「でも、だからってこんな遅くまで、幼い子を連れまわして良いってわけじゃないよ」

「す、すみません。生活費を稼ぐためのバイトが、どうしても深夜までかかってしまうものですから」

「そ、そうか、すまないね。苦労してるんだな……」


 ついに、警官は涙ぐみ始めた。さすがにこの人の良さそうな警官に嘘を吐くのは心が痛む。だが、冤罪で前科者になるわけにはいかないのだ。

 それと……。すまん親父……。俺の未来のために、今だけは最低のクズとなってくれ!

 どうやら、警官を騙すことには成功したようだ。多少の罪悪感はあるが、背に腹は代えられない。そうなれば長居は無用だ。嘘がバレないうちに早急にこの場を立ち去る必要がある。


「よーし妹よ。急いでファミレスに行くぞ!」

「ふぁみれす?何じゃそれは?」

「ぐっ……、やだなぁ。お腹空いたって言ってたろ?ご飯を食べに行くんだよ。今日は、お前の好きなもの食べていいって約束だったろ?」

「ごはん!?うん、たべるぅ!」

「そ、それじゃあお巡りさん、お騒がせしました。夜遅くまで、お勤めご苦労様です」

「ああ、妹さんと仲良くね。それと、やっぱり夜遅くに出歩くのは控えるんだよ」

「はいっ、わかりました!」


 俺は警官に向かい敬礼をすると、右手にギターケース、そして幼女を左の小脇に抱えるようにして、小走りでその場を走り去った。その頃には、地面に転がった空き缶を回収せねばならなかったことなど、綺麗さっぱり忘れていたのだった……。

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