44. 準備とお披露目会
翌日。リアンは早速ウィケル公爵に面談を申し込んだが……
「すみません、殿下。公爵様は体調不良のため、お会いできないとのことです」
「……そう。ありがとう」
「失礼します」
「……ますます後手に回ってますね」
「ええ」
ウィケル公爵の体調不良で面会できないことは勿論、イドルイデにも賛成派が出てきているとのことだった。おそらく、リアンに蒼の石を要求してきた集団だろう。他にも賛成派が続々と集まってきている。
「しかもウィケル公爵に至っては今日の軍事会議にも出席していないとか……」
リアンは渋い顔をする。
「期間はどれくらいあるの?」
「えーっと、ヤバライカの国内が安定するまでですから……ざっと三ヶ月ほどでしょうか」
イベルがそう答えるのにリアンは目を見開いた。
「随分と早いのね」
「やっぱりクロノア公国が関わっているせいと、降伏した国もあったようですから」
「聖ノグラム国は?」
聖ノグラム国は王族や貴族の婚姻についての大きな権限がある。聖ノグラム国さえ否定すればこの政略結婚は実行が難しくなるはずだったがーー
「それが今、内部分裂を起こしているようで、あまり当てにはならないかと」
そう、全く使えなかった。そしてこういう頭を使うことが苦手なランは早々に匙を投げた。
「いっそのこと、もう戦争とか!」
「やめなさい。確かに地理的には非常に有利ですが、イドルイデや我が国にかの国との繋がりを持つ者がいる限り軍はおこせません。最悪、内部分裂になるからです」
地理で言えば、帝国とイドルイデがクロノアとヤバライカを囲っている。さらにその後にアングニュートルがあるというおまけ付きである。つまりアングニュートルはいくらでも援軍を送り放題なわけで……逆にいってしまえば戦争されれば向こうは終わりなので、対策を練っていないはずがなかった。
「じゃあ、どうすれば……」
「やはり、票取り合戦するしかありません」
「そうねぇ……」
そう呟くリアンだったが、おとなしく票取り合戦に参加できるほどリアンに余裕はなかった。強いて言えば、おとなしくしているという字はリアンに存在しないわけだが、同じくそれを気にするリアンもいなかった。
***
時が流れるのは意外と早い。リアンはそう思う。なぜなら今日はもう、お披露目会だからだ。
「アデル・クラウ・アングニュートル殿下の入場ですっ」
その会場全体に響き渡る声に、皆が一斉に入口を見た。そこには赤茶の髪に碧眼の少年がいた。彼は進み出て、リアンの元にきた。
「お久しぶりです、姉上」
「久しぶりですね、アデル」
リアンが彼をアデルと呼んだことで皆が本物だと確信した。
「公爵に保護されたと聞いたときには心底驚かされました」
「ええ。自分でも奇跡だと思います。……ではまた今度、私がいなかった間の話を聞かせてください」
「勿論です」
そう言ってリアンはアデルが去った後に壁際に移動しようとするが、やはり姫という肩書きのせいだろうか、すぐ貴族たちに捕まった。
「殿下、ヤバライカから婚約の打診がありましたとお聞きしましたが」
「ええ。そのようです。ですが、あまりにも突然のことで戸惑ってしまって……」
「それはそれは。確かに三度目があると誰が考えたでしょう」
訳すると、王女のくせに二回も破棄するとは何様だ。いい加減、諦めろ。となる。王家に対する立派な不敬罪だが、貴族をこの程度でやるのはたかが知れてるし、言葉からして賛同派のため、公爵などに庇われて終わるだろう。
だがそれを考える間も無く、リアンは見事なカウンターブローを放った。
「はい。ですからこの件は陛下と話し合っていくつもりです」
リアンは、諦めるつもりはない。それにお前ごときが口出しするな。と返した。
「そうですか。では、これで失礼」
一見、その貴族はにこやかな表情を作っているが、額には青筋ができており、目も笑っていなかった。
リアンはこっそりため息をつくと、素早く壁際に移動しようとしたが、結局壁際に着くまでに十数人の貴族に捕まった。そのため、リアンは壁際に行ってまず話しかけるなオーラを放った。どうやらとても効果的ーーしかも王子がいたことから、皆が王子の方に話しかけに言った。おかげでゆっくりと思考することができる。
リアンは先ほどのアデルを思い返していた。どこか他人行儀だったのは、しばらく顔を合わせていなかったせいだとはリアンは微塵も考えなかった。だって、リアンは確信したのだ。
(アデル・クラウ・アングニュートルですって? なんて馬鹿馬鹿しい)
公爵に保護されたという少年は偽物だとーー




