37. 笑うモノ
「リアン様。わたくしの証人となってくださらない?」
シェターニアはこう言っているが、本人は応を微塵も疑っていない。
「勿論です。そのために来ましたから」
「感謝いたします。では、作戦会議を始めましょう」
***
お茶会終了後。リアンの部屋にて。
「で、成果は?」
ソファーで寛ぐリアンは正面に座るイベルを見据える。
イベルは報告書をまとめてリアンに渡した。
「はい、どうやら少し、焦っているようですね」
「ええ、そうでなくては、一週間も時期をずらした母が哀れね」
今回のイドルイデ訪問による一週間のズレは全て、女王が仕組んだことであった。
一週間ずらすことにより、シェターニアに危害を加えようとする奴らを焦らせるのが目的である。
だが、これは他の貴族たちも巻き込むため、一週間以上ずらせない……というか、よく一週間もずらせたものである。それに下手すると信用問題に発展するため、諸刃の剣であった。
「ですが、やはりまだ本体は掴めません」
「それだけで、十分絞れそうだけど」
この国は情報網が他の国よりしっかりしている。そのため、それの目を背けられるのは、王族、もしくは王族に近い貴族となる。
だが、貴族とはやはり面倒なもので……誰がどこに繋がっているかわからない今、迂闊な行動は避けたいところ。であれば、やることは必然的に情報の収集になるわけで……。
「もう少し探ってみましょう」
「頼んだわよ」
イベルは会釈すると、部屋をさっていった。
リアンが異変に気づくのは、次の日のことである。
***
翌日。
視察後、特に予定がなかったリアンにシェターニアからのお茶会の招待があった。
そこにはエランの姿がなかった。
聞くと急ということもあり、忙しくて来れなかったらしい。
おかしい。
なら、昨日のお茶会で明日の開催も話せばよかったはずだ。
リアンの頭に何かの違和感が駆け巡る。
その違和感の正体はすぐに掴めた。
よく見ると、シェターニアの目の色が違うのだ。
昨日までは少し黄色も混じったような緑だったが、今日は少しくすんだ緑だった。
(なるほど……偽物、ね)
実によく出来ている。
リアンも『エランが来ていない』ことを知って初めて気づいたのだから。
エランは抜けているよう……実際に抜けているが、結構鋭い。だからおそらくエランなら今のシェターニアを見ただけで一瞬で偽物と分かるだろう。
だからエランは呼ばなかった。
呼べば、その瞬間に違和感を感じとるだろうから。
シェターニアを玉座から引き離すには、シェターニアに王位継承権放棄を宣言させるのが一番安全だ。
だが、シェターニアの性格なら、いくら脅しても最終的には玉座を手にする、強かな女性だ。
ならばどうするか。
簡単だ。
宣言するのは何も本物でなくていい。
一瞬でもシェターニアに化け、破棄を承認させればいい。
たとえ偽物でなくとも事実さえ残れば、シェターニアといえど、復帰は難しい。
そして交換したシェターニアを人質としてリアンを脅せば、下手な発言は出来なくなる。
そしてリアンは確信する。
シェターニアを人質に取られた。
確かに、本物と偽物を交換するのに、今ほどちょうど良い時期はない。
(なるほど……そういうことか)
リアンはたった今、犯人を見つけた。
その人はリアンにだけ解るように、うっすらと笑みを浮かべて笑っていた。




