35. 一日目 前編
イドルイデ国に向かって走っていったアングニュートルの馬車は予定通りの四日の道のりで到着した。
そのまま王宮の中に入り、王に謁見する。
リアンは片膝をつき、顔を上げる。
目の前には三十代あたりの黒髪に緑眼の男性が玉座に座っていた。
「お久しぶりでございます、陛下。本日はシェターニア殿の成人式に招待してくださり、ありがとうございます」
「よくぞ参られた、アングニュートル殿。シェターニアのために参られたことに感謝する」
王は傍にいるシェターニアの方に目を向ける。
するとシェターニアが一歩前に進んだ。
「初めまして、アングニュートル様。シェターニアと申します。以後お見知り置きを」
つい最近まで引きこもっていたとは思えないほど綺麗なカーテシーに、後方から息を呑む気配がする。
これが終われば、貴族たちの挨拶が始まる。
早く終わってくれないかな、とリアンはこっそりため息を吐いた。
***
「終わったぁ〜」
長々と挨拶され、ようやく解放されたリアンは与えられた個室にあるソファーに座った。
この後は特に何もないので、夜の夜会のために一睡しようとリアンは寝室に向かう。
そこでふと足を止める。
思い出すのは先ほどのシェターニアのカーテシー。
あれは決して一日や二日でできる動きではない。明らかにあれは“王教育“がされている。同じ教育を受けたリアンだからこそ分かることである。さらにそれも、一瞬で習得できるものではないため、シェターニアは相当昔から王になることが決まっていたようだ。であれば、自然とシェターニアの病弱も貴族の目を避けるためのものと考えられるだろう。
となると、イドルイデの王は相当なものだろう。シェターニアは離宮で王教育を受けていたことに気づかせない情報力、必要最低限の数でこなす人材把握力と収集。敵に回したくない存在だ。
そこであっと思い出す。
リアンは急いでイベルを呼ぶように言う。
すると五分も待たずにイベルがやってきた。
「今回はなんですか」
こういう時って大抵ろくなことがない、と呟くイベルを無視してリアンは自身の懐を漁る。
「これ」
リアンは懐から箱を取り出し、イベルに渡す。
イベルはその中身を見て、目を見開いた。
「……!!……これは」
「それ」を持つ手が緊張で震えている。
そこには普段国の中でも最も厳重な宝物庫に入れられるものーー
ーー同盟の腕輪がそこに眠っていた。
イベルは慎重に隅々まで確認して箱を閉じる。
「預かっていろ……と言うことですか」
「ええ。侍女に預けて欲しい」
するとイベルは戸惑いながらも頷き、部屋を出る。
その様子を見届けたリアンは今度こそ寝れるかな、と寝室に向かった。




