32. 女王の呼び出し
二週間後。
リアンの姉のエランはイドルイデに帰った。そしてようやく処分が決まった婚約破棄が公表された。
そしてリアンは現在、女王の執務室の前にいる。
コンコンとリアンは軽く扉を鳴らす。
「どうぞ」
扉を開けて中に入ると、書類に囲まれた女王がいた。
女王はリアンが入ってくるなり顔を上げた。
「リアン、久しぶりですね」
「はい、久しぶりです。……今回はどんなご用件ですか」
「あなたのイドルイデ国の訪問についてですが、一週間早まりました」
「そうですか」
これは予想していたので、正直驚かなかった。
「それと……」
女王は引き出しから書類の束を取り出すと、リアンに渡した。
「そこの書類はあなた宛のものです」
リアンは渡された書類に目を通す。
そして何回も書類の初めの文を読み返す。
そこには紛うことなく「縁談」とあった。
「……は?」
顔を上げると、女王が腹黒スマイルで待ち構えていた。
「さすがに、この年で婚約者がいないのは問題だとありまして。試しに集めてみたらすごい量ですね。驚きました。しかも、隣国からも来ていますよ」
リアンは笑った。但し、目は全く笑っていなかった。
「要らぬ贈り物ですね。……これは早々に燃えるゴミに分別しなければ」
リアンは握り潰しそうになるのを必死で堪え、代わりに反対の手で服を握り締める。
「ええ、私としても、これが一刻も早く燃えるゴミに分別できればなんと良いことか」
そう言ってにっこりと微笑む女王は完全にこの場を楽しんでいた。
(ひどい母親ね……)
娘に対してそれはどうかと思うが、自分も母に同じようなことをしているのを思い出し、その言葉を飲み込んだ。
「これでも少ない方ですが」
「わかっていますよ」
リアンは飛びっ切りの笑顔を女王に向けた。
「それに、私が不満なのはこれの量ではなく、存在なので」
「ふふふ、あなたならそう言うと思いました」
これすらも受け流されたため、リアンはこれ以上仕掛けるのを諦めた。
「もう戻っても?」
「どうぞ。それとリアン、随分と楽しそうね?」
ドアノブに触れる直前、一瞬だけ手が止まる。
「……失礼します」
その動揺を隠すようにリアンは平然とした顔で扉を閉めた。
自室に戻った途端、リアンの顔は思案顔になる。
計画は明らかにバレている。影か。
「リアン様、お戻りになられましたか」
リアンは顔を上げるまでもなく、イベルだと特定すると、命令を下す。
「今すぐみんなを呼んで。会議を開始する」
「承知しました」
影とは女王が持つ精鋭の諜報機関です。




