29. 面倒事
毎度申し訳ありません。
姉の嫁ぎ先をイドルイデ王国に変更しました。
「なぜこんな所にいるのですか、姉上ッ」
彼女――エラン・クリス・オルナージェはかすかに目を見開いた後、肩をすくめた。
「バレたか。今回の変装は渾身の力作だったのに……。まあ、ここじゃ落ち着かないから、終わったらこっそり会いに行くよ。これでも隠蔽工作は得意なんでね」
「はい?終わったら会いに行く、ですって?」
――まさか、お母様もグルだったの?
そう聞こうとリアンが口を開く前に、エランはリアンの背中を押した。
「気にしない、気にしない。さあ、行っておいで。挨拶はまだ終わっていないでしょ?」
確かに先程終えた挨拶は高位の貴族たちの挨拶だったので、実を言えばこの後倍くらい残っていた。高位の貴族ではないので断ることもできるが、その中から今後有力な貴族が生まれるかもしれないと思うと、断りずらい。
リアンはエランを軽く睨むと、渋々会場の方に戻って行った。
***
リアンはやっとの事で挨拶を全て終わらせると、自室に戻って着替えを済ませた。
その後、女王に言われてやってきた部屋にはすでに女王とエランがいた。
女王はリアンと同様、着替えたようであったが、エランはクリスと名乗ったまんまだった。
リアンはエランに促されて、女王の正面に座ると、エランが口を開いた。
「久しぶりだね、リアン。なんか最近すごいことが起きたようだけど」
「ええ、起きたわね。それにしても、なぜ姉上がいらっしゃるのです」
「そりゃ、妹が心配で来てやったんじゃないか」
「本当にそれだけですか」
その質問にエランは無言で笑みを浮かべた。
ものすごく怪しい。
だが、姉のことだ。
先程何も言わなかった時点でどんなに尋問しても、答えないのは目に見えている。
リアンは仕方ないと諦めた。
「では、そろそろ本題に入りましょうか」
その一言にリアンはとてつもなく嫌な予感を感じた。
十中八九、間違いなく面倒ごとだ。
その予感を的中させるかのように女王はニコリと笑った。
「今回ここにあなたを呼び出したのは、あなたにイドルイデ国に特使として第一王女シェターニアの成人式に出てもらう為です」
――その一言でリアンは全てを理解した、いや、してしまった。
リアンは頭を抱えたくなるのを抑え、姉を睨む。
(なんて面倒なこと……!)
だが、当の姉はそんな怨念のこもった眼差しを無視し、「後はよろしく」と言わんばかりに微笑んだ。




