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12. イベルの女装


「リアン様、バンザイ!!」イベルは内心棒読みで叫んだ。

イベルは女装している。そして今、襲われかけている。

なぜかは一時間前に遡る。



夜会にて。

リアンは貴族たちとラディムに挨拶をしてから

サロンに向かった。

そこにはランとコレーと女装したイベルがいた。


「あとよろしく」


リアンは素早くドレスから平民が着るような服に外套を被る。


「リアン様、どこに行かれるんですか?」


「ふふ。内緒」


リアンは行きたい場所があると言って途中から抜け出すことになっている。


サッとリアンは二階の窓から飛び降りた。門番は買収済みである。

リアンは素早く裏門を抜け出すと魔道具を使った。



イベルはリアンが去るなり会場に戻った。


「リアン」


イベルは振り返った。既に従者がいないのは説明済みである。嘘だが。


「一曲踊ってもらおう」


イベルはラディムが出した手に手を重ねる。

こういう事態を予測したリアンからは女性のダンスも叩き込まれている。それにこれが初めてではないのだ。

リアンは踊る時、必ず最初に握られた手の小指が微かにぴくっと動く。それすらも叩き込まれた。

今のイベルがリアンだと気づくものはこの国では片手で数えるほどしかない。その中の人も女王を除けばよく見ないとわからないという。


ダンスを終えた後、イベルはサロンに戻った。本来ならリアンが主催なので戻ることはないが、そこはうまくコレーたちに任せた。

イベルは少し休もうとサロンに来たのだが、客が来たようだ。

このサロンは共同なので他の人も入ってこれるのだ。


「おや、殿下。お休みですか?」


やってきたのは侯爵家当主、ナライマ・イルオールだ。


「ええ。主催ですから」


「こんなところにいてもいいのです?」


「少しなら、埋め合わせができますから」


「…少し、ですか。なら、私に付き合ってください」


カチャン。

この甲高い音は聞きなれた鍵が閉まる音だ。

グッと侯爵がリアンの腕を掴む。

次の瞬間、イベルは侯爵に回し蹴りを食らわせた。

顔に怪我ができないように気を使って。こちらも男なのだ。ここで遊んで暮らしてきた貴族なんかに負けるのは悔しい。


突然回し蹴りを食らった侯爵は目を白黒にさせた。

いいザマだ。

本来なら自分の主人が襲われるところだったのだ。そう考えるとどす黒いものが溢れ出す。

リアンには計画があった。

そのうちの一つはラディムとリアンの婚約に反対の貴族を誘い出し、見つけて足止めをすること。

つまりはイベルは餌だったのだ。

従者というボディーガードがいなくなったリアンを、絶好の機会だと近づいてきた獲物を捕まえるものだ。

まさかその従者がリアンになっているとはつゆほどにも思わないだろう。

作戦成功。侯爵が引っかかったのだった。





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