9.夜会 後編
「リアン」
突然声をかけられ、リアンは動揺を隠す。
「……ラディム殿ですか」
「俺と最初のダンスを踊ってもらおう」
するとゼペルがリアンとラディムを隔てるように手を出した。
「待て。彼女とは私が先に踊る予定だ」
ラディムはゼペルの顔をジーっと見た後に口を開く。
「……誰だ?」
「なっ!セルジェ侯爵家長男、ゼペルだっ!」
ラディムはゼペルの台詞に目を細める。
「ほう。たかが侯爵家の長男が俺に口答えか」
「!!」
「俺がその気になればお前なんか平民同然……いや、それ以下だ」
「へ、平民以下っ!!」
ゼペルが暴走しそうな様子を見て、リアンはラディムに頭を下げた。
「それくらいにしてください。我が国の者が失礼しました。お詫びします」
「なら、俺と一曲踊ってもらおう」
スッーとラディムがリアンに手を出す。リアンは迷いなく、その手を取った。
ゼペルが絶句してこちらを見るが、これは仕方ない。
リアンは内にある動揺を隠し、ラディムと会場の真ん中に行く。
すると気づいたのが、会場の皆がこちらを見ている。貴族たちは二人の通る道を開け、壁側に寄る。中心で再び出された手をリアンが取ると音楽が鳴り始めた。踊ってすぐにリアンはラディムに驚かされた。ラディムのリードが完璧なのだ。これほど踊りやすい人はなかなかいない。
時間の経過するごとにどんどんダンスの難易度が上がっていく。それでも、まだ完璧なまでのリードをする。自分はラディムに対する評価を改めなければならない。…もしかすると、自分は根本的な何かを改めなければならないのではないか、と感じたリアンだった。
*
ダンスが終わるとラディムは最初の登場が嘘かのように、即座に部屋に戻っていった。
あまりにもあっけらかんとしていたので、リアンはしばらく放心状態だった。
*
ラディムは部屋に戻るなり、少女のティナに出迎えられた。
「もう、殿下ったら〜。早く戻ってくるっていって、全然戻ってこなかったじゃないですか!」
「俺なりには早く戻ってきたつもりだったが」
「遅いですっ!」
扉の前で仁王立ちされて居心地の悪く感じたラディムは、通せんぼしてるティナに言った。
「なあ、早く部屋に入れてくれないか」
「あ、すみません」
ようやくティナが扉から離れるとラディムが部屋に入っていった。
「で、殿下。今回は何をやらかしたんですか」
「……なんだよ、まるで俺が毎回何かをやらかしているって台詞は」
「だってわざとやってくるって宣言したの、殿下じゃないですか!」
「確かにしたさ。でも、毎回とは言ってない」
可愛らしく頬を膨らませるティナが子供っぽく感じ、ラディムは視線を外した。
「……悪いな。おまえまで、巻き込んで」
「悪いのは殿下じゃありません!皇帝陛下の方ですっ!……あんな無茶な要求、できるわけ、ないじゃないですか」
小さい肩を震わせるティナを慰める言葉が咄嗟に見つからず、ラディムは肩をすくめる。
「仕方ないんだ。俺の味方は弟と比べると圧倒的に少ない」
「でも、でもっ」
今にも泣き出しそうなティナを見て、咄嗟にその肩を掴んだ。
「泣くな」
すると自分が泣き出しそうになったのに気づいたのか、ティナは涙をこすった。
「俺が今ここに入れるのも、全部おまえのおかげだ。じゃなきゃ俺は今、首と胴が別の場所にいたよ」
ラディムが部屋から帝国のある方向に顔を向けると、ティナもそちらを見た。
「俺だって、無策なわけじゃない。ちゃんと勝ってみせる。それまで、おまえはここで待ってろ」
後もうひと押したとラディムはティナの顔を覗く。
「いいな」
ティナがコクリと頷いたのを見て、ラディムは動き出した。




