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9.夜会 後編


「リアン」


突然声をかけられ、リアンは動揺を隠す。


「……ラディム殿ですか」


「俺と最初のダンスを踊ってもらおう」


するとゼペルがリアンとラディムを隔てるように手を出した。


「待て。彼女とは私が先に踊る予定だ」


ラディムはゼペルの顔をジーっと見た後に口を開く。


「……誰だ?」


「なっ!セルジェ侯爵家長男、ゼペルだっ!」


ラディムはゼペルの台詞に目を細める。


「ほう。たかが侯爵家の長男が俺に口答えか」


「!!」


「俺がその気になればお前なんか平民同然……いや、それ以下だ」


「へ、平民以下っ!!」


ゼペルが暴走しそうな様子を見て、リアンはラディムに頭を下げた。


「それくらいにしてください。我が国の者が失礼しました。お詫びします」


「なら、俺と一曲踊ってもらおう」


スッーとラディムがリアンに手を出す。リアンは迷いなく、その手を取った。

ゼペルが絶句してこちらを見るが、これは仕方ない。

リアンは内にある動揺を隠し、ラディムと会場の真ん中に行く。

すると気づいたのが、会場の皆がこちらを見ている。貴族たちは二人の通る道を開け、壁側に寄る。中心で再び出された手をリアンが取ると音楽が鳴り始めた。踊ってすぐにリアンはラディムに驚かされた。ラディムのリードが完璧なのだ。これほど踊りやすい人はなかなかいない。

時間の経過するごとにどんどんダンスの難易度が上がっていく。それでも、まだ完璧なまでのリードをする。自分はラディムに対する評価を改めなければならない。…もしかすると、自分は根本的な何かを改めなければならないのではないか、と感じたリアンだった。



ダンスが終わるとラディムは最初の登場が嘘かのように、即座に部屋に戻っていった。

あまりにもあっけらかんとしていたので、リアンはしばらく放心状態だった。



ラディムは部屋に戻るなり、少女のティナに出迎えられた。


「もう、殿下ったら〜。早く戻ってくるっていって、全然戻ってこなかったじゃないですか!」


「俺なりには早く戻ってきたつもりだったが」


「遅いですっ!」


扉の前で仁王立ちされて居心地の悪く感じたラディムは、通せんぼしてるティナに言った。


「なあ、早く部屋に入れてくれないか」


「あ、すみません」


ようやくティナが扉から離れるとラディムが部屋に入っていった。


「で、殿下。今回は何をやらかしたんですか」


「……なんだよ、まるで俺が毎回何かをやらかしているって台詞は」


「だってわざとやってくるって宣言したの、殿下じゃないですか!」


「確かにしたさ。でも、毎回とは言ってない」


可愛らしく頬を膨らませるティナが子供っぽく感じ、ラディムは視線を外した。


「……悪いな。おまえまで、巻き込んで」


「悪いのは殿下じゃありません!皇帝陛下の方ですっ!……あんな無茶な要求、できるわけ、ないじゃないですか」


小さい肩を震わせるティナを慰める言葉が咄嗟に見つからず、ラディムは肩をすくめる。


「仕方ないんだ。俺の味方は弟と比べると圧倒的に少ない」


「でも、でもっ」


今にも泣き出しそうなティナを見て、咄嗟にその肩を掴んだ。


「泣くな」


すると自分が泣き出しそうになったのに気づいたのか、ティナは涙をこすった。


「俺が今ここに入れるのも、全部おまえのおかげだ。じゃなきゃ俺は今、首と胴が別の場所にいたよ」


ラディムが部屋から帝国のある方向に顔を向けると、ティナもそちらを見た。


「俺だって、無策なわけじゃない。ちゃんと勝ってみせる。それまで、おまえはここで待ってろ」


後もうひと押したとラディムはティナの顔を覗く。


「いいな」


ティナがコクリと頷いたのを見て、ラディムは動き出した。





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