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悪魔憑きの少年  作者: じゃらん
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兄と妹

 朝から寒い日だった。


 そろそろ日が出始めるといった頃に、少年は目覚めた。少年と言っても身長は大人ほどで、百七十センチ半ばぐらいある。身体は筋肉質だが細身のため、筋骨隆々というよりはしなやかな筋肉だ。髪は目にかかる程度の長さのふんわりとした髪型で、髪色は真っ黒。顔立ちは端正で少しつり目なため、クールな雰囲気がある。服装は赤いシャツに紺色のジーンズを着ている。


「……空腹のせいか大して眠れなかったな」


 誰に言うともなく呟いて、眠い目を擦りながら上体を起こす。そのまま布団から出ようとすると布団の中からむにゃむにゃ寝言が聞こえた。


「んぁ……」


 同じ布団に寝ていた少女が毛布を取られてしまうと思ったのか、寝たまま無意識に毛布を引っ張る。身長は百五十センチに届かないぐらいで、体格は太っても痩せてもいないが肉付きは良い。髪は緩いウェーブのかかった腰ぐらいまである長髪で、髪色はピンク色。顔立ちは目尻も眉毛も下がり気味で、髪型がふわっとしていることも相まって、柔和な印象を受ける。服装は白いTシャツにモスグリーンのカーゴパンツを着ている。


「二度寝するつもりはないから後は好きに使っていいぞ」


 そう言いながら、少女の髪を撫でつける少年はとても優しい目をしていた。少年の名はカイル。歳は十七。眠っている少女の兄だ。少女の歳は十二。訳あって二人で暮らしている。


 毛布では足りなかったのか、毛布から飛び出した少女の片手が何かを探すように彷徨う。触れたものをぎゅっと掴んだかと思えば、目当てのものでなかったのかすぐに手離し、また何かを求めて少女の手は彷徨うことを繰り返す。手近にあった毛布はその犠牲になり掴まれるたびに皺を増やした。


 カイルは少女の様子を訝しんでいたが、少し考えて得心が行った。隣にあった体温が急にいなくなったのが原因だろう。今日は特別寒いので、気持ちはわからなくもない。


 彷徨っていた手を握って、カイルは少女に語りかける。


「兄ちゃんはもう仕事の時間だ。帰ってきたらまた湯たんぽになってやるよ」


 そうすると、ようやく意識が覚醒したのか少女は目を開けて体を起こし、拳を固めて両手を広げぐーっと伸びをする。張り詰めた状態から息を吐きながら一気に脱力する。そうして、カイルに体を向けて、


「おはよう、お兄ちゃん」


 と、満面の笑みを浮かべて元気に挨拶する。


「おはよう、ティアナ。体調は大丈夫か?」


「うん。お兄ちゃんと寝たからとっても元気! でもね、怖い夢を見たんだ」


「怖い夢? どんな夢なんだ?」


「うーん。詳しくは覚えてないんだけど、とにかくお兄ちゃんがいなくなっちゃう夢」


「俺が?」


 思わずカイルは眉を顰める。ティアナと呼ばれたその少女は、それに気づかないまま喋り続けた。


「うん。夢の中でたくさん探したけど、全然見つからないの。それで私、立ち止まってずっと泣いてたの。もうお兄ちゃんに会えないんだって。でも、お兄ちゃんが手を握ってくれたおかげで起きれたんだ。ありがとう、お兄ちゃん。でも、勝手にいなくなったらダメだよ?」


 そう言って、ティアナは無邪気な笑顔を浮かべる。


 ティアナの彷徨っていた手は体温としてのカイルではなく、カイル自体を求めていたらしい。


 カイルは思わずティアナを抱きしめる。妹の言葉に感慨深いものがあったのも確かだが、目尻に溜まった涙を妹に見られるわけにはいかないというのが一番の理由だ。

 ティアナは一瞬驚いた様子だったが、同じようにカイルを抱きしめた。その体勢のまま、嗚咽が交じらないようにカイルは静かに囁く。


「それは俺じゃなくて夢の中の俺に言ってくれ。夢の中まで出張ってたら本当に倒れちまう」


「あはは。それもそうだね」


 ティアナは笑って応じる。


 嗚咽が混じる心配はなさそうなので、普段通りの声量でカイルは言葉を続ける。


「それに、俺がティアナを置いてどこかに行くわけないだろ。あり得ないことが起こるシナリオなんて、夢にしても出来が悪いな」


「私が考えたわけじゃないもん!」


 カイルにそんな意図は全くなかったが、ティアナがムキーッと憤慨する。その反応に対して、つい、


「ティアナに対して言ったわけじゃないよ。まあ、反応するってことは不出来な心当たりがあるのかもしれないけど」


 と、からかった。その言葉に、ティアナが「もーっ!」とカイルの後ろに回していた両手で、カイルの背中をポコポコ叩く。力が入りにくい体勢なので大して痛くはない。普段から力仕事をしているので筋肉がついているのも一つの理由かもしれない。カイルは笑いながら可愛い殴打を受け容れる。

 そんなことをしているうちに、涙はいつの間にか乾いていた。


 殴打が収まってきた頃にはティアナは肩で息をしていた。その様子にカイルは過剰に反応する。抱擁を解いてティアナの肩を掴んで問いかける。


「大丈夫かティアナ? ごめんな、兄ちゃんが調子乗りすぎた。どこか痛かったりしないか?」


「なんで殴った側の私が殴られた側のお兄ちゃんに心配されてるの!? 大丈夫だって。むしろ少し体を動かしたことで体がいい感じに温まってきたよ。この状態の私には流石のお兄ちゃんも敵わないかもよ?」


 とか言いながら立ち上がったティアナは「シュッシュッ」と口で言いながらシャドーボクシングをしている。その様子を見たカイルはほっと胸を撫で下ろす。同じように立ち上がって、目線より下にあるティアナの頭にポンッと手を置いて、ニッと笑う。


「そりゃあとっても怖いな。怖くてお腹が空いてきちまった。飯にしようぜ」


「話のつながりがおかしいよ! ご飯食べたいだけでしょ!」


 その反応にカイルが笑って、つられてティアナも笑った。


 ひとしきり笑った後に二人は朝食を食べる。


 献立はパンと干し肉と野菜、それと水だ。


 パンは形が不揃いで一つ一つは大した大きさではないが、個数は多いため量としては二人で食べるには十分だ。不揃いなのはその方が安いためである。形が違うだけで味は同じだとカイルは考えている。


 干し肉は王都の肉屋で売れ残って安くなった肉を、自家製で塩漬けにして干したものである。


 野菜は王都の野菜売りで、傷がついたり形が不揃いで売り物にならないが食べれるものを、元の値段より安く買っている。今日はキャベツときゅうりを千切りにしたものに、塩と油と酢が混ざったドレッシングをかけたサラダだ。


 水は王都の公園から汲んできたものだが、長年同じものを飲んでいるのでほぼ危険はない。


 脚の低い丸いテーブルに面と向かって座り、食事のあいさつをする。


「「いただきます」」


 昨日あったことなどを談笑しながら食べて、食べ終えるとカイルは立ち上がって仕事に行く準備をする。黒いパーカーをジッパーを閉めずに羽織って、カバンに革の水袋や昼食を詰めてカバンを肩にかける。


「そろそろ行ってくる」


「うん。あんまり無理はしないでね」


「毎日言わなくてもわかってるよ。ティアナも具合が悪くなったら、家事はせずに大人しく寝るんだぞ」


「はーい」


 気の抜けた返事でティアナが応答して、「本当に大丈夫なんだろうな……」とカイルはため息を漏らす。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 ドアを開けて家を出る。外には嗅ぎ慣れた悪臭が漂っている。家から遠くにあるにもかかわらず、堆積しすぎてかつて川だった土地を埋め尽くし、山となっているごみからの悪臭が。


 ここはスラム街。壁に覆われた王都に隣接している、行き場を失くした人とごみの集積地。

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