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二十六、宿縁

「これはまた懐かしい」


 振り下ろされた刃をかわし、義経は船べりに片手で逆立ちするようにして再び短剣を投げつける。

 魔力を帯びた短剣は魔術障壁を突き破り、俺の腹に穴を穿(うが)とうとする。……が、その前に掴んで止めた。


「とどめです」


 刹那(せつな)、腕に鋭い痛みが走る。どこに隠していたのか、投げつけられた短剣より少しばかり長い片手剣が視界に映る。

 切り裂かれ、血飛沫を上げて胴体から離れた二の腕を幻視する。一寸先の未来だが、回避する術はない……ように、見えた。

 もう片方の手で二の腕を押さえ、そのまま足払いを仕掛ける。相手の身体を巻き込んで甲板を転がれば、身体の均衡(きんこう)を崩した義経は逃れるように俺から距離をとる。血は溢れ出したが、まだ、腕は繋がっている。


「……ハッ、流石は義経……!! わが敵として不足なし!!」


 剣を拾い上げ、両手で構え直す。

 まだ勝機はある。必ずや……必ずや、仕留めてみせる。


「このクエルボを見本とせよ」

「……あ?」


 義経の言葉に呼応するように、ひらりと舞う影が視界に映る。


「……ッ!!!」


 影の正体を掴む前に、エスパダ・ロペラの一撃が、足の甲を貫いた。


「素晴らしい。良い攻撃でしたよ、クルス」

「……兄様、今の私はカミーノ・デ・ラ・フスティシアだ」

「そんなこと、どうでも良いではないですか」


 甲板に縫い付けられた足から血が流れ出す。

 完全に一騎打ちのつもりでいたが……元より奇襲を仕掛けたのはこちらだ。卑怯と非難する資格はない。

 ……それに、ここは戦場だ。卑怯も清廉(せいれん)も関係はない。勝つか負けるか、生きるか死ぬか、それだけだ。


「貴方は甘いのですよ、知盛」


 細い瞳を少しだけ見開き、義経は静かに語る。


「僕の勝ちですね」


 足がズキズキと痛む。

 視界がチラチラと明滅(めいめつ)する。

 ……が、まだだ。まだ、勝負は決まっちゃいない。

 握り締めた剣を足元に投げ捨てる。突き刺さったエスパダ・ロペラを引き抜き、血を払う。ふらつきはするが、構うものか。俺はまだやれる。


「まだ戦うか」


 凛とした声で、仮面の騎士は語る。


「案ずるな。王子に非道な真似などさせない。……私が守り抜こう」

「ああ、もう。本当に(かたく)なですね、クルスは……」

「カミーノ・デ・ラ・フスティシアだ」


 騎士は、毅然(きぜん)と佇む。

 俺はその喉にエスパダ・ロペラを突きつけ、笑った。


「関係ねぇ。たとえこの命尽きても、一門の雪辱(せつじょく)を……」


 ──ズィルバー

 ──お前は、何を見ている?


 ふと、カサンドラの声が脳裏に閃く。


「ズィルバー!!」


 殿下の声に、はっと我に帰る。

 (まばゆ)い光が瞼を突き刺し、雷が(とどろ)く。


「加勢します! 絶対に死なせませんからね!!」


 光に眩んだ目が、甲板に仁王(におう)立ちした姿を捉える。

 アントーニョ殿下がロレンソの首を片手に、金の瞳を煌々(こうこう)と輝かせていた。

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