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十四、苦渋の選択

「我々は殿下に恨みはないが、武功を立てる必要はある」


 生首だけの男は、明朗とした声で語る。


「……少なくとも今は、例の大臣の敵対派閥が幅をきかせてる。殿下を殺せば、そりゃあ大きな武功になるだろうよ」

 

 俺の言葉に、生首……ロレンソは「ご明察」と返す。

 さっきの会話を思うに、この2人は元々立場がいい方ではないんだろう。……で、自分たちを守るために手柄が必要だった、と。


「……てめぇらさえ良けりゃ、それで良いと?」


 俺の追求に、ロレンソは押し黙る。……と、今度はカサンドラが口を開いた。


「私は宮廷魔術師。……魔術騎士に魔術を教える他に、もう一つ役割がある」


 カサンドラはあくまで堂々と、言葉を続ける。


「預言……といえば、察しもつくであろう」

「……なるほどな」


 この女は、おそらく凶兆を()ちまった。

 ……現在力を持った派閥には未来がなく、いずれ滅びが待ち受けている、ということを。


「『切り札』である殿下を始末せねば、私は今度こそ火刑となる運命よ」


 今度こそ、という言葉が、事態の重さを示している。……自分の命と他人の命、天秤にかけて他人を取れるヤツは、確かに偉大だ。

 だが、「黙って死ね」と言われて納得できる人間なんてそうそういない。


「……ロレンソよ。済まない。私のためにおまえをこのような姿にしてしまったな」


 抱えた首を、カサンドラは愛おしげに撫で続ける。


「……敵であるきさまにこのようなことを頼むのはおかしいだろうが……カサンドラだけは、助けてやってくれないか」


 ロレンソは玉虫色の目をこちらに向け、頼み込む。

 あのナリじゃ頭を下げることもできないが、真剣なのは目を見りゃわかる。


「彼女の預言は、きっと旅に役立つ」

「……なるほどな。情報を売ることはできないが、預言ならどうとでも言い訳できるってわけか」


 まじないだの預言だの、にわかには信じ難いが……この世界には「魔術」がある。未来を言い当てることも、できないとは限らない。


「……で、それが信ずるに足るって証拠はあんのか?」

「そのようなもの、ある訳がなかろう」

「だったらどうする。こっちも嘘の預言で掻き回されちゃ、たまったもんじゃない」


 俺がそう言うと、ロレンソとカサンドラは顔を見合わせ、


「「私を人質にすればいい」」


 と、声までピッタリ合わせた。

 船の上に視線を向けると、殿下が心配そうに顔を出しているのがちらと見える。


「ジャック! アリー! ……また会議が要りそうだ」


 2人を呼びつけ、念の為ロレンソの首を受け取っておく。手を出せば、カサンドラは躊躇いつつ、やがて渋々と恋人を差し出した。

 ……まったく、騒々しいのはしばらく続きそうだ。

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