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十三、交渉開始

「……まさか、そのナリで生きてるとはなァ……」


 どおりで、死体というたび怒ったわけだ。

 しかし……生首になっても喋るたァ、将門(まさかど)じゃあるまいし……妙なこともあるもんだ。


「きさまに首をねじ切られ、死を覚悟したが……私には帰るべき場所があった」


 首だけの状態で、奴さん……ロレンソはつらつらと語り出す。


「身体の方は失ったが、私の術を駆使すれば首だけでも、まあ、どうにかなる」

「ふふふ、さすがは私のロレンソであろう」


 カサンドラは生首に頬擦りし、なぜか誇らしげだ。

 ……このまま船に帰って、そのまま出航したい。そんな気分にもなってくる。


「気が変わった。ロレンソが言うならば仕方あるまい。見逃してやろう」


 カサンドラはさっきまで気圧されていたくせに、ふふん、と上機嫌で胸を張る。


「いや、見逃すのはこっちだろ」

「何を(たわ)けたことを。私の術で腹の中から破裂するはずだったのはお前の方ではないか」

「殺す覚悟がなかったせいで、首をはねられそうだったのはどこのどいつだったか……」

「ふ、ふん! 理由がどうあれ、私が本気を出していれば、今頃お前なぞ消し炭よ」


 本気を出せなかったから……なんて、言い合ったところで終わりが見えなくなるだけだ。

 俺たちにとって重要なことは一つだけ。「脅威になるか、ならないか」……それだけがわかりゃいい。


 ……半端な情けをかけて無条件に生き残らせるのは悪手だが、無駄な恨みを買うのもまた悪手と言える。


「なら、条件がある。殿下を追ってる者について教えろ」

「ほう、『不忠義者の知っていることはたかが知れている』のではなかったか?」


 にやりと笑い、カサンドラはいつかの俺の言葉を繰り返す。……ロレンソにでも聞いたか、術かなんかで遠くから見ていたのか……。


「……なら、俺がお前たちを見逃す道理はない」

「ふん、やはりそうか。……ならば、やはり腹を決めねばなるまいな」


 再び火の粉が辺りに舞い始める。……交渉決裂ってことか。なら、仕方がない。

 俺も剣を握り直し、今度こそ斬り捨てようと再び構えた。


「待った待った! カサンドラ、俺の目の前で殺されるつもりか!?」

「どうせおまえに救われねば死んでいた命よ。おまえに生き残るすべがないのなら、私も諸共に死ぬまで!」

「……カサンドラ……。わかった、せめて共に逝こう。俺を抱えたまま離さないでくれ」


 おい、何が始まってんだこれは。

 もうぶった斬っていいんだよな。


「おまえと共に逝けるのならば、地獄であろうと構わぬ」

「ああ、祖国はきみを魔女として疎んじ、魔術革命によって手のひらを返した。ここで二人果てることに後悔なんてない」


 完全に二人きりの世界に入り込んでいやがるが、やりにくいことこの上ない。

 船の上から仲間たち、そして殿下の視線を感じる。……こうなりゃ、ジャックの野郎あたりは(ほだ)されかけてるかもしれねぇ。


「てめぇらいい加減にしろ、そんなら命乞いのがマシだ」

「私に殺す覚悟を問うておいて、自らが情に流されるのか? んん?」


 この期に及んでカサンドラは挑発を止めない。どうせ死ぬなら爪痕を残してやろうって魂胆(こんたん)か……?

 船員は命懸けの冒険には慣れてる奴らばかりだが、殺し合いにそこまで慣れてるわけでもない。……船長として、戦意を失った相手を殺すとなれば、それなりに禍根(かこん)は残る。

 頭の回りそうな女だ。それくらいは考えているだろう。


「……仕方ねぇな。話し合ってやるよ」

「おっ、そうかそうか。私も愛する者と死ぬよりは、共に生きたいからな、ぜひとも話し合おう!」


 首だけの状態で、ロレンソはキリッとした視線をこちらに向ける。

 生首のくせをして、なかなかちゃっかりしてやがる。


「ロレンソ……。だが……分かっておるのか」

「……ああ、分かってる」


 二人で何やら目配せし合い、頷き合う。


「情報を渡すことはできないが、それにも理由がある。代わりにもっといい条件を提示できるが……構わないか?」

「とりあえず聞かせろ。内容による」


 ……まったく、変な二人組に出会っちまったもんだ。

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