序幕
「まず、あなたの転生に時間がかかったことをお詫びします」
闇の中で、そんな声を聞いた。
意識はゆらゆらと波間を漂うようで、肉体の感覚は既にない。
「あなたの更なる活躍を望む声を聞き届けました。あなたもまた、死してなお必要とされる魂なのです」
へぇ、俺のねぇ。
俺「も」ってことは、他にもそういうやつらがいるってわけだ。
「……ですので、その魂が存分に輝く場所にご案内します」
おいおい、だが俺はそんなこと望んじゃいない。
言ったはずだ。
「当たり前のものは全て見た……と?」
ああ、それで……だ。そこには何がある?
戦か?
汚い権力争いか?
野蛮な武士どもか?
それとも腐った公卿どもか?
「それは、あなたの目でお確かめください。けれど、これだけは伝えておきましょう」
あなたが見てきたものとは、異なる世界が広がっている……と、声だけの何かは語った。
そのまま、俺の意識は確かに肉体を形作っていく。手、足、首、心臓、胴体……
やがてまばゆい光が、俺の瞼を突き刺した。
「おい、大丈夫か?」
聞き慣れない声がする。
「よかった。てっきり死んじまったかと……」
きんきらに光った髪の男が俺を見下ろしている。
肌はやけに白く、玉虫色の目がぎょろりとして鼻が妙に高い。
「生きててよかった」
ほっとした様子で、奴は俺に手をかざした。
びり、と、体に雷が走る。知覚したばかりの肉体の動きが奪われていく。
「お前には聞きたいことが山ほどある。死なせるわけにはいかない」
俺を後ろ手に縛った縄が緩み、解けかけているのがわかる。
ああ、敵方か。
ためらわず頭突きをすると、きんきら髪は不意を突かれて後ろに転んだ。
「……やあやあ我こそはァ」
歩み寄ると、なぜかきんきら髪はひぃと情けない声を上げた。
「平清盛が四男、新中納言知盛なりィ!!」