輝夜物語
想像です。
新解釈童話シリーズです。
むかーしむかしあるところに、竹取りのミヤツコおじいさんとオウナおばあさんが住んでいました。
ミヤツコとオウナはいつも笑顔で、村でも有名なオシドリ夫婦でした。ですが、二人の間には子供がいなかったので村の人達は不思議に思っていました。。
二人の間に子供がいなかったのには理由があったのです。
何十年も昔、二人がまだ若かったとき村でも有名な美男美女夫婦でした。そのころオウナのお腹には赤ちゃんがいました。ミヤツコもオウナも待ち望んでいた赤ちゃんだったのでそれはそれは大変な喜びようでした。
ミヤツコは仕事の前に毎日毎日、無事に産まれてくるよう裏の祠にお祈りに行きました。オウナは優しく素直なミヤツコをとても愛していました。
どこまでも明るくどこまでも幸せなある日のこと。ミヤツコが仕事を終え、家に帰るとオウナがどこにもいませんでした。ミヤツコは必死にオウナを探しました。
日が沈みかけたころ、ミヤツコは探し疲れ家の前で頭を抱え座っていました。そこに1台の馬車が来ました。中には目の周りを赤くし酷く暗い顔をしたオウナが乗っていました。
オウナが降りると馬車は去っていきました。ミヤツコは疲れも忘れオウナに駆け寄りオウナを優しく抱き締めました。オウナは我慢していたのかミヤツコの暖かさに触れると大声で泣きました。
オウナが落ち着くのを待ってから、ミヤツコは何があったのかを聞きました。オウナはミヤツコの目をみておそるおそる口を開きました。
オウナの口から語られたのは、それはそれはとても信じがたい話でした。
オウナは貴族の生まれでした。物心ついたときから食べるもの、着るもの、すること、やることをすべて決められていたそうです。唯一の自由な時間は読書の時間でした。そして読んだ本に恋をする話があり、いつかその本の女の人のように恋をして、結婚をする事だけを楽しみに暮らしていたそうです。そんな時、家に舞い込んできたのが見たこともない大貴族の3番目の嫁として嫁ぐことでした。
家のためだけに結婚を決められたオウナは貴族であることに絶望し、本当の恋を探してある夜、家を脱走したそうです。ですが今まで人にすべてをやってもらっていたオウナはなにもできません。そしてお腹を空かして森で倒れているところを拾われ、この村にきたと言うものでした。拾われてきたことは知っていたミヤツコでしたが、あまりの驚きでなにも言えません。
そしてそれが今になって貴族にバレ、明日までに荷物をまとめろと帰されたようです。オウナはどこか諦めていました。そんなオウナをみてミヤツコは自分の頬を叩くと決心しました。「逃げよう。二人でどこまでも」オウナは首を縦に振り…かけましたが自分のお腹をさすると横に振りました。「この子がいるから私は走れない…どうにも逃げられない…」
八方塞がりでした。お腹の赤ちゃんを捨ててしまうことは簡単です。ですが、それをしてしまってはオウナを悲しませることになるのです。おぶっていくのも考えましたが暗い山道で人を抱えたまま歩けるとは思えません。
そんなこと考えているうちに日はすっかり沈み、空には満月が昇っていました。そして満月は赤色に染まっていました。
二人が諦めかけたそのとき月が光ったと思うと月から赤い目をした女の人が降りてきました。ミヤツコはその姿に見覚えがありました。その女の人はミヤツコが毎日裏の祠でお祈りを捧げていたツクヨミでした。するとツクヨミは笑顔で話を始めました。
「ミヤツコ、あなたは毎日私に祈りました。無事に産まれてくるようにと。私はあなた達を助けます。子供は私が預かる。あなた達は逃げなさい。ですが月の時の流れはこちらの何倍も遅い。そしてあなた達が逃げ切り、次の赤い満月のときこの子を帰しにきます。いつとは言えないですが…どうでしょう。」
ミヤツコとオウナはツクヨミの提案を受け入れました。するとツクヨミはオウナのお腹に手をかざします。次の瞬間ツクヨミの腕にはタケノコのようなものが現れました。魔法のような光景に目を白黒させているとツクヨミは「名を決めましょう。ミヤツコどうする?」と聞きました。ミヤツコは少し考えたあと深呼吸をするとツクヨミに言いました。「輝く月の夜にうまれたから輝夜にします。」ツクヨミは「良い名です。」そういうとカグヤを手に月に帰っていきました。
それが二人の間に子供がいない理由でした。実は新しい村に来てすぐに赤い満月が出たのにツクヨミは降りてきませんでした。ですが二人はツクヨミが降りてくるのを待ち続けました。
そして数十年たったある日、二人がすっかり老いぼれた時、赤い満月が昇りました。すると月が光りツクヨミが降りてきました。横には5さいぐらいの綺麗な羽衣を着た女の子がいました。
「ミヤツコ、遅くなりました。あなた達が逃げてすぐ赤い満月が出たのですがまだ産まれる前の状態だったので帰せませんでした。私は時間は戻せるのですがすすめることはできませんから…。この子がカグヤです。あなた達のことは教えてあるし、月からいつも見させていました。」
髪が綺麗で長く。ミヤツコやオウナの血をしっかりと継いでいるのかとても美人なカグヤはトコトコと二人の足により抱きつくと
「おとう…?おかあ…?会いたかった」と泣くのでした。
ですがその姿は親子と言うより孫と老夫婦です。ツクヨミはその姿を見ると頷き、手をオウナとミヤツコにかざします。するとオウナとミヤツコは若返り、三人はしっかり家族のように見えるようになりました。
そしてツクヨミはカグヤから羽衣をとるとまた頷き月に帰っていきました。
3人はツクヨミに会っていた記憶が消えていました。そして村の人もそこに老夫婦が住んでいたことを忘れていました。
ただそこには村でも有名な美しい娘と、村でも有名な美男美女の夫婦の仲の良い家族が住んでいるだけでした。
瞬く間に広がったカグヤの噂は貴族にまで届きました。それからというもの大貴族は「カグヤを是非、我が嫁に」とやって来ました。ですがカグヤはたくさんの無理難題を押し付け、大貴族追い返しました。
平民には考えられないほど良い話だったのですが、カグヤには夢があったのです。それはお母さんが読んでくれた本の女の人のように恋をして、結婚をする事だったからです。
また、家は大貴族からのお金や貢ぎ物で豊かになりましたが、ミヤツコは仕事をしっかりと続けていました。そしてカグヤの成長を毎日裏の祠に祈っているのでした。
ツクヨミはそんなミヤツコをみて、もう少し贅沢してもバチは当たらないんだけどなと微笑み。いつまでもいつまでも3人の幸せな姿を見守っていたのでした。
めでたしめでたし
恋をしてその人と添い遂げる難しさと素晴しさを感じて欲しいです