現か
「さて、貴方は確かに死んでしまったのだけれど。働きすぎて死んでしまうなんて、最近ではよくあることだけど。
貴方のような性格の人は転生するとまた同じように過労死してしまうの。周りの環境で過労死したのではなく、責任感や、自分でなんでもやらないといけないと思う貴方の性格が貴方を殺すのよ。」
いやだって、自分のプロジェクトなんだから自分がやらないと。僕が一番働いて初めてみんなついてくるんだよ。多分。
「そうして貴方は死んでしまった。結局プロジェクトも未完成なまま。」
……確かに、そうだ。
「でも貴方は成長できる。このまま記憶を失って転生してしまうと同じことを繰り返してしまうだろうけど、記憶を持ったままだったら?成長できるのでは?
記憶をもたせたまま転生させるというのは難しいけど転移させることならできる。そこで貴方は成長できる可能性がある。だから私(達)は貴方を転移させることにした。別の世界に。」
成長?成長させてどうしたいのさ?
「どうもしないわ。ただの実験ね。魂に刻まれた性格が変わることができるのかという。……ごめんなさい、怒ったかしら?でもこれは貴方にもメリットがるでしょう?真面目に取り組んでいたプロジェクトを失敗させてしまった。汚名返上したくない?」
それは確かにしたいさ。僕はどうやら失敗したらしい。このまま死ぬのも癪だ。挽回できる機会があるなら挽回したい。
みんなに迷惑をかけてしまったことは変わらないけど、失敗を次に活かすのは当然だ。
今度は死なない程度に体調管理をしながら頑張るようにする。プロジェクトを大成功に導きたい。でも何をしたらいい?何をさせたい?
「……して欲しいことは、そうね、国でも作ってもらおうかしら?」
く、国!??
「そうね、あなたの次のプロジェクトは「素晴らしい国を作ること」にしましょう。」
そんなざっくりな!?というか国を作れって、無茶すぎるだろ???
「いえ、貴方ならできるわ(笑)」
いや、半笑いじゃん!
「できなくても何もしないわ。そのまま生を全うしてくれたらそれでいい。その時は実験失敗というだけ。被験者である貴方は、貴方の思う通りに生きなさい。でも間違えないで。私(達)は貴方に、人に頼ることを覚えて欲しい。一人だけでなんとかしようとするままだと、記憶を失った転生となにも変わらない。失敗を次に活かして欲しい。
……でも性格は魂に刻まれたもの。そう簡単に変えられないわね。だから私(達)は貴方に、固有ジョブを授けるわ。その名も「他力本願」。力をうまく使って、その世界で生きてみて。そしてできれば「素晴らしい国を作ること」にチャレンジして欲しい。」
他力本願?なんだそれ?というかその世界って?
「さっき軽く行っていたでしょ?臨死体験というのだったかしら?草原で楽しそうに空を飛んでいたじゃない?」
あの世界か!確かになんとなく楽しかったような、でもなにか嫌なことがあったような……
草原を飛んで、気持ちよくて、川に出て……
そうだ!できれば姿を変えて欲しいんだが?せっかく異世界に行くのだし……
「えぇ、もちろんそのつもりよ。あの世界は日本人のような見た目の人は少数で、基本的にヨーロッパ人のような見た目の人が多いからね。ついでに年齢も少し若くするわ。国を作るには若いときから準備しないといけないでしょうし。精神年齢も一緒に下がるけど、そこは我慢してね。あとサービスで読み書きも自然にできるようにしておいてあげるわ。じゃぁいくわよ。場所はさっき行った草原ね。あとは好きにして。」
わかったよ。次は死なない程度に頑張るよ。
「私の言ったことを忘れず、頑張ってね」
視界を突然まばゆい光が包み込む。あまりの眩しさに目を固くつむる。すると突然、どこかに飛ばされるような急激なGが僕を襲う。上下左右にシェイクされ、気持ち悪さに必死に耐えていると、唐突にやわらかな大地に投げ出された。
恐る恐る目を開けるとそこは先ほどの夢と同じ草原だった。
近くには小川が流れ、空は抜けるような青空。
「本当に、来たのか……」
さっきあの光る人型はなんていってたっけ?こちらからの要望も含めればたしか現在わかっていることは次の5つのはずだ。
・「人に頼ることを覚えなさい」
・「素晴らしい国を作ること」
・「固有ジョブ「他力本願」」
・「見た目と年齢を変化」
・「浮遊魔法「ソラヘ」」
人に頼れ?人なんていないぞ?草原だからね。よって国も作れないね。
固有ジョブってなに?しかも他力本願って。
そうなるとまず確認できそうなのは、見た目と魔法かな。
そう考えると僕は夢と同じように言葉を発する。
「ソラヘ……うわっ!ととっ!」
夢と同じように浮いた!空を飛んでいるぞ!やっぱり気持ちいいな、空からの眺めは。
「っといけない。次は見た目の確認だな。夢と同じように川面で見てみようか。」
川に向けて飛ぶ。途中でアクロバット飛行にトライする。
「へへっ!3回転宙返りー!からのー、急降下ー!からのー急停止!」
やばい、楽しい!なんだこれ!めっちゃ楽しい!
いつまででもやれそう!……っと、いけない。見た目を確認しないと。
川まで最高速度で飛ばして急停止!さぁ確認確認。川の流れの穏やかなところを探して覗き込む。
「んー?んー???これ何歳くらい?12歳くらい???15歳くらいでも良かったけどまあ若い分にはいいか。というか顔可愛いな!笑顔なんて天使のようじゃないか!王族って言われても信じるな!なんかすでに気品のようなものがあるぞ!」
イギリス王室の子と言われても信じるような、上品に眉の上で切りそろえられたおかっぱのさらさらした金髪にブルーの瞳、白くきめ細やかな肌に高い鼻、どこか艶のある唇にほっそりとした顎。非の付けどころのない美男子がそこにいた。
また、身につけている服も高級そうな、一品だ。白を基調として金色の糸で刺繍がされた、学生服のような上下。どこからどうみてもおぼっちゃま。
「やばい、国なんて簡単にできるんじゃね?だってこんなに美男子でしかも空まで飛べるんだぜ!?」
テンションのあがった俺はまたアクロバット飛行を繰り返す。楽しい。俺はブルーインパルスのエースパイロットさ!
っと、お腹がすいて来た。太陽の位置から見ると……今はお昼だろうか。昼ご飯を食べないと。
ふとそこで気づく。
「あれ?俺なに食べたらいいの?というか家は?人は?」
精神年齢も12歳となりました。