―07― ***石橋を――
叩いてみる。車の外側からコンコンと。凛の家の前に車を停めて、凛がまずしたことだった。家まで帰ってくると、少しだけ余裕を取り戻すことができた。そしてすぐに《髪》が心に絡みつく。排水口にぐじゃぐじゃと。停まった車の横に立ち、あの《髪》のあった、つまりは多分顔のある位置をコンコンと叩いてみる。反応なし。
唐突に幼き頃にやった花占いを思い出す。二者択一の占い。花びらを一つ一つもぎって、行く末を花にたくす。もがれる花にとってはなんと残酷な遊びだったのだろう。今、もっと残酷な占い遊びを。生き(コン)、死に(コン)、生き(コン)、死に(コン)。
あの髪が生きとし物の最上端なら、何かしら反応があってよい。そもそも、凛と絵美が車に乗っていた時から、何かしらの反応があってよい。ますます滅入る。マネキン、という考えも浮かんだ。もしあの髪に友也が関わっているのなら――マネキンというのでは腑に落ちない。友也の仕事は鉄鋼業の技術者だ。およそそれと関わりがあるとは思えない。
凛は再びトランクを開けることにした。毛布、そしてその先の髪。見間違いかもという幻想はあっという間に霧散した。意を決する。
「……どなた?」一応声をかけてみるが反応なし。死がトランクに歩み寄ってくる。
「……触りますよ」やはり一応、前置いておく。
湿った擦れ類音を立てながら、つまんだ毛布を少しずつずり下げる……髪……額……目。見開きつくされた三白眼と凛は目があった。
死、死、死、死、死、死。死んでる。死が飛び込んできた。女が、死んでる。若い、若い。毛布を元に戻し、トランクから飛び出て閉じる。
直感的な判断。死んでいた。なぜ、なぜ。友也は、なぜ。
――今日は車を使わないで欲しいんだ。




