―03― ***触らぬ神に――
凛は一通りの思案を巡らせたのち、車の鍵を手にした。凛と友也の共有する車はSUVタイプで、トランクルームが広い。トランクルームを簡単な寝床とできるぐらいだ。
結婚する前から友也はアウトドア思考とうそぶいており、その手の遊びに特化した車を選んだという。結婚してから友也がアウトドアな遊びに打ち込んでいるところは見たことがない。結婚というのはお互いある程度の趣味を我慢する必要があるのかもしれないのだが、凛は友也がそういった遊びをすることを引き留めたことはない。
外に出た凛を、ぴゅうと秋風がとりまく。
――行ってはならない。
人知を超えた存在からの、言葉にならないメッセージのように感じた。
家の前には一台限りの駐車場。二人で一つの場所、持ち物。これも、凛の幸せを彩っている確かな証拠。
我が家の車がひっそりと佇む。車というのは不思議だな、と思う。空気を突き抜ける重量感、疾駆する時のなんとも言えない力強さ。停止してしまうと、その時と打って変わって物悲しさを携える。住人を失った家屋のように、パートナーを失った恋人のように。車は動と静の境界線が特別にくっきりとしている。
しかし今日はなぜだか、動と静の境界線が滲んで見えた。確かに今、車は停止しているのだが、人が残した動のかけらのようなものを感じる。その奇妙な錯覚に首をかしげながら、凛は車の鍵を開けた。
ドアに触れた手の先にひんやりとした温度が伝わる。本当に直前まで動いていたのなら、こんなに冷えてはいないと独りごちる。
ブルルゥンとエンジンが唸りを上げる。車が確かに〝動〟に切り替わる。凛は絵美の待つ駅に向かってアクセルを踏んだ。




