―17― ***好きこそ物の――
それは、〝固執〟の話だった。聞くべきではなかった。この少女からもたらされる言葉を真っ直ぐに読解したくなかった。この闇にすら慄かなかった凛は、少女のいたいけな口から発される闇に始めて慄いた。
昨夜、友也の帰宅は遅かった。それは、〝狩り〟に勤しんでいたからだという。
〝獲物〟を探し求め、街を徘徊し、そしてこの少女に行き着いたらしい。獲物は家出少女だった。表面上だけ洗練されたねじれは弱き者に向かう。
――現代日本では家出少女が増え続けている。保護されただけでも年間、一万人を超える。そしてねじれは犯罪の土壌となり、文字通り、土として野獣たちの養分となることがある。家出少女は神待ちサイトと呼ばれる、〝一夜の宿〟探し目的の出会い系サイトを頼りにする。一泊の代償が金銭ではないことは明らかであっても、彼女らはそこに向かっていく。彼女らに責のない事由で飛び出したのだろうが、そうでなかろうが、彼女らは身と心を削りゆくことになる。幼き間違いだろうが、そこに容赦はない――。
神待ちサイトを見ていたのかどうかはわからない。しかし、友也は的確に家出少女を嗅ぎつけ、そして目的を果たした。社会が病んでいるのか、それとも友也が病んでいるのか。
この家出少女は、ある意味で完全に凛を追従している。何かごちゃごちゃと言っていたが、どういった理由で家を出たのかなど凛には一切興味がなかったのできいていなかった。ただ、住処を出て、友也と出合い、そして行為に至る、というのが完璧に共通していた。
――――――――――――――だよ!》
少女の言葉を反芻する。大部分は既に思い出せないが。
「……なんだってよ! 知らねぇっつーのテメーの性癖なんか! アンタも良かったじゃん! あんたとの体験が忘れられないんだってよ! そんなにこんな薄ら寒い場所でヤンのがいいのかっつー話だよ! 今日金くれるっつってからあんなさみぃ車で待ってたのによ! なんか掘るもんもったオバハンが車出すからビビったよ! きめぇんだよテメェら……」〝何か〟がまくし立てていた。
色々訊くべきことがあったのかもしれないが、それももうできない。
家出少女は死体に戻ってしまったのだから。
顔面に深々と突き刺さるシャベル。専門の鑑識などいらぬほどに、少女は死んでいた。
――誰がこんなことをしたんだろう? 凛はきょとんとして、ソレを見つめていた。
――――――――――――――――だよ!》
岩石を叩きつけた時とは違った、鈍く掌に残る衝撃の余韻が、凛が少女を仕留めたことをやたらと執念深く証明していた。
鬼ごっこの起源は、追儺などの祭事だという説がある。人間の生活を脅かす鬼を追う儀式が、やがて鬼が人を追うものに変化した結果。
凛と少女の鬼ごっこも、鬼の立場を入れ替えながら、とてつもなく昏い結末を迎えた。
凛は自分の生活を脅かす者を鬼だと思った。しかし今は自分が鬼なのか、この少女が自分なのか、鬼は少女なのかわからなくなっていた。それとも単なるどぶネズミだったのか。
突き刺さったシャベルをビッと引き抜く。シャベルの先端には、ぬらつく少女の破片がこびりついていたが気にしない。凛は元々の予定通り、穴を掘り始めた。単純作業というのは、思考をより静かにさせていくことがある。
友也が凛との思い出に固執していたことを知り、凛はくすっと笑った。




