バニラ・エア問題について
巷を騒がせているバニラ・エアと車椅子の男性の問題について考えてみようと思います。
この件に関するニュースは数多く報道されていますが、改めて自分で整理したいと思います。
バニラ・エアと男性どちらの擁護もするつもりはありません。あくまで事件を受けて考えた事を書きたいと考えています。
事の発端は先月5日に格安航空会社バニラ・エアの奄美大島から関西航空行きの便を車椅子男性(以後男性と表記)が階段式タラップを腕の力だけで自力で上らされる事態となりました。
この事件によってバニラ・エアは批判を受けることとなり、男性に「不快な思いをさせた」と謝罪したと朝日新聞が報道しました。
この報道を見たら、バニラ・エアが男性を無理矢理上らせたように見えます。
しかし、当事者である男性が自身のブログでの説明によると
・行きの飛行機(関空→奄美大島)のチェックインカウンターにてバニラ・エア側にタラップの写真を見せられ、「歩けるか?」と聞かれる
・男性が「歩けない」と返答すると「搭乗できない」と言われ、バニラ・エアの職員による搭乗補助はない事が判明
・男性には同行者が5名おり、彼らの手伝いで乗降りすると説得し、搭乗
・関空から奄美大島に到着後、同行者に車椅子を担いでもらいタラップを降りる
・帰りの飛行機(奄美大島→関空)で、往路で車椅子を担いだのは安全上違反の為、この飛行機には搭乗できないと言われる
・「同行者の補助の元階段昇降をできるなら」との条件で搭乗が認められるも、男性が階段を這って上ろうとするとまたも危険であるという事でバニラ・エア側に制止を受ける
・男性側も帰らなければならないため制止を無視して同行者の手伝いの上搭乗
この様な流れであった様です。
また、通常飛行機は車椅子の人間が搭乗する際は航空会社側の準備の為、事前連絡が必要(バニラ・エアの場合5営業日前までにFAXにて連絡)ですが、男性はそれを面倒だからとこれまでは一切行わず搭乗を繰り返しているようでした。
その他にも搭乗を断られた際に障害者団体からの抗議や人権問題としての訴訟をチラつかせて搭乗したり、搭乗後のお手洗いには介助が必要となり目立つので、座席でこっそりと排尿を行ったりするなど、問題と思われる点も有りました。
男性はそれらの理由を「障害者だけがそのような手間を掛けるのはおかしい」「事前連絡をすると搭乗を断られる可能性があったから」としています。
こういった点からも男性を「クレーマーだ」「プロ障害者だ」と批難する人もいました。
尚、バニラ・エアは関空-奄美大島線では車椅子搭乗の為の設備がまだ準備できておらず、仮に男性が事前連絡をしていても搭乗を断っていたそうです。
今回の事件を踏まえ、バニラ・エアでは導入予定を大幅に早め、14日にアシストストレッチャーを導入し、29日に電動昇降機が導入されました。
こういった状況を踏まえて思う事は
バニラ・エアに対して
・事件後2週間で設備が準備されるなら、もっと早く準備しても良かったのでは
・歩けないからと障害者の搭乗を拒否するのは合理的配慮に欠ける
男性に対して
・航空会社の現状では事前連絡が必要なのでそれを無理矢理(訴訟をチラつかせて)搭乗するのは脅しではないか
・バレなければいいと席での排尿を行うのは衛生的な問題にも繋がりかねない
・自身の行動で現状のルールに則って行動している他の障害者に対する風当たりを強める可能性がある
双方の状況を知った上での問題点は以下にあると考えます。
「健常者」 と 「障害者」 との意識に差がある事
当事者でないと分からないというのはもっともですが、バリアフリーそのものに認識の差があるのではと考えるのです。
今回の件(車椅子の人が飛行機に搭乗する)で言えば
健常者「事前連絡必要だけど装備用意するよ!飛行機に乗るという結果は健常者と同じ。ほら、バリアフリーだろ?」
障害者「連絡なしに健常者と同じように飛行機に乗れるようにしてほしい!事前連絡の手間もバリアだ!」
こういった考えの差異があるのではないでしょうか。
今回の男性も事前連絡の手間をバリアと考えたからこそ、問題提起も兼ねて連絡なしに搭乗を繰り返しているのでは……と感じました。
健常者は障害の無い人間ですから、そういった当事者目線での不便(手間)が理解しづらいのだと思います。
搭乗の点だけに関して言えば、本来ならばバスや電車の様に「常に空港に装備を用意しておいて」搭乗者の中に車椅子の人が居たら装備を整えて搭乗してもらうのが理想ではないでしょうか?
もちろん現状では奄美大島の様に装備が整っていなかったり、又、アシストストレッチャーも電動昇降機もバスや電車で使われるスロープの様に装備が小さく設置が早いものではない為簡単ではないと思いますし、導入に予算が必要なのも分かります。
いつ来るのか分からない車椅子の方の為に、搭乗毎にそれらの装備を用意しては片付けて……というのも合理的ではありません。その分出発時間が遅れたりなど新たな問題が出てくるでしょう。
それに、万一事故が起こった際の対応を考慮するためにも事前連絡や事前確認が必要な面もあるはずです。
飛行機は空を飛んでいますから、有事の際はより逼迫した状況となることが考えられます。
その状況で下半身に障害のある乗客が乗っていたら……航空会社もより入念に対策を考えなければならないはずです。
男性側が同行者の補助があるから連絡無しでも大丈夫だと考えても、航空会社からしたら客の命を預かる側としてどうしても必要な手順かもしれません。
今回の事件は私にとって、本当の意味でバリアフリーにするにはどうすべきなのか、考えるきっかけになりました。
バニラ・エアは元々アシストストレッチャーも電動昇降機も導入予定でしたので、これらの導入が早まったからと言って、男性の行動が讃えられると言うことにはなりません。
むしろ導入予定の所に、嫌な言い方ですが無理に搭乗したので男性は批判を受けていると考えています。
当初朝日新聞の記事を読んだ際には「バニラ・エア最低だな」と思いましたし、男性のこれまでの行いやその他のニュース記事を読んだ当初は「この男性クレーマーだな、バニラ・エア謝罪までしてかわいそうに」と速攻で手のひらを返しました。
しかし、考えていく中で、障害者に対する健常者の意識はまだまだ低いのでは?と思い至りました。
健常者が悪いという話ではなく、障害と言うのは自分から知ろうとしなければどうしても縁遠いもので、「障害=その部分が全て使えない」と認識してしまう様に思います。
もちろんそうでない方も大勢いらっしゃると思いますが、身近にそういった方が居ない人は、積極的に情報を仕入れないとどうしても想像で障害者を認識せざるをえません。
脚が悪くて車椅子という状況でも、ある人は全く動かせないかもしれないし、ある人は補助があれば短時間なら歩けるかもしれない。
視覚障害者もある人は全盲で何も見えないが、ある人は視野が欠損していて一部だけ見る事が出来る。どちらも白杖を使っているが、視野が欠損している人はスマートフォンを駆使して日々の補助としている人もいる。
聴覚障害者でも以前話題になった佐村河内氏の様に、わずかながら音が聞こえる人もいれば、全く聞こえない人もいる、手帳取得の基準に届かないようなある一部の音だけが聞こえない人もいる。
ひとえに障害者と言えど、その症状は一律ではないのです。
視覚障害者がスマートフォンを使っていたからと言って、「見えるじゃないか!」と白杖を取り上げると周囲の状況を把握する術が無くなり危険にさらされます。
聴覚障害者が大きな音に反応したからと言って、「聞こえるじゃないか!」と補聴器を取り上げると、会話が聞こえずコミュニケーションに難がでます。
今回の事件を通じて、障害者は白か、黒かで理解できるものではないと感じました。
私は、この件がなければ障害者の現状に思い至る事もありませんでした。
男性が行った事は迷惑行為であり批判されて然るべきと考えています。
同時に、バリアフリーをすすめる為の今後の課題が見えるのではないかと思います。
障害者様だぞ!とアピールして健常者側が全て補助するのが当たり前!という姿勢では逆効果になりますし、健常者側も現状のバリアフリー設備だけで十分、あとは障害者側で何とかやって、というのでは障害者も困ってしまいます。
障害を理解し、彼ら1人1人が必要なサポートを得られるようにしなければならないのだと感じました。
参考サイト
朝日新聞デジタル「車いす客に自力でタラップ上がらせる バニラ・エア謝罪」
http://www.asahi.com/articles/ASK6H4HCWK6HPPTB004.html
内閣府HP 「障害を理由とする差別の解消の推進」
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html
HUFFPOST 乙武洋匡 「バニラ・エアが燃えている。しかし、木島さんも燃えている。」
http://www.huffingtonpost.jp/hirotada-ototake/post_15315_b_17326010.html
木島英登 公式サイト 「歩けない人は乗せれません! 2回目~ バニラ航空 奄美路線での出来事 ~」
http://www.kijikiji.com/self/vanilla.htm
Yahoo!ニュース 「白杖の弱視者が見ている世界」
https://news.yahoo.co.jp/feature/651
毎日新聞 2014年03月27日 聴覚障害者:佐村河内氏問題で「誤解される」と会見
※記事が古いため削除されておりましたので、引用してある個人サイトから参考にしております