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「サムライー日本海兵隊史」(外伝等)

第101号駆潜艇のとある1日

作者: 山家

あらすじにも書きましたが、「サムライー日本海兵隊史」シリーズの外伝になります。

「艇長、4時方向に潜水艦の潜航音を感知、感度一です」

「うむ」

 元山港を朝方に出航して、早々のことだった。

 聴音員の報告を受けた艇長の金大尉は、自らも双眼鏡をその方角に向けたが、潜望鏡を上げていたなら見える筈の白波が、自分には見えない。

 見張員も、何も言わない。


 自分や見張員の見間違いでなければ、潜水艦は、完全潜航中ということか。


 金大尉は、素早くそう考えて、その方角に艇を向けることに決めた。

 今日は、潜水艦狩りのために出撃したのだ。

 その方角に向かわずに、この艇を引き返させるという選択肢は、端から無い。


「水中音の状態が悪いです」

 聴音員の愚痴が聞こえる。

 仕方ない話だ。

 水中聴音機が英国製、せめて日本製ならともかく、日本製の更に国産模造品だ。

 国防省の小役人めが、駆潜艇に搭載するなら安いので充分だ、と国産模造品を搭載、配備したからだ。

 しかも、素直に模造すればいいのに、自国流に改造した結果、さらに国産模造品の性能が悪化した、と海軍の現場部隊からは悪評紛々たる代物だ。

 ひそひそ話レベルだが、日本海軍の技術研究所に解消策を求めて、韓国国防省の担当者が泣きつきに行ったが、勝手に改造して何を言って来ているのだ、と日本海軍の技術研究所の担当者からは白眼視されて、相談にいった担当者は叩き出されたらしい。

 その話を想い出した金大尉は、鼻を鳴らしたくなった。


 最終的に、敵潜水艦のいるのは、この辺りと見込みを付け、爆雷を落としたが、油等は浮いてこずじまいで、敵潜水艦は逃げおおせた、と金大尉は判断せざるを得なかった。

 自分自身の気持ちを切り替える為もあり、金大尉は大声を上げた。

「索敵哨戒任務に戻るぞ」

「了解」

 部下達から承諾の声が、次々に上がった。


「本当に101番目に建造された駆潜艇なら苦労しないでしょうね」

「全くだな」

 その後、何も見つからないまま、昼になり、昼食を交替で取った。

 後で昼食を済ませた副長の朴中尉が、退屈に勝てなくなったのか、自分、金大尉に話しかけてきたので、その相手をする。


「我が国初の国産駆潜艇ですが、中々旨く行きませんな」

「無事に出航、哨戒しているだけでも幸いさ。この間は、出航早々に、問題を引き起こしたからな」

 金大尉は思った。

 この艇は、日本の第1号型駆潜艇の設計図を買い取り、我が韓国が初めて建造した駆潜艇だ。

 ちなみに韓国は、日本よりもこの型式の駆潜艇を多数保有している。

 日本は、この型式の駆潜艇では、小さすぎて本格的な対潜作戦では役に立たない、と2隻で建造を打ち切ったからだ。

 しかし、韓国は、予算の問題から、対潜用として12隻も建造、保有したのだ。

 実際、独の協力を受けたソ連太平洋艦隊の潜水艦部隊は、日米両海軍の協力を仰げるとはいえ、韓国海軍にとって脅威だった。

 ところで、第101号と名乗っているのは、表向きは日本と共同対潜作戦を担当する際に混乱を生じないためとされているが、実際は少しでも数を膨らませて、ソ連を警戒させたいためだ。


 だが、例えば、この型式の駆潜艇としては、ディーゼル機関を初めて国産製造し、搭載したこともあり、機関がトラブル続きだ。

 蒸気式タービン機関を無理せずに製造して、積むべきだったのではないか、と自分は思わざるを得ない。

 他にも水中聴音機等、問題点は山のように生じている。

 素直に、駆潜艇を日本から買った方が良かったのではないか、と金大尉は思わざるを得なかった。


「ソ連の潜水艦もしぶといですな。ウラジオストック港外に大量の対潜機雷を日本空軍がばらまく等、日本海空軍が協働して、潜水艦狩りをしているのに、まだ絶滅するどころか、遊弋して戦闘を継続している」

「それで、我々は苦労するのさ」

 朴中尉の言葉に、金大尉は諧謔に満ちた答えをした。


 ソ連太平洋艦隊の潜水艦は、日米韓満の海軍情報部の共同推計によると、1939年9月の開戦時点で、92隻を保有していた。

 しかも、第一次世界大戦で猛威を振るった独海軍の潜水艦部隊の全面協力を受けて、強化された存在だ。

 幾ら、東洋海軍史上に燦然と輝く名提督、李舜臣提督が率いた李氏朝鮮水軍の直系の末裔であることを誇りとする韓国海軍とはいえ、単独ではどうにもならない強敵だった。

(もっとも、今や世界第3位となった日本海軍からすれば、現在の韓国海軍は歯牙にもかけられない存在だった。かつて朝鮮出兵時に日韓の両水軍が死闘を演じたことを想えば、隔世の感がある。)


 全く、国防省が、韓国の沿岸警備は、我が韓国海軍が全面的にやると、意地を張ったばかりに。

 日本海軍の潜水艦狩りを行う水上艦艇は、韓国沿岸に存在しない。

 そのために、ソ連潜水艦は、日本海軍の艦艇が出没しない韓国沿岸航路の警備が手薄と判断して、主攻勢をこちらに向けやがった。

 ソ連の潜水艦乗りとしては、少しでも戦果を挙げ、上から睨まれないためのようだが、こちらにとっては厄介なことに違いない。


「我が韓国海軍の開戦時の対潜艦艇は、駆逐艦12隻、正規の駆潜艇が12隻が主な戦力と言ったところでしたが。開戦後に漁船等を徴用した特設駆潜艇は、幾つありましたっけ?」

「覚えていられるか」

 金大尉は、逆説的に答えた。


 実際、特設駆潜艇は、通常の商船並みにソ連潜水艦の餌食になっており、国防省の誰も、現在、稼働している数を覚えられないだろう。

 徴用する端から、いや、徴用する前に特設駆潜艇は沈んでいるという悪い冗談があるくらいだ。

 聴音機を搭載していない特設駆潜艇すらあるのだ。

 そう役に立つはずがない。


 かといって、韓国に正規の駆潜艇を建造する余裕はない。

 日米満と共闘しているとはいえ、韓国はソ連と国境を直に接しており、ソ連との戦争が勃発して以来、韓国は陸空軍整備に国力を傾注せざるを得ない状況にあった。

 海軍が一番、後回しになるのは当然のことで、駆潜艇を建造してくれるわけが無かった。

 日米から買うという案も検討されたらしいが、そんな金があったら、陸空軍に回せ、と潰された。


「私も覚えていられませんな。開戦以来、駆逐艦4隻が失われ、正規の駆潜艇も2隻が失われました。おかげで、本艇も単独で索敵哨戒する羽目になっています」

 朴中尉も半ば嘆くように言った。

 101号駆潜艇は、本来なら103号駆潜艇と共闘しているはずだったが、103号駆潜艇は、先日、ソ連潜水艦の魚雷攻撃により、文字通り消し飛んでしまっている。

 103号駆潜艇は、101号駆潜艇と共同で索敵哨戒中に、ソ連潜水艦の逆襲を受け、魚雷を少なくとも2本、どてっぱらに食らってしまったのだ。

 ちなみに、そのソ連潜水艦は逃亡に成功した。

 101号駆潜艇の乗組員皆が、その復仇を誓った一件だった。


「単独哨戒でも、ソ連潜水艦を警戒させ、追い払うことはできる筈だ。そう信じて頑張ろう」

 金大尉は、そう言って、暗に朴中尉に雑談を止めるように促した。

 朴中尉も、金大尉の態度から、意向を察して、沈黙した。


 101号駆潜艇は、その日1日は、とうとう、戦果を挙げるどころか、1隻のソ連潜水艦も見つけられずに終わった。

 後、2日の索敵哨戒中に、ソ連潜水艦を見つけ、沈めてやる。

 金大尉は、そう決意して、仮眠を取ることにして、寝床に潜りこんだ。


 しかし、眼が冴えて眠れない。

 ソ連潜水艦を沈めるまで、気持ちが高ぶって眠れないだろう。

 無理をして目を閉じ、眠ろうと努めながら、そう考え、金大尉は寝床の中で、しきりに寝返りを打ち続けた。 

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[良い点] 等身大の架空の韓国が描かれていると思います。 やたらと貶すのでなく、普通の国として書いてあるのが良かったです。 [一言] 金大尉の言うとおり買えば楽なのですが完成品を買うだけでは発展がない…
[良い点] 日本由来の駆潜艇が異国で数奇な運命。こういう話好きです。 [一言] 御参加ありがとうございます。楽しめました。
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