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異界人。(仮題名)  作者: ミッチー
第1章
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第2話 異世界昔話

あれから俺は、二匹の竜に……いや、父さんと母さんって言った方が良いのか?

まぁ、二人に喋りかけられたりしていた。


「我を呼んでみよ。カエルム……いや、お父さんだ! お父さんが良い!」


「をぉちょうしゃん(お父さん)」


「違う違う。お父さん、だ」


そんな事言われても……


「あなた、流石にまだ喋るのはこの子には無理よ」


「わかっておる……わかっておるのだが、我は早くソラと喋りたいのだ……」


ソラ、それが俺のこの世界での新しい名前らしい。


「フフ。それは私も同じですよ。だから早く大きく育ってね。ソラ」


俺は、自分の手のひらを見た。


……今気づいたけど、0歳児にしては身体がしっかりしてるきがする……

卵の中で暮らしてたのか?

1歳児くらいの身体には見える。


「そうだ! 飯だ! 飯を食って早く育つのだ! 飯の時間にするぞぉ!! ガハハハ!!」


「そうですね」


飯……え、まって、ドラゴンって何食べるんだ?

生肉? いや、俺無理だよ!?

寄生虫だらけになるのなんて絶対嫌だぞ!?


「よぉし! たんと食べるのだ!」


案の定、持ってこられたのは巨大な生肉だった。


「どうした? 早く食べると良いぞ! 巨大猪の肉だ! 美味いぞぉ!」


そう言って空色の竜は、その巨大な生肉にかぶりついた。


いやぁ……ちょっと……


肉の近くにまで寄ってはみたものの、食べようという気にはなれない。


つか、こんな量食ったらマジで身体中寄生虫だらけになる……


あ、でも寄生虫って花粉症を抑える良い奴もいるらしいね。

まぁ、差し引きしてもマイナスにしかならないから絶対に嫌だけど。


「うーん……困りましたね……」


「なぜ食べんのか……」


せめて焼いてくれれば、寄生虫も死ぬから安心して食べられるんだけど……


それをどうやって伝えれば……


「そういえば、人間はなんでもかんでもを焼いてから食べると聞いた事が……」


おお! ナイス!

そうだよ! そうなんだよ!


「本当か!? なら我に任せるのだ!」


空色の竜は、器用に手を動かし、俺を後ろに下げさせると、大きく息を吸い込んだ。


これってまさか……


そう考えるのと同時に、空色の竜の口から激しく炎が噴き出してきた。


炎は肉を包むだけでは収まらず、周りの木や草をも焼き、空気を熱した。


炎のブレス!!

ドラゴンとは言え、生き物がこんな熱量を体から出すなんて……


改めて思った、ここは異世界なのだと。


炎が消えると、さっきの生肉が墨で塗られたかのように真っ黒になって出てきた。


その場に焦げた肉の匂いが漂ってくる。


これは……また別の問題が……


「よぉし! 焼けたぞ!」


「やり過ぎです!!」


う、うん。そうだね。


「肉が熱すぎてソラが火傷したらどうするんですか!」


そう言う問題!?


「す、すまぬ……」


白い竜は、翼を動かして肉を冷ましている。


まぁ、でもさっきよりはマシか……

これだけ焼かれてれば寄生虫も死んでるだろうし……


……


こ、焦げた物を食べると癌になるのはデマらしいし……問題は何も……


……大丈夫だよね?


……え、大丈夫……だよな?



真っ黒な肉との睨めっこ数分間続いた。

俺は結局、その肉を食べる事は出来なかった。


し、仕方ないよね!

癌なりたくないし!

トラウマだし!

タイガーホースだし!


それで、木の実なら食べれるんじゃないか?

という事になり、二人は色々な種類の木の実を取ってきてくれた。


硬い木の実は無理だったけど、柔らかそうな物は頑張って食べた。


というか、何も食べれない自分が情けなくて、無理にでも食べないといけないと思った。

頑張ってる二人にも申し訳ないし……



「子育てとは大変なのだな……」


ご、ごめんなさい……


「途中で投げ出さないでくださいよ」


「そんな事するわけがなかろう!」


「フフ、わかってますよ」


二人はそんな事を言って笑っている。


これから、こんな生活が続くのか。

なんだか大変そうだな。


俺も、父さんも母さんも。



ーーーー



約、一年くらいが経ったのだろうか。


大分身体も成長した。

びっくりしたんだけど、子供の成長ってすごく早いんだね。

自分の事なんだけどさ。


一年前は、上手く喋れてなかったけど、今なら普通……とまではいかないかもしれないけど、喋れる。


肉も食べれるようになった。

自分で立つ事だって。


ただ、一つ問題があった。


「ソラ! 休憩は終わりだ! 狩りの練習を始めるぞ!」


「えぇーまだやるのぉー?」


「当たり前だ! いつかは自分の手で、食べていかなければならんのだ! 今練習しないでどうする!」


「わかってるけどぉ……」


「つべこべ言うな! 行くぞ!」


「はーい……」


そう、自分は人間でも、親はドラゴン。

育てられ方は人とは違う。


でも、この歳から狩りの練習はないでしょ……

流石マジもんモンスターペアレンツ。


まぁ、今はまだ動物の種類や習性。

食べられる部位なんかを教わってるだけなんだけど……いつかは一人でやらされるんだろうなぁ……


前世だったらまだ俺は、お母しゃん! って言ってハイハイしてる時期だ。

まさか、一年で二足歩行ができるようになるとはね……




今日も森の中を見て回ったり、動物をじっと眺めたりして、色々な事を学んだ。


そして日が落ち、空が夕日で染まり始める。


そろそろかな。


「さて、今日はそろそろ引き上げるぞ」


「やっとかぁーつかれたぁー」


父さんは、暗くなる前には必ず引き上げる。

それは、この森には夜行性の動物が多く危険だから……と、勝手に思ってるけど、本当の事は知らない。


「何を言ってるのだ!それでも我の子か!」


「でも俺……」


「ソラ! お前はドラゴンの子だ! 我の子なのだ……」


「……」


「……誰がなんといおうともな! ガハハハ!!」


……まだ、二人には自分が転生した人間だとは言っていない。


だから、二人共まだ知らない。


俺が、自分の事が人間だとわかっているという事を。


父さん達は、俺が自分の事をドラゴンだと思い込んでると思ってる。

いや、思いこませようとしてる。

それは、自分が言葉を発せられるようになる前から気づいてた。


だから、話せるようになったらすぐに言うつもりだったんだけど……


二人を見てると、なかなか言い出せなかった。




「今戻ったぞ」


「あら、お帰りなさい」


「ただいまぁ!」


ドラゴンには家って言う物はなかったけど、縄張りはあった。


縄張りというよりは、印と言ってもいいかもしれない。


ドラゴンが縄張りとしている所には、必ず鱗が落ちている。

それを見れば、大抵の生き物は怯えて逃げる。


でも、同じドラゴンや人間は、たまに入ってくる事があるらしい。


まだ俺は、それを見た事はないんだけど。



晩御飯を食べて真っ暗になると、みんなで焚火を囲む。


そこで、母さんと父さんはいつも話をしてくれる。


それは、この世界の昔話だったり、伝説だったり……色々だった。


今日もまた、話してくれるみたいだ。


「今日はなんのお話をしましょう」


「そうだなー……ウサギとカメの真剣勝負でもどうだ?」


「また、懐かしい話ですね」


ウサギとカメの真剣勝負?

前世でも似た題名があるけど……ちょっと気になるな。


「それ話してよ! 面白そう!」


「いいだろう! よーく聞くのだぞ!」


「うん!」


俺はそう言って、母さんの身体を背もたれに話を聞いた。


「昔。人もドラゴンも知らぬ頃」


この出だしは、前世の日本で言う、”昔々”と同じ意味合い……だと思う。


「親友であり、一番のライバル同士であった、ウサギとカメがいたのだ」


「親友であり、ライバル?」


「そう。カメとウサギは親友でありライバルでもあったの。100戦交えても決着がつかない程のね」


なんか、前世のやつと似てるけど、違うな。


「だが、ウサギは知っていたのだ。カメには絶対に負けない力が、自分にはある事を。それを競い事にすれば、自分は絶対に勝てる事を」


多分これは……


「……足の速さ?」


「そう。足の速さ。カメはウサギには足の速さでは絶対に勝てない」


「だが、ウサギは100戦全ての競い事を速さ比べにはしなかった。何故かわかるか?」


「……」


俺は、黙って首を横に振った。


「ずっと、親友でありライバルでありたかったからよ。ウサギは、勝敗が決まる事で仲が崩れるのを恐れたの」


あ、あれ?

こんな複雑なストーリーだったっけ?


「カメはそんなウサギの思いを知らず、自分の力を見誤り、自ら速さ比べの勝負を申し込んだ」


「ウサギは断る事が出来なかった。でも、手加減も出来なかった」


「勝敗は火を見るよりも明らか……」


「ソラ、勝ったのはどっちだと思う?」


いや、これ……どっちだ?

かの有名なあの物語を信じるのなら、カメの勝ち……だけど……


こ、ここは素直な子供を演じて……


「それは、やっぱりウサギだよ!」


「そう思うだろう? だが、勝ったのはカメだったのだ」


あ、やっぱり?


「ウサギはゴール前で倒れてたの。カメはそれをいい事に先にゴールした」


「長年に続く対決に、勝敗がついたのだ。カメは大いに喜び、ウサギの元にかけていった」


「でも、もうウサギは息をしてなかったの」


えッ!?


「ウサギは全力を出した。普通に走るだけでも十分勝てる戦いにだ。ウサギは、親友であるカメを馬鹿にするような事は出来なかったのだ」


「そのカメを思う気持ちは、ウサギの限界を超えてしまったのよ」


あ、あれ!? こんなショッキングな話だっけ!?


「カメは親友を失い、ライバルを失い、一人になったのだ」


「ずっと一人。自分の長い寿命を恨みながら、カメは一生を過ごした」


「……な、なんだか悲しい話だね」


「自業自得とも言えよう。ソラ。我はこう思うのだ」


「……?」


「きっと、力と言うものは手にすればするほど、他に見せつけたくなるものなのだ。……自分を強く見せ、誇りを欲する……この話のカメのようにな。

だが、それで何になる。

誇りを得てどうする。

そこに愛する者がいるのならそれで良い……

側にいて欲しい者がいるのならそれで良い。

それを守ってこその、力なのだ」


それを言った父さんの顔は、笑顔だったが、どこか寂しさが浮かんでいた。


ご閲覧ありがとうございました。


昔話のソースは、インドに伝わっているカメとウサギの物語です。


今回のこれではちょっと残酷にしましたが、実際、カメは勝ちはしたけど、ウサギに親切でないという事で嫌われ者になったそうです。


舐めプしたウサギも悪いと思うんですがね。


……今思ったけど、頑張りすぎて死ぬってなんだ?

過労?

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