第1話 俺はドラゴンの子供
なんだか生暖かい。
いや、ちょっと暑いくらいか。
意識はあるけど、身体の感覚は無い。
俺……死んだんだよな。癌で。
自業自得だった。
しばらく身体の調子が悪くて、病院に行かなきゃと思ってた。
けど、行かなかった。
仕事があったってのもあったけど、単純に面倒くさいし……
なにより、病院が嫌いだった。
目が覚めれば、病院だった。
そこで俺は末期だと伝えられた。
まさか、25歳の若さで肺癌になってたとは思ってなかった。
それから何ヶ月かたって、急に息が苦しくなって俺は気絶した。
そして今に至る。
やっぱり俺、死んだんだよな。
目の前は真っ暗でなにも見えない。
死んだら、天国にも、地獄にも行かないんだな。
ただただ真っ暗なんだな。
25年間。
頑張って生きて来たのにな。
嫌な学校も、社会に出るためって言い聞かせて頑張った。
社会のどこで使うのかよくわからない事を学んできた。
卒業後も、こき使われっぱなしで……
苦しい事ばっかだったな。
……
(伊月……大丈夫だからね……)
不意に、自分を心配する母の声を思い出した。
……せめて、親孝行ぐらいしたかったな。
俺は、それ以上考えるのを止め、もう一度眠りに着いた。
眠っていたから、どれくらい時間が経ったのかはわからない。
でも、変化があった。
手と足……身体もある……頭も。
あれ? でもなんか……
俺は自分の頭を触ろうと、手を上げようとしたが、その手はあらぬ方向へと動いてしまう。
うまく動かねぇ……つか、頭重い。
なんだこれ。
俺はもう一度手を頭に運ぼうと動かした。
しかし、それは頭には行かず、違う他の物を殴った。
「ゔぃあぁ!(痛っ!)」
ッ!?
喋れた!
え、喋れた?
と、とにかく声は出る!
というか、俺今なに殴ったんだ?
確かめるために、俺は今と同じように身体を動かした。
が、同じように動かなかったのだろう。
拳は空を切った。
くそっ! もどかしい!
どうにかして身体を……いや、声がでるんだ。
それなら大声を出して、助けを呼べばいい……!
俺は、大きく息を吸った。
そして……
「わぁゥうェえええー!!!(助けてぇぇえー!!!)」
大声で、叫んだ。
「ぬオッ!?」
俺の叫びに反応するように、誰かの驚く声が壁の向こう側から聞こえてきた。
ん? 壁の向こう側?
……って事は俺、今閉じ込められてるのか?
「シ、シエル! ちょっと来てくれ!」
再び、壁の外から声が聞こえてきた。
「どうしたの? あなた。卵に何かあったの?」
女の人の声……夫婦……
「さ、叫んだのだ! 卵が今! 叫んだのだ!」
卵が……叫んだ……?
俺今、卵の中なのか?
…………ッ!!
なんとなく、この時点で想像が着いた。
もしかして……俺……
「何を馬鹿な事言ってるんですか。まだ産んでから四日も経っていないんですよ?」
「本当なのだ! 我は嘘はつかん!」
「知ってますよ。あなたがそんな賢くない事は」
「そ、そういう事を言ってるのではない! とにかく早く来てくれ!」
「わかりましたよ」
大きな足音が、地面を伝わり身体に響いてくる。
こ、これはもう一回叫んだ方が良いのかな……
「うァァああ!!」
俺は、適当にもう一度叫んだ。
「また叫んだぞ!」
「そんな……まだ四日しか経っていないのに……」
これ、完璧に自分の事を指してるんだよね……
……夢?
いや、でもさっき痛みは感じたし……
じゃあ、本当に……
「でも出てこんぞ?」
「……割ってみましょう」
ッ!?
わ、割るぅ!?
「なっ! 何を言うか! そんな事しては……」
「力が足りないのかもしれない……このまま放っておいて、餓死でもしてしまったらどうするんですか!?」
「いや、だが……」
いや、ダメだよ!?
そんな事して一緒に潰されでもしたら、また俺死んじゃうでしょ!?
お願いですから、説得してくださいませお父様ぁア!!?
「……わかった。割ろう」
ちょっとぉお!??
ま、まずいって!
これこれヤバイって!
これこれこれこれ……!
「後悔するではないぞ」
ちょっとまってって!
と、とにかく暴れよう!
自力でこっから脱出するんだ!
転生して速攻お陀仏なんてシャレになんねぇ!
神様も「え!? なに? また来たの?」ってツッコんでくるレベルだよ!!
俺は、必死になって体をバタつかせた。
すると、案外柔らかかったのか、簡単に殻は割れ、小さな隙間を作った。
「おおッ!! 割れたぞ! 卵が割れたぞ!」
「そんな事はわかってます! ちょっと静かにしてください!」
「う、うぬ……」
うわぁ……あれね……妻の方が強い家庭ね……
いや、そんな事言ってる場合じゃないか。
とにかく、殻は少し割れた。
後もうちょっと!
俺は、もう一度身体をメチャクチャに動かして、ひび割れた卵の中で暴れた。
そしてついに、俺は卵を大きく割る事に成功した。
やった!
これで外に……
「「ッ!?」」
目の前に映る光景を見て、俺は一瞬思考が停止した。
「おお! これが我の……子?」
「これは一体……」
流石に予想出来なかった。
卵の中にいる時点で、俺は人じゃないと思ってた。
でも、光に照らされた俺の身体は、紛れもない人間の赤ん坊のそれだった。
でも……おかしい。
なんで目の前にいるのが、ドラゴンなんだ……
二匹のドラゴンは、目を皿にしてこちらをじっと見ている。
不意に、四っつの角をもつ空色の竜が、ブンブンと首を横に振った。
「我の子だ! だれがなんと言おうとこやつは我の子だ! ドラゴンの子なのだ!」
それを聞いて、もう一匹の白い鬣を持つ竜が微笑んだ。
「そうですね。この子は私達の子」
俺は……ドラゴンの子。
転生した先は人間で、親はドラゴン……
こうして、俺の二回目の人生は始まった。
ご閲覧ありがとうございました!
活動報告でも言ってるのですが、これで二つ目の連載小説となります。
なぜ、一つ目が終わっていないのに書いてしまったのか……
という事で”宣伝”します。
小説、ナーガ・ラージャ
登場人物がほぼ人外という、意味のわからん小説となっております。
現在、25話?
ぐらい出ているので、良かったら読んでください。