確率を操るのは【補足】
おかげさまで完結済の連載作品『確率を操るのは』の総合評価が100ptを越えました(2016年3月26日現在)。
それを勝手に記念いたしまして、本短編では『確率を操るのは』の解説や補足、小話などを取り上げていけたらと思っております。
作者が喜びから調子に乗った、とでもお察しください。
ネタバレになる箇所があります。
先に『確率を操るのは』本編をお読みいただけると幸いです。
また、第○部、というのは全て第○話、第○部分のことを指しております。
今後も少しずつ付け加えるかもしれません。
○櫛咲櫛夜について
本編の主人公。高校二年生。
一日に一度だけジャンケンに勝つことのできる能力、『確率制御』を持っています。
この櫛夜について、未回収の設定(伏線、ではない気がします)がありまして。
まずは第1部、冒頭で櫛夜は掃除当番決めにジャンケンを行っていますが、じつはこの勝敗が、後の展開を考えると不思議なことになっています。
具体的には第30部の説明と矛盾が起きています。
これは単に、櫛夜の自身の能力に対する認識が間違っている、という状態です。
第30部で登場する話が間違っています。
これは、能力、という存在の本作での扱いに関する方針に沿ってのものです。
能力についての補足は後述します。
また、第3部では櫛夜の進学に関する話に触れており、櫛夜自分で「それはまた別の機会に」とはぐらかしています。
これは単純に話に盛り込めなかったので諦めた(ガバガバ進行の弊害ですね)のですが、元々考えていた設定では櫛夜は大学進学を考えてはいませんでした。
後述する櫛夜の人格形成に絡めようとしていて、物語開始当初の櫛夜は、とりあえずは高校に進学したものの、一年間ですでに高校生活にうんざりしており、気力もなく、これ以上教育機関に身をやつす必要はないと考えていた、という設定でした。
騒動に巻き込まれていくうちに活力を取り戻す、みたいな展開を考えていたのですが、思ったより櫛夜くんはしっかりした子だったので(ぇ)、完結した今では、そうですね、「聡い櫛夜くんは大学以外の選択肢をよい意味で沢山考えている」という風に捉えて頂けると幸いです。
第29部で櫛夜の過去のお話が登場します。
それまでの話で、綾が度々、櫛夜の異常性について心配する場面が挟み込まれているのですが、櫛夜の現在の人格形成というのはそもそも、その過去の出来事が原因です。
特に言及はしませんでしたが、過去の出来事があって、人を信じなくなって、自他に対して無気力で無関心な櫛夜が生まれていました。
ですがそれも一連の事件の中でどんどん和らいでいますね。
○綾文綾について
第一ヒロイン。生徒会長。
一日に一度十円玉を拾うことができる能力、『確率拾芥』を持っています。
第6部で彼女は昼食のお弁当を早弁、つまり昼休みよりも前に食べていることを明かしています。
初めはあれこれ言っていた周囲も、最近は特になにも言わなくなってきた、とも言っていました。
ですが、実際同学年でその事実を知る面々は引いています。それはもうどん引いてます。
運動部の男子なんかは平気で行っていますが、男子も女子も、なんとなく憧れの生徒会長、よくできた生徒会長のイメージを持っているため、おい、と突っ込みたい気持ちを必死で抑えていたりします。
男女問わず、昼食は正しい時間にとるべきですね。
○綾文弥々について
第二ヒロイン。綾の妹。
中盤以降、やや出番が奏音や友莉にとられがちですが、物語上、かなり重要な役割を持っています。
実は最後の最後まで、綾と弥々、櫛夜がどちらを選ぶか悩んでいました。
物語上の役割を二人ともが果たした上で、どうなるかなぁと思っていたのですが、最終的にはきちんと収まるべき場所に収まってくれた気がします。
なお、弥々の犯罪行為は決してよろしくありません。
凶器を用いた脅迫は裁かれて然るべきです。
弥々ちゃんは可愛くて姉思いのいい子だったので黙認されましたが、興奮してもよくよく考えて行動することを心がけたいものですね。
○能力について
本作では幾つか、能力と呼ばれる概念が登場します。
ジャンケンに勝ったり十円玉拾ったり。
これらの能力に関して本作で一貫させているのは、『能力がなんであるのかは完全に不明』という立場です。
読んでいただけると分かるのですが、本作はあくまで現実世界にベースを置いています。
ですから、そんな不思議は起こりそうにないのですが。
本作では、
能力の出自を誰も知らないし、解明もしない
登場人物が語った能力の発動条件及び、その効果は必ず間違っている
地の文で書かれた能力の在り様に関しても同様に、必ず間違っている
という三つを制約として、能力という概念を導入しました。
つまりは、本作で語られる能力というものはどれもあるんだかないんだか、よくわからないし、本人達もよくわかっていない、なんなら作者も考えていない、とでも認識していただければいいのかなと思います。
雑にまとめれば、登場人物の誰も知らないから、現実の皆と世界観一緒だよね!といった超理論ですね。
一応能力の条件と効果に関しては考えているからこそ、間違っている間違っていないの制約が設定できるのですが、正直出自については考えておりません。
可能であれば、能力がどう生まれるのかに迫る続編なんか書いてみたいものです。
まぁ、書いたらたぶん蛇足になりそうなので期待薄ですが……。
一応考えている能力の設定は以下にあげようと思いますが、ネタバレを含むため、ここで一旦切らせていただきます。
以下にネタバレを含む解説や補足をしていこうかと思います。
※※※以降、本作品のネタバレを含みます。ご注意ください※※※
○能力について+α
登場人物の誰も知らないという設定の能力ですが、一応想定していた設定だけここに羅列しておきます。
といっても本質は一つだけで、
『能力は、それを持つ者の本当の願いを叶えてくれない』
という設定です。
本当の、というのがあれなのですが、各キャラクターで見ていきたいと思います。
【櫛夜】
ジャンケンに勝てる能力
↓
櫛夜は幼少期、ジャンケンに勝てば引っ越しをせずにここにいてあげる、と綾に言われた
もちろんそのジャンケンの勝敗によらず綾は去っただろうが、そのジャンケンには負けた櫛夜は、綾がどこか遠くに行ってしまったことを、自分がジャンケンに負けたことが原因だと思った
↓
だから、ジャンケンに勝ちたいと願った
↓
しかし、二人きりだと発動しない(というか、必ず負ける)
だから、あの日のジャンケンには、勝てない
綾を引き止めることはできない
【綾・奏音】
未来を視る能力
↓
友莉が怪我を負ってしまう未来を、認められなかった
↓
だから、あらかじめ未来(それを解決するための布石)を見通したかった
↓
しかし、未来が視えても、自身の力だけでは未来を変えることはできない
友莉を助けることはできない
彼女達が本当に知りたい未来(櫛夜・光との関係)を視ることはできない
【優芽】
時間を巻き戻す能力
↓
友莉の事故を認められなかった
事故をなかったことにしたかった
↓
だから、時間を巻き戻したかった
↓
しかし時間を巻き戻しても結果は変わらなかった
事故は防げず、友莉は助けられなかった
【弥々】
人と目を合わせる能力
↓
誰も自分のことを見てくれなかった
↓
誰かに自分のことを、自分という存在を見て欲しかった
↓
目が合うのはあくまで物理的な目線の話で、弥々の求めていたのは心情的な問題であった
結局能力を使おうと誰も弥々のことを見ることはなかった
といった感じでしょうか。
いくらか曖昧でてきとーな部分もありますが。
ともかく、表面上は持ち主の願いを叶えていそうな能力ですが、本来の、あるいは心からの願いを叶えてはいない、というのが共通項目です。
○繰り返し(ループ)について
本作は大きなトリックとして、いわゆるループを用いています。
昨今、ループものと呼ばれる作品が様々あります。
ループしていることが物語の終盤まで秘められているものや、ループすることによって物語が進行するものや、ループを脱出することが目的の作品など、扱われ方も様々でしょう。
しかしながらこのループという展開、扱うにはかなりのリスクがあります。
ループもの全般に言えるのでしょうが、ループってするだけでなんだか物語に深みが出ると思いませんか?
これループしてるんだ!と思うと私なんかはそれだけでテンション上がってしまいます。
この辺りの感覚は人それぞれでしょう。
いい加減飽きたという方も多いでしょうし、好きな作品と似たような作品はないかと探している方もいらっしゃるでしょう。
するだけで話が盛り上がるループですが、しかしだからこそ、ループする意味が大切になっているのだろうと、私は思っています。
ループを扱う最大の問題点は、ループが要素になりづらいこと、でしょうか。
ループは時間に纏わる概念のため、作品にループを取り入れようとすると、扱い方に依らず、ループが作品の主題、または主課題となってしまうことがほとんどです。
ループという現象がひとたび発生してしまえば、登場人物がどんな形でも抜け出すまでは物語が進行しないのですから、ループが物語のメインとなるのは当然でしょう。
ループ以外の要素を入れようと思ったら、三つのエピソードからなる一つの物語を構成し、そのうちの一エピソードのみ、ループに関する話にするなどの工夫が必要となるでしょう。
その場合でも、その一エピソードを一つの作品として捉えれば、その作品の主題はループということになるでしょう。
だからこそ、私はやはりループは自然現象であるべきではない、と思うのです。
例えば満たされる休日を送りたいという誰かの我が儘から起こるかもしれません。
例えば新しい命を拒む妹をそれでも救うために起こるかもしれません。
例えば自分を認めてくれた友人の運命を変えるために起こるかもしれません。
誰かの願いを叶えるためにループが起きている。
その願いが薄ければ、ループの意味も薄く、物語は陳腐に思えるのではないでしょうか。
そんな目線で本作を見ると……どうでしょう。
初めの周回(友莉を救うため)に関してはいざ知らず、それ以降はけっこうしょぼい理由からループが起きています。
それはもう。
我慢しろよしょうがないだろと言いたくなる、失恋やらが原因だったりします。
ループという現象が、誰かの切なる想いから発生していて欲しい、という私個人の好みではそうなのですが。
そうした作品を見て同時に思うわけです。
高校生ってもっと頭悪いでしょう、と。
別に全国の高校生を馬鹿にしているわけではありません。
ですが、よく見るループものに登場する人物は、切なる願いや確固たる意志で時間を繰り返しているだけあって、結構な人格者が多いんですよね。
いやいや、そんなに十代二十代は精神的に強くないだろ!!
と、私は声を大にして言いたいものです。
そんなあれやこれやがありまして、本作ではループの原因について、
『高校生特有の面倒くさいいざこざが複数人にまたがった結果こじれにこじれこうなった』
みたいな雰囲気を出しています。
面倒極まりないですね。はい。
○ループ回数について
ループものの考察によく出るこの考察ですが、ぶっちゃけよく考えていません。
一応サブタイトルにa/bと二つの可能性を提示していたりはするのですが。
まず最初は普通に友莉を助けるために一度、時間は巻き戻っていることでしょう。
次に、a(櫛夜が騎馬戦を選択)、b(櫛夜が飛びつき綱引きを選択)の二つの未来が綾と奏音にそれぞれ視えていたため、各一回ずつはそんな世界をループしたのではないでしょうか。
あとは光くんが「毎回」とか発言していたので、そうですね、五回とか六回くらいは繰り返したのかもしれません。
まぁ、決めてないものは決めてないので……考えても仕方がありませんね。
○名前について
小ネタです。
本作の登場人物は、苗字と名前に同じ文字を入れています。
例としては、
櫛咲櫛夜:『くし』ざき 『くし』や
のような感じです。
これは、苗字と名前で同じ音が、『繰り返している』ということで。
別に伏線とかではありませんが、ループものらしさを出してみたわけです。
登場人物は苗字と、そこに出てきた連続二音(上記の例では『くし』)を繰り返すように名前が付けられています。
しかしよく見ると、
“連続二音が繰り返されていない人物”が二人と、
“連続二音が繰り返されている位置が異なる人物”が二人、
命名ルールに則らない人物がいます。
前者は、そもそもルールに則っていない→ループから脱出する鍵となる重要人物。
後者は、繰り返しの位置が異なる→今回のループには関わらないが、今後……?
という裏設定です。
まぁ約半分が命名ルールに沿っていないのですから、どこの英語発音問題なんだという気もしますが。
○第34部について
最終話となる第34部ではエピローグとして事件のその後の面々の姿を描いています。
だというのに、作中ほとんど焦点が当てられなかった一年生コンビの話がほとんどメインで他の生徒会の連中は申し訳程度にしか登場しません。
これは上述している櫛夜の話や命名ルールの話に通じていて、続編の構成を考えていたから、なのですが。
その辺り現在悩み中でして。
いやはや。
他にも書きたいものが沢山あるといいますかなんといいますか。
そのうち書く機会があるかもしれません。
またの機会がありましたら、是非。
次回、生徒会一年生のみもりと詩織を中心に勃発し、やがて幸魂高校全体巻きこむ騒動を描く、『運命を操るのは』、乞うご期待ください
本編、もしくはこの短編をお読み頂いた方に、心よりの感謝を。
ありがとうございます。