脱出
外はもっと寒いのだろうか。
吐く息が白く曇るのを見て、スーツの男はふと外へと注意を向ける。とはいえそこに窓があるわけでもなく、無機質な壁が服の上から強い冷気を運んでくるのみである。
男の相方は小さな雲のように浮かぶ吐息が気に入ったのか、やたらと息を吐いては指先でそれを追い回している。極めて動物的な反応である。相方を叱りつけ、スーツの男は手近な檻をジャックナイフで思い切り引き裂いた。本来であれば歯が立たないはずであろうに、腕の力で強引に引きちぎったのである。
檻の中では人の形に近い何かがおびえた目でスーツの男を見上げている。人の形に近い、と形容したのは、その何かの肌が硬質な鱗で覆われていたためである。本来の人の皮膚は醜く剥がれ落ち、ぼろきれのような衣服にこびりついている。
スーツの男はその生き物に歩み寄り、細い足を押さえつける鉄枷を掴み鎖から破壊した。
「立て。作戦決行だ」
騒ぐなよと念押しし、生き物を檻の外に押し出す。喜色の色を浮かべる生き物を、さっきまで自分の呼気と戯れていた男が優しく出口へと押し出す。
それを見送り、スーツの男は薄く笑みを浮かべた。
待ちわびた時が訪れたのだ。