6話 クズは恩を仇で返す 上
「ダメでした」
頭を地面に付け、涙を流しながら、土下座の体制をとる。
「腹案とやらは如何した?クズ」
「万策尽きました。
姫様、どうかお助けください」
涙交じりに答える。
勿論、嘘である。そもそも腹案など存在していなかった。
バレていない事を前提に話を進める。
「力が無さ過ぎて、何も盗めません。
力が無さ過ぎて、何も持ち運べません。
力が無さ過ぎて、相手に殴り殺されました。
俺、悪い盗賊じゃないのに、あいつら殴りやがった!!
俺は全裸だったんだぞ!どこに悪意があるって言うんだ!!
すべて包み隠さず見せてたつーの」
感情のままに叫ぶ。俺の訴えに嘘はなかった。
「詰まる所、あれか?
貴様は前と同じく無策で突っ込み。
あまつさえ、無力な体で正面から盗みを働き。
全裸で挑発したと」
俺は全力で頷く。あれ?無策な事ばれてなかったか。
「殴り殺されて当然だな。
まったく、救いようがないとはこの事だ。
クズなりに頭が働くかと思えば、なんだそのていたらくは?
恥を知れ、度し難いクズが、いっそこのまま消えて無くなれ」
「そんな…」
本当の涙目になる俺。
姫様は、怒りに打ち震えて…
あれ? 笑っている?
「清々しいとはこの事。
なんだこれは? 絵に描いた様な三文芝居ではないか。
貴様さては私を嵌めようとしているのか?
本当は何か策があるのだろう?
あまり焦らすな。いい加減に見せるのだ」
姫様の表情は柔らかくそして優しいものだった。
俺は少し罪悪感を覚える。しかし、これはチャンスだ。
畳みかければ、何か突破口が開ける気がする。
「策ならある。
ただ、万作尽きたのも事実だ。
盗む力がない。これだけは如何しても覆らない。
力を望む訳ではない。せめて、ものを持ち出す為の道具があれば」
「作ればよかろう」
「今の俺に作れると?」
更に、畳みかける。この機を逃せば本当に策などなくなる。
「頼む。今の俺には姫様が必要だ」
厳密には姫様の力が必要だ。
――― 沈黙が訪れた。
「貴様、侮ったな?
私が貴様の心を読める事、忘れたのか?」
深淵の様な黒い瞳が俺を見据えている。
ただ怒りを感じない。先ほどの微笑もない。
興味を失ってしまったかのような顔をしている。
「児戯に付き合うのも飽きたわ。
貴様に何もないのは当たり前だ。
弱者として生きろ。忘れたのか?」
口調が先ほどまでとは違い業務的なものになっていた。
「しかし、私を少しとはいえ楽しませたのは事実。
いいだろう。少しだけ力を貸してやる。
――― 失望させてくれるなよ」
それから姫様は、俺から読んでも答えてくれなくなった。
何か大きいものを失った気がする。
ただ、得たものはあった。『共有魔法:獄卒の腰袋』。
久しぶりに見たステイタスには少しの変化があったが。
今の俺はどうでも良い事のように思えた。
俺は当てもなく道を歩き出す。
世界がひどく色あせたように思えた。
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ナナシ 21歳 男 人間
レベル:1
HP :1/1
MP :0
筋力 :1
体力 :1
敏捷 :1
魔力 :0
耐久 :1
耐性 :1
next :?
経験値:176000
スキル:なし
技 :なし
魔法 :なし
共有魔法:獄卒の腰袋(lv1)
称号 :罪人
特性 :地獄の囚人 獄卒の不興 罪の代償 即死耐性★
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:共有魔法:
獄卒の腰袋
「任意の場所に袋の入口を設定・解除する事ができる。
袋には物体を収納する事ができる。
収納容量は獄卒の魔力に依存し、獄卒が任意で指定する。
使用時の消費MPは獄卒が負担する。
なお、この魔法を使用しての殺傷行為は不可能である」
:特性:
即死耐性★
「幾多の即死を乗り越えた者に与えられる、完全即死耐性」
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6話まで読んでいただきありがとうございます。
読んでいただけた方はわかると思いますが。
本作品は、
『クズがおくる、他力本願系異世界冒険ファンタジー』です。
あらすじが良くわからないとの助言がありましたので
追記しておきます。助言ありがとうございます。
◇ 追記 ◇
修正箇所があたので、なおしておきます。
場所は『:共有魔法:獄卒の腰袋』の説明部分です。
文法がおかしかったので直しました。