5話 クズには腹案があるようです
「――― 早く私を楽しませろ」
先ほどの声が頭に響く。
さて… リンちゃんもとい姫様から指令が出てしまったぞ…
どうしたものかな。無茶ぶりにも程があるんだけどな。
というか、考えてみれば俺はこの世界についてなにも知らない。
無策で突っ込んではみたもののこの有様だ。
レベルを上げられるならごり押しプレイで楽しめそうなんだけど…
今の俺マジ無能。どうすんのホント… 弱者として生きるのか?
ねーよ。俺は奪う側の人間だ。それは断じてねー。
ガキの頃やったRPGは楽しかったな。レベルを上げまくって、敵をなぎ倒す。
最強の敵もワンターンキル。ああ、懐かしいな、あの頃に戻りてーーな。
現状ってあれだろ? 低レベル極限プレイ的な?
確かに何度も死ねる体ではあるのだが、俺に優しい世界線を見つける頃には、魂の洗浄が終わると思うんだ常識的に考えて。
―――空しい。もう少し建設的な考察をするか。
数度の死で見てきた世界は、文明的に俺のいた世界より遅れていた。
中世とかその辺りの文明であり、剣と矢が飛び交う世界だ。
文化的雰囲気としては、西側諸国のそれであろう。
魔獣がいる事を確認しているし、本当にファンタジー世界に来ているようだった。
もう少し情報がほしいな、町でも探して情報を集めないとな。
図書館とかあれば、有難いな。字を読めるかわからないが。
どちらにしろ金が要る。あと、絶対に裏切らない仲間。
俺はか弱いのだ、ならば守らせる。司令官ポジとかありだよな。
綺麗どころをそろえてキャッキャウフフしてえな。
女のレベルを上げたらマッチョになるとかだとどうするか?
細マッチョならありだな、あの締まりはよかった。
ガチムチはポイすればいい。なんか、楽しくなってきたぞ。
『貴様が望む世界』本当にそんな気がして来たのだった。
――― よし、やるか。
決意を振り絞り、リンちゃんもとい姫様に報告。
「姫様、決まったわ。
俺、とりあえず盗賊になる。
奪って奪って、金を集めて、裏切らない奴隷を買う。
ハーレムとか作りたいな、あれは男のロマンだ。
うまいもんをたくさん食うぞ。当たり前だ。
綺麗な服。豪華なアジト。フカフカのキングサイズベットで女と遊ぶ。
敵対するやつは皆殺しだ。おっと、可愛い子は捕虜な、俺の物だ。
あと俺よりイケメンはこの世にいらん。残らず叩く。
力をつけたら国でもつくるか? いやだめだ。
組織がでかくなると裏切者が出るしな。
考えるのって楽しいな、姫様」
「お、おう…
どうした貴様。ついに壊れたか? しかし、姫様とは何だ?」
「俺のラブリー。
ラブリーマイプリンセス リンちゃん。
どうせ、仕えるんなら可愛い姫様だ」
俺はイケてる顔にものを言わせて満面の笑みを作る。
姫様の顔が引きつる。不満そうだ。
「神の方がよかったですか姫様?
上下関係がはっきりして分かりやすいと思うのですが?」
「そういう問題ではない。
貴様、自身が気持ち悪い事を自覚していないのか?
そんなので、よく女を騙してこれたな。
寒い、センスのかけらもないぞ、クズが」
「え? どういう… 俺は気持ち悪い… イケてない・のか」
衝撃が体を突き抜けていた。
いや、勘づいてはいたのだ。俺の言動に対して妙によそよそしい女がいた。
それでも近寄ってくる女が多かったから、気づかない様にしていた。
そう、俺はイケてなんかいな…
魂が抜け落ちていくのを感じる。
ああこれが、魂の洗浄か。
救いは、救いはここにあった。
「おーい、待たんか! 消えてくれるな、ナナシ!
貴様は、クズだが面白い! 気持ち悪いが顔はイケておる。
だから待て、待つのだ。私はまだ、お前に飽きてはおらんぞ!
そうだ、姫と呼ぶ事を許そう、貴様はイケている」
「まあな、俺はイケてる。女も引く手あまただしな」
復活は一瞬であった。魂が身体になじむ。
生きてるって素晴らしいな。
俺は、九死に一生?を得たのだった。
「めんどくさい奴め」
姫様が、少し楽しそうに微笑んでいた。
◇
「ところで貴様、今後の方針が決まったが。
具体的にどうするのだ?」
「安心しろ!
俺には、腹案がある」
即答していた。
「良かろう、行動で示せ」
「御意に」
「それでは、しばし見守ろう」
そう言うと頭の中の姫様が消失したのを感じた。
しかし、どうしたものか…
腹案?そんなものはないよ。
とりあえず姫様に気づかれていない事を祈るだけだった。
町・・でも探すか。
ナナシとリンちゃんの上下関係が確定した回です。
獄卒ちゃん → リンちゃん → 姫様 となりましたが
とりあえず姫様で固定します。