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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
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42話 無欲なる友への手向け

 無気力な体。

 重い瞼。

 いつもの宿。いつもの部屋。

 目を見開きその天井見詰める。

 そして、胸に押し寄せるやるせない気持ちと向き合った。


 俺はあれから赤騎士の事を考えていた。

 確かアレクとか言ったか?あのオッサン。

 本当に分かり易い奴だった。

 楽しそうに消えて逝ったオッサン。

 満足げに消えて逝ったオッサン。

 オッサン。オッサン。オッサン。

 どうしてこうなった…

 頭の中がオッサンで埋め尽くされている。

 本当に暑苦しく迷惑な奴だった。

 魂の洗浄を終えて消えて逝ったオッサン。

 今生で会う事はもうないのだろう。


 満足して消えて逝く… か。

 良いなそれ。

 どうせ消えるならそれしかない。


 フッ!フフフ。

 自然と笑いが込み上げていた。

 くだらない。本当に。

 そして自分を見詰め直す。


 ―――あきた!

 それが今の答えだった。

 実に俺らしい答えだと思う。

 この国に、この街に、そして今の自分に飽きた。

 何が周りに影響を与えない様にだ!

 心底今までの自分が馬鹿らしい。

 オッサンが笑うはずだよ。

 実にくだらない。


 俺はほんの少し影響力があるだけだ。

 俺程度に影響される馬鹿などほっとけばいい。

 奴らは所詮、他人。そしてモブだ。

 以前、強者として生きると決めたはずだろ?

 ならば蹂躙するだけだ。

 勝手に奪われてくれるなら、それほど楽な事はない。

 RPGの世界はモブに厳しいのだ。

 人の家から平気で財産を奪う主人公。

 村を荒らしまわり平気な顔で住人と会話する主人公。

 主人公を襲いに来た敵に滅ぼされる村や町。

 主人公の都合で正義が決まり、それを押し付けられる人々。

 他に未来があったかもしれないのに…


 フッ!

 本当に笑えて来る。

 『自覚なき歯車』良い特性じゃないか。

 世界が俺を選んだのだ。

 世界が俺を望むなら主人公を演じてやろうじゃないか。

 その方が楽しい。その方がきっと楽だ。

 そして、満足いくまで遊び倒すのだ。

 魂の洗浄が終わるその日まで。

 ククク!

 良い答えだろ?

 姫様?


「まるで成長していない…」


 そんな声が頭に響いた。

 ただ、その声音は歓喜を含んだモノだった。



 青空が水平線の彼方まで続いている。

 本日も釣り日和。

 大物が釣れそうな予感を胸に釣糸をたらす。


 武闘祭?

 あんなもんパスに決まってる。

 やりたい奴にやらしとけ。

 そもそも汗臭く鉄臭いあの世界は、俺に向いていないのだ。

 棄権を告げた時、メルファンが泣きそうな顔をしていたが知った事か。

 まあ、今頃はミウが優勝してクフェと戯れている事だろう。


 それより、残念だったのはクレアノールちゃんだ。

 アレはうまく行けば確実に抱けていた。

 と言うか、なぜ抱かなかったし…

 ミウさえいなければ… グヌヌ。

 本当に残念としか言いようがない。

 クレアノールちゃんは故郷に一時帰国。

 これは彼女の判断だ。

 エルムントの妖精。

 そんな二つ名を持つ彼女は故郷でそれなりの地位に就くお方らしく、

 個人としても名声を得ている。

 そんな人物がいきなり消えては、国にとってとても不味い事らしい。

 ミウが先に帰国してくれれば、可能性はあった筈だ。

 何であいつは帰らないんだ?目的は達成してるだろうに…

 ああ、分かっているさ。

 そんな事をすれば俺達の金が消える。

 クレアノールを抱きたいが、今はお金が優先だ。

 本当に残念な出来事だった。


 でも、ミウも一度帰らさないと駄目だよな。

 故郷の親御さんも心配しているだろうし。

 そうだ、次の目的地を『和』にするか?

 和食が食えるかもしれないし。

 何より、温泉があるかもしれない。

 デカい風呂に入りたいよな。

 行ってみる価値はある。



 後はヘミ―ルの件…


「お隣、よろしいですか?」

  

 噂をすればだ。

 二人連れのへミールがこちらを見下ろしていた。

 顎でそこに座れと促す。

 へミールは素直にそれに従った。


「武闘祭。

 棄権されたとか…

 お怪我でもされましたか?」

「気分が乗らないだけだ」

「それは重畳。

 怪我をされては、これからの仕事に支障をきたしますので…

 あ、引いてますよ」


 釣竿が大きくしなる。

 以前とは違い引き上げる力がある事を忘れ思いっきり引く。

 プッン!

 糸が簡単に切れてしまった。

 

「残念でしたね」


 心にもない事を言うヘミール。

 声から大体の感情が読み取れた。


「ところでナナシ君。答えはでましたか?」

「答えは…」

「そうだナナシ君。

 君に一つプレゼントを約束しよう。

 あれは美しい女だ。

 アリア殿下。

 我が国の至宝と言っても過言ではないお方だ。

 どうだい?欲しいだろ?」


 俺の顔を見て察したのか条件を出してきた。

 悪くない話ではある…


「良い反応だ。

 我が国は権力抗争の最中でね。

 直に皇帝は権力を失う。

 そうなればアリア殿下は悲惨な運命をたどる事になる。

 あれだけの美姫だ。我先にと彼女になだれ込む事だろう」

「なにがいいたい?」

「救えるよ。今なら彼女を救える。

 今なら彼女は君だけの物だ」


 悪魔の様な囁き。

 ドロっと絡みつくような視線。

 本当に不快な野郎だった。


「私はね。

 今では、それなりの地位を持っている。

 それは君のおかげだ。ナナシ君。

 君のおかげでここまで来れた。本当に感謝している。

 だが、足りない。全てが足りない。まだ、足りないんだよ。

 世界を手に入れるまでは。

 以前話したよね。君とならやれそうなんだ。

 私は確信している。

 私が欲しいのは権力だけだ。

 君はそんな物、興味ないだろう?」

「ああ、ないな」

「良い答えだ。

 彼らを観てくれ。

 彼らも同志だ、いずれ世界を分け合う同志だ。

 君も我らと歩もう」


 へミールが俺に手を差し出す。


 フッ!ハハハハハハ!

 笑いが零れた。

 こいつ小物過ぎるだろ。

 世界を分け合うだ?

 往年の名作でRPGで聞いた様な台詞だな。


「答えはNOだ」

「なん、、だと?」


 真顔で言い切る。

 へミールは予想からずれた答えに驚いていた。


「無欲な事だなへミール?

 権力だけか?

 そんな訳あるかよ!!

 望むなら全てだ!それ位言ってみろよ。

 本心は違うだろ?」


 痛いところを突かれたのか、

 顔色が変わるヘミール。


「俺の物だ。

 世界がそれを望んでいる」

「?」


 俺の言葉に

 へミールの理解は追いついていなかった。

  

「全ては俺の物だ。

 アリアちゃんもそのうち貰いに行くよ」


 あまりにも幼稚な俺の言い分に、

 へミールが笑いだしていた。


「はっはははは!

 君はもう少し聡い人間だと思っていたよ」


 手で後ろの二人に合図を出した。

 それと同時に、後ろの二人が動く。

 俺もそれに合わせて闇化…

 出来なかった。


 俺は二人に簡単に取り押さえられる。

 そして顔を無理やりへミールに向けさせられた。


「世の中には便利なモノが沢山ある。

 例えば相手のスキルを封じるモノだったり。

 魔法を封じるモノだったり。

 それらはとても貴重なモノだ」


 俺を取り押さえる人物に手を置いて語る。

 そいつの能力と言う事か?


「権力はね、それらを手に入れるのに本当に役に立つ。

 君もその一人になる筈だった。残念だよ。

 私の物にならないなら、君はいらない。

 最後に、君がどんな物だったか確認するね」


 そう言うと、

 ヘミールはメガネの様なアイテムを俺に翳した。


「なるほど、これはこれは。

 おかしなステイタスをしている。

 そして、大変興味深い。

 ブラックボックス化している部分が気になるが、

 一番は…

 君はどうしてHP1で生きていられるんだい?

 これでは、風が吹けば死ぬレベルだ」


 へミールが合図を出す。

 押さえ付ける者が俺の頭を打ち砕いた。

 しかし、無傷。


「素晴らしい。

 面白い体質をしているね。君は。ハハハ!」

「こんな事をして…

 クフェが黙っていないぞ!」

「分かっているさ。

 アレは恐ろしい生き物だ。

 アレを相手取るのにはまだ早い。

 だけどね、君を生かしておく理由にはならないんだよ」


 ヘミールの眼に恐れはない。

 本気で言っている眼だった。


「さて、色々試そう。

 彼が死ぬまで。

 面白ショーが観れそうだ」


 ヘミールは笑う。

 その笑いは俺の死を確信している。


「絞殺。撲殺。斬殺。圧殺。

 とりあえずはこのあたりか?

 毒とか火には対応できるのかな?

 溺死とかしないの?

 虫にでも食わせてみるか?」


 本当に楽しそうに笑う。

 良いキャラしてるよお前。

 ああ、いいよやれ。

 これはお前への手向けだ。 

 次は俺がぶっ殺す。

 それまで必ず生き延びろ!

 無欲な好敵手。


 必ず生きている事を後悔させてやる。

 必ずだ…


 俺はその日、久しぶりの死を遂げた。

 死ぬまで続いた拷問。  


 必ず報いを受けさせる…

 そう、こころに

 いや、たましいにちかった。

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