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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
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40話 vs 赤騎士 上

「この時を、待っていた」


 そう呟く赤騎士は、徐に兜を脱ぐ。

 そこには壮年の男の顔。

 そして優しい笑みが見て取れる。

 子供を相手取る親のような余裕。

 そして包容力を感じさせる笑みだった。


 場所は、砂煙が舞う闘技場中央部。

 しかしそこに歓声は無く。ただ事の成り行きを見守る者ばかり。

 俺と赤騎士の決着。

 それが目前の迫っていた。


 俺は息が上がり、立ち上がるのがやっとだ。

 そもそもレベルが足りていない。

 情けない事だが、力すら彼の下では後塵を拝していた。

 残るカードは撤退のみ。

 正直な話。お手上げだった。

 我前に迫るは、確実な敗北。

 死なんてものは既に何度も通り過ぎている。

 しかも、俺の攻撃でダメージを受けたそぶりはない。

 完全なる実力の差がそこには存在していた。


 なら、なぜ試合が継続しているのか、

 それは彼の行動に起因する。

 彼が行うのは反撃のみ。

 唯々攻撃を受けて打ち返す。

 試合の開始より一貫してそれを貫いていた。

 それは、有体に言えば稽古。

 稽古をつけられている有様に他ならなかった。


 だが、それも終わり。

 そう赤騎士の気迫が告げている。


 赤騎士が、初めて己から構えをとる。

 闘技場を埋め尽くす濃厚な殺気。

 立っている事すら億劫になるそれは全て俺に向けられていた。


 フッ!

 それを観て俺は不敵に笑った。

 どうせ俺も限界だ。

 最後に一撃重いのをくれてやる。

 拳に力を籠めて、待機する。

 躱される事は知っているのだ。

 なら思いっきり振り抜いてやる。


 覚悟と覚悟がぶつかり合う。

 それは俺らしくもない、漢の戦いだった。



 何処までも続く蒼天。


「今日は良い日だ

 でありましょう?ナナシ殿」


 居もしない相手に語り掛ける。

 青空を眺めながら、

 ここ数日の出来事に思いを馳せる。


「楽しい、日々でしたな」


 思い残す事はあと一つ。

 厳密には他にも存在したが…

 それは雑事だ。

 彼奴に何れ訪れる苦しみを私は知っている。

 だからそれでいい。

 しかし、お前は別だ、ナナシ。


 ナナシの顔を思い浮かべる。

 できる事なら、もっと早く会っておきたかった。

 できる事なら、個人的に会いたかった。

 そうすれば別の未来もあったのかもしれない。

 そうであれば3人で楽しく暮らせたのかも知れない。

 いや、それはないか、ナナシは無類の女好き。

 調べはついていた。

 何れは破局。出戻りの彼女を慰めながら、

 居たかもしれない孫と暮らす。

 そして、駆けつけたクズなナナシを私が殴り飛ばすのだ。


 有りもしない妄想で盛り上がる心。

 もう今生では有り得ない出来事。

 しかし、存在していたかもしれない未来。

 それは本当にくだらない感傷。


 赤いフルプレートを着直し、そして最後に兜をかぶる。

 それはそのくだらない感傷を抑え込む防波堤だった。


「私は運がいい。

 予選で延期になった我らの戦い、

 神は我らの戦いをお望みだ!ナナシ殿!」


 そう叫び、気合を入れる。

 再び組み直された対戦者表。

 私とナナシ、その名が同じブロックに存在していた。

 ナナシは昨日、エルムントの妖精に快勝した。

 あまり褒められた内容ではないが勝ちは勝ちだ。

 そして本日私と当たる。

 決戦の時はきたのだ!


 

 闘技場で向き合う。

 私とナナシ。

 私にもう外野の声は聞こえない。

 開始と思わしき大歓声を聞いた直後。

 ナナシが私に襲い掛かった。

 愚直な拳。

 直線的な軌道。フェイントの無い体さばき。

 全くの素人。

 戦略など何処にもない。

 私はナナシの攻撃を躱さず受ける。

 それはフルプレートを揺るがす重みを含んだ突きだった。

 だがそれだけ。

 私はカウンターで剣を抜き放ちナナシを切伏せる。筈だった。

 闇。そこにはそれがあった。

 クレアノール戦で見せた技かスキル…

 厄介なものに違いはない。

 しかし、それ事吹き飛ばしてしまえば済む話。

 私はカウンターで抜き放った剣をそのまま地面に打ち付けた。

 激しく巻き起こる砂塵。

 その衝撃で闇は私から距離を置く。

 体勢を立て直し闇から解けたナナシを見据えた。


 無傷。

 クレアノール戦でもそうだったが、ナナシは物理無効の力でも所有しているのだろうか?

 いや、あれは完全なる闇化なのだろう。闇であれば攻撃など当たらぬ。

 しかし、そうであれば対処法は存在する。闇化を解いた一瞬を狙うのみ。


 手でナナシを挑発する。

 煽り耐性が低いのか、簡単に誘いに乗ってきた。

 そして、やはり愚直な突き。

 今度はそれを受ける事無くカウンターに入る。

 ナナシもそれに闇化で対応。

 私の刃が触れる間際で闇化し、そして通り過ぎると解除した。

 カウンターに対するカウンター。

 ナナシの突きが私を揺さぶる。

 だが、想定の範囲内だ。

 確信をもって撃ち抜いた打撃に合わせた薙ぎ払い。

 それがクリーンヒットし、観客席まで吹き飛ばされるナナシ。

 土煙を上げながら倒れ込んでいた。


 剣を握る手を見る。

 そこには思いの外、軽い手応えがあった。

 これではまるで低レベルの者を相手にしているみたいだ。

 しかし、ナナシは以前私の斬撃を受け止めた。

 あれが低レベルの所業とは思えない。

 なにか、裏があるのか?


 倒れ込むナナシを見据える。

 土煙の中立ち上がる姿。

 そこなあるのは無傷のナナシ。

 そうだろう、弱者が立ち上がれるわけがない。

 ならばと私も覚悟を決める。

 全力でナナシを叩き潰す。


 ナナシが腕を突き出し黒い球体を生成するのが見える。

 それは不可思議な技だった。

 昨日の試合で見せた技。一瞬の闇夜を作り上げる技。

 その後に残るのは夜盗の被害者のみ。


 私の装備を剥ぐつもりか?

 上等だとも。恐れずしてかかってこい。

 私は気合と共に絶叫する!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 私に向かい黒し球体が迫る。

 そして一瞬の闇が辺りを包んだ。

 それは、世界が作り替わっるような感覚。

 

 ならば、これどうだ?

 私にだって奥の手はある。

 何れ戦うかもしれなかった神獣対策の技が。

 断空裂衝刃だんくうれっしょうじん!!

 暗闇の虚空に斬撃の嵐が巻き起こる。

 それはナナシが出現させた闇夜の世界を

 吹き飛ばすに十分な破壊力を秘めていた。


 暗闇がはじけ飛んだ。

 そして闘技場が沸く。

 その闘技場中央部には夜盗の被害者など存在せず。

 歓声はナナシの技の敗北を告げていた。

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