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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
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39話 泥棒はあの子のハートを盗んだ様です

「最低です」


 ミウからの辛辣なお言葉。

 俺を見下ろしながら言う、その態度には年上に対しての配慮が一遍も感じ取れない。


「アンタ、見下げ果てたよ

 何だあの試合は!あのお嬢さんが不憫でならないよ!」


 フィーさんが激高する。

 その目は、屑を見る目からゴミを見る目にレベルアップしていた。


 恐らくこうなると予想はしていた。

 だから人前で使いたくなかったんだよ…

 心の中でごちる。 

 そこには、目前に仁王立つミウとフィーさん。

 そして、正座の姿勢で説教を受ける俺の姿があった。

 どうしてこうなった…


 クフェに視線をおくり助けを求める。

 目を背けられた…

 自業自得ではあるのだが、納得いかない。

 俺にだって主張はあるのだ。


「アレは正当防衛だった。

 俺だって殺されかけたんだぞ。

 服を引ん剥かれた位じゃお相子にすらならんだろ?」

「アンタ!アレじゃお嫁にいけないよ!

 どうするんだい?アンタはあの子を社会的に殺したんだよ!!」

「そうです、くたばれクズ野郎!」


 そこまでの事か?

 映像機器が発達していないこの世界で服を脱がされても、

 恥ずかしいのは一瞬だけだろ?

 俺なんて実質2回死んだんだぞ?

 つり合いが取れてないだろ、チクショー!

 そして、ミウさんお口が悪すぎないですか?

 お兄ちゃん泣いちゃいますよ?


「そこまでにしませんか?

 お兄ちゃんも必死だったんだと… 思います」


 ようやくの助け舟。

 クフェがミウとフィーさんの間に入ってくれた。

 こうなると、ミウとフィーさんは折れるしかない。

 俺の勝利は揺るがない。

 ざまーみろ!と心の中で叫ぶ俺だった。


「ところで、お兄ちゃん?

 私への申し開きは?」

「へ?」


 正座の姿勢から立ち上がろうとすると、そんな事をクフェが言い出した。

 俺の味方であるはずのクフェが笑いかけてくれない…

 これではまるで敵に向ける視線だ。


「闇の羽衣をあんな事に使うなんて… 最低です。

 それに… 彼女の下着… どうしました?」

「あ!」


 戦利品を忘れていた。

 彼女の下着も今は『獄卒の腰袋』の中。

 証拠物品は今だ俺の手の中である。


「はは、そんな事より俺の勝利を祝おうぜ!

 フィーさんも一儲け出来たろ?

 俺だって戦賞金が出てな、懐が温かいんだ。

 今日は楽しもうぜ!」


 クフェのジト目が俺を襲う。


「俺の奢りだ今日は!

 ああ、そうだとも!普段お世話になってるからな。

 たまにはお返しをしないとな」


 三人のジト目が俺を見ている。

 クフェとミウは可愛い。でも、お婆!お前はキモイから、マジ止めて。


「お兄ちゃん… 次の機会に姫様に報告しますね」


 最凶の一言だった。

 クフェの会心の微笑み。

 それに、俺は…

 逃げ道を失ってしまった。


 そこには俺が額を床に擦り付ける音と謝罪の言葉が響き渡る。

 戦賞金は奪われ、『獄卒の腰袋』から証拠物品として、

 クレアノールから奪った品を全て押収された。

 そして、最後にクフェによる制裁が施されたのだった。



 第一回ナナシ被害者の会。

 そう銘打って、飲み会を開く事になった。

 主賓は勿論、クレアノールその人。

 クフェが持てる権限をフルに使い、

 クレアノールに招待状を出していた。

 勿論、強制ではない。

 今日の昼間に辱めを受けたのだ、拒否権は彼女にある。

 そして俺は彼女は来ないと思っていた。

 しかし、


「私などがお邪魔してよかったのでしょうか?」


 遠慮気味にクレアノールがフィーさんに尋ねる。


「勿論さ、主役はアンタだよ。

 今日はそこのクズの奢り!遠慮など要らん」


 クレアノールが俺を見た。

 そこには少しの恐れと羞恥の色が伺える。

 顔を俯かせ何かを言いたそうに、そして言えないでいた。


「悪かったな」


 俺の一言。

 ちょっと棒読みで語った謝罪。

 しかし、体はしっかりと相手に向けて頭を下げた。

 クレアノールの顔が真っ赤になる。

 頭から湯気がボッとでた。


「止めてくれ。

 アレは私の未熟。

 騎士の誇りに賭けて、断じてあなたの責任ではない」


 ですよね。

 俺は事前に確認したからな当然だ。

 しかし、何だこいつ?可愛いとこあるじゃないか。

 俺から好意の視線を受け、

 クレアノールは更に顔を赤くした。

 しかし、顔を振り直すと、意を決して語り始まる。


「このような場を作ってもらった事には感謝している。

 しかし申し訳ないが、お門違いだ。

 私は… 私の心は… 辱めを受ける前に敗れていた。

 戦いにおいて敗れた者に語る資格など無い。

 それに戦の場であれば、観られるだけでは済まなかった。

 だから彼は悪くない。

 むしろ、私に弱さを自覚させてくれた事を感謝する」


 クレアノールが頭を下げる。

 それはとても丁寧で、心が込められた態度だった。


 おいおい、これじゃ俺がガキみたいじゃないか…


「ちょ、まて…」

「貴方はお強いですね」


 俺の言い訳を遮るようにクフェが口を挟む。

 クフェの眼がミウを見初めた時の様に輝いている。

 そう、あの時と同じ幼年期特有の輝き。


「お兄ちゃん!

 この子をかっ…」

「おい、クフェ!それ以上言うな」


 急ぎ、クフェの言動を手で抑える。

 ミウの時とは違うのだ。

 飼うなって言わせないよ…

 そんなの世間体が悪すぎる。

 ガブ!


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 噛みつかれていた。

 クフェが俺の手からこぼれ落ちる。

 そしてクレアノールに駆け寄ると、


「クレアノール!

 私の物にならない?」


 そんな事を宣った。

 クレアノールは目を白黒させたが、

 自分なりの理解に至ったのか返答を返す。


「それはナナシ様にお仕えすると言う事ですか?」

「「え?」」


 この言動にはミウとフィーさんが動揺を示す。

 俺を睨み付け何か言いたげだ。


「お兄ちゃんは無一文。

 クレアノールを雇えないよ。

 でも私の下に付けば… お兄ちゃんの為に働ける」


 その甘言にクレアノールは躊躇いなく食いついた。

 膝を折り、クフェの前に跪く。

 そして、クフェは満足げに微笑んだ。


「やったね、お兄ちゃん。

 仲間が増えるよ」


 その微笑みが俺に向く。

 それは途轍もなく嫌な予感を感じさせる微笑み。

 そこに何か邪悪なものに感じさせた。


 俺は知っている。

 クフェの暗躍に気付いている。

 でもそれが俺の為である事も知っている。

 お前を信じていいんだよな?クフェ?

 彼女に心の中で問いかける。

 クフェは知ってか知らずか、

 その邪悪な微笑みを絶やす事はなかった。

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