4話 やる気だけでは如何にも出来ない現実と獄卒の本質
―――心地よい風が俺をなでる。
ここは異世界、天気は快晴、風が心地よく、俺は自由である。
辺り一面に広がる草原に俺は体を預け横たわっていた。
気分爽快、このまま風さんに何処かへ連れて行ってもらえないだろうか…
「プッ 風さん… プププ」
頭に声が響く。
「リンちゃん、頼むから俺の心を読まないでくれるか? 」
「すまんすまん、貴様から風さんというフレーズが漏れたので意外だった。
それにその格好で黄昏ておるのは何故だ? 風邪をひいたらまた死ぬ事になるぞ?」
「重たいの… 服が重くて着れないの」
今、裸で草原に寝転がっている訳だが、理由はある。
現実問題として『筋力:1』は伊達ではなかったのだ。
実際には我慢をすると着れるのだが、体力も無いのである。
俺に我慢してまで服を着るという選択肢はなかった。
それに何かイケナイ事をしている気がして興奮するのだ。
青姦を好む者の趣向が少し理解できた気がする。
異世界に来てから俺はリンちゃんと頭の中で会話できるようになっていた。
リンちゃんの姿が頭の中で思い浮かび、まるで直接会話をしている気分だ。
そして担当者であるリンちゃんは今も俺を監視しているとのことだ。
始め、リンちゃんに良いとこ見せようと頑張った俺ではあったのだが…
現実は上手くいかない。既に数度の死を遂げていた。
野党に殺さた。魔獣に引き裂かれた。獣や魚に食われた。この辺りまでは物語があったかもしれない。
しかし情けない事に、かっこいい死に方だけではなかった。
段差でつまずいて死んだり、スプーンが重たくてこぼしたスープが膝にかかり死んだりもした。
そして、その度に死の記憶を持ったまま別の場所にリスポンするのである。
『貴様は死を繰り返す事になるだろう』リンちゃんが言ったその言葉が俺に重くのしかかっていた。
「軟弱者が! それでは社会との交流が持てないではないか、服を着ろ。
貴様はこれからどうするのだ? さすがに貴様の死は見飽きたぞ」
「えっ… 見飽きたとかそういう問題? 」
リンちゃんの口が吊り上がり愉悦を含んだ言葉が漏れる。
「洗浄に付き合う担当者の特権というやつだ。
獄卒にも気晴らしが必要でな、担当している者で遊ぶ権利がある」
「そんな…」
物騒すぎる権利である。
「安心しろ、私は虐待の趣味はない。助言をしてやろうと言うだけだ。
例えば… そうだな、奴隷を買い、それを使って暮らすとかどうだ」
「そこは仲間を集めて手伝ってもらいながら生きるじゃないの(棒」
即答していた。
奴隷が身近にいない世界で生きてきたからか、奴隷と言う言葉に少し抵抗があったのだ。
とは言っても、生前に人身売買などの裏取引に関わっていた為、免疫がないわけでもなかった。
しかし、表立って奴隷を持てる世界か… グフフこれはいいかも知れない。
まあ、それを手にする手段もないのだが。
「どちらにしろ、金がないから無理だな。金を稼ぐ手段もない」
「手段だと? 手段などいくらでもあるだろうに。
きれいごとの世界で生きてきた訳ではないだろ? 貴様の得意分野ではないか」
「良いのか? ここは俺にとっての地獄だろ」
「貴様がいくら薄汚れようと、魂から洗い落とせばそれでよかろう」
そんな事を言いながらリンちゃんは笑っている。
俺は少しリンちゃんの本質を見誤ってたのかもしれない。
それだけ獄卒と言う仕事が刺激を欲するものなのかもしれないが…
―――いやまて、これはチャンスじゃないか?
今リンちゃんは俺に気がある。
そして、仕事に疲れて刺激を求めている。
これは疲れ切った独身OLと同じ、少し優しくすれば簡単に落ちるやつだ。
そして俺はイケメン。いける、完璧だ。
「貴様には、経済力が無かろう。
少しはクズであるという自覚を持ったらどうだ?
私が貴様に惚れると思うのか」
俺は一瞬で凍り付いた。リンちゃんは俺の頭の中が読める。
頭の中にリンちゃんの表情がこれまで以上に鮮明に浮かび上がる。
口を引きつらせ美しい顔を歪ませている。
射程範囲にいれば拳が飛んできそうだ。
「いや、よい。私は貴様を許そう。
恩赦をくれてやる。だから、早く私を楽しませろ」
綺麗だと思っていた黒い瞳が今は濁り淀んで見える。
楽しませろと語る口は酷く吊り上がっていた。
そこには地獄の獄卒に相応しい姿があった。
ポイントを入れて頂きありがとうございます。
これを励みに頑張っていきたいと思います。