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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
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36話 類は友を呼ぶ

 待機室を出て観客席を覗く。

 満員御礼だと思ったそこには空席が目立った。

 会場に入る前の長蛇の列が嘘のような空席。

 最前列の席から数席離れた処まで、客が疎らにしか座っていないのだ。

 普通逆な気がするが…


「おいおい、入口の行列は桜か?」


 思わず声に出ていた。

 前列の席まで行ってみる。

 すると、重装なローブを着た男が俺に駆け寄ってくる。


「お客様。

 これより先は自由席となっております。

 承知されておりますか?」

「へ?」


 自由席なら咎められる必要はないはずだ。

 何を言っているんだこいつは?


「自由なら何故咎める?」

「申し訳ございません。

 本日より開催されます武闘祭は例年より過激な物になっております。

 それに伴い、観客席に展開している魔法防壁では対応しきれないとの判断から、

 範囲を狭める事で防壁の効力を上げております。

 お客様方には申し訳ありませんが、前列での観戦を控えさせて貰っております。

 どうしてもと言う方は自己責任で前列の席をお使い頂きますよう確認している次第で御座います」


 自己責任。

 自由には責任が伴う… か。


「分かった。

 どこに座ってもいいのか?」

「はい、最前列はお勧めです。

 今回の祭は血が飛び交います、とてもエキサイティングなものが観れるかと。

 では、ミュース武闘祭。

 ごゆっくりとお楽しみ下さいませ」


 そう言い残し、ローブの男が足早に去っていく。

 俺の他にも前列に向かう客は多く、声掛けをしているローブの者がちらほらいた。

 告知の貼紙か拡声器とかで呼び掛ければいいだろと思ったが、

 足元を見ると『この先、防壁は有りません。観戦は自己責任で』との貼紙がされている。

 他にもいろいろな場所で貼られていた。

 なるほど、声掛けは必要だった。

 会場の熱気に浮かされた客の目に留まる訳ないよな。

 納得を得て俺は最前列の席へと向かった。


 最前列付近はガラガラと言うわけではないが、空席が目立つ。

 もしもの時、すぐに防壁に飛び込める位置は人気で埋まっている。

 しかし、それ以外の席は疎らだった。

 その中、俺は迷う事無く最前列の空きスペースに向かう。

 そして腰を下ろし闘技場を眺めた。

 辺り一面の砂地。

 余計な物が存在しない砂地。

 そこにリングは存在しない。ただの砂地。

 その砂地へと入場する為の門。

 それはまるで映画とかで観た中世のコロセウム。

 頬に汗が伝う。

 これから起こるだろう殺し合いに、胸が高鳴っている事に気付いた。

 場の雰囲気がそうさせたのか?それとも人としての本質なのか?

 どちらにしろ、予選1回戦がまもなく始まる。



「楽しそうな顔をしているね」


 それは、どこか人懐っこい声だった。

 

 何時だってそうだ。俺は受け身。

 何時だって向こうから話を持ってくる。

 俺に選択肢は無い。

 

 そいつは、平然と俺に笑いかける。


「久しぶりだね、ナナシ君。

 会いたかったよ」


 最悪の相手だった。

 それはへミール。

 へリムへ向かう途中の街道で観て以来の顔合わせ。


「誰だお前?シラン、カエレ」


 胸の高鳴りは消え失せ。

 胸糞悪い思いが、心に込み上げる。


「つれないな。

 私は君に会いに来たのだよ、あの化物にではなく、君に」


 俺を見詰める目がマジだった。


「おい、やめろ! 気持ち悪い。

 野郎に口説かれるとか、最悪だ」

「いい男は、男にもモテる。

 仕方のない事さ。ただ、君の趣向には最大限答えたい。

 女。幾らでも準備はある」

「なん・・ だと・・」


 俺の素の部分が反応してしいた。


「これは良い食い付きだ。

 嬉しいよナナシ君。

 私と君の仲だ、単刀直入に言うよ。

 私の物にならないか?」


 何を言っているんだこいつは…


「私の共に世界を取ろう。

 君からは私と同じ匂いがするのさ。

 正し、趣向が違う!

 私は権力。君は女。

 住み分けは大切だ。君には女を与えよう。

 私たちは、きっと良き同志になれる」

「何を言っている?

 何が同志だ!

 お前はあの子を殺しただろう!」


 あのオッサンの… マーサ。


「手違いさ。全ては行き違い。

 そして殺した主犯は私じゃない。

 暴動とも言うべき出来事だった。

 君と初めて会った時の部隊、その遺族が殺したんだ」

「…俺のせい、だと… 言いたいのか?」


 へミールは優しく微笑む。


「それは違う。君の責任じゃないさ。

 悲しい行き違い。それがあっただけ。

 私はそんな行き違いを無くしたいんだよ。

 私の下にそんな世界を作りたい」


 胸の内を語るヘミール。

 それはとても紳士的な態度だった。


「しかし、私には力が足りない。

 私には君の力が必要なのだよナナシ君。

 そう、君の力が」

「信じられると?」

「時間が必要か?

 ならば、武闘祭の終わりに話をしよう。

 それまで考えてほしい。

 私達が戦友である事を願うよ」


 そう言うと、へミールは俺のもとを去った。


 俺は… 分からなくなっていた。

 この国に来てから、他人に影響を与えない生き方をしようと考えた。

 その筈だった。

 だけどこのザマだ。

 『君の責任じゃないさ』その言葉が頭に響く。

 人は生きていれば何かに影響を与えている。

 そんな事は判っている。そう、わかっているんだ。

 俺は、、俺が悩んでいる事は、、、不毛な事なのだろうか?

 『君は自分の影響力を理解するべきだ』

 そう言って俺を殴った友達、その顔が薄れて思い出せない。

 俺は…

 何かを見失いかけていた。



 ―――ドゴォン!!!

 こだまする轟音。

 俺の近くに巨大な斬撃痕が出来ていた。

 それは、試合が終わりを告げた音。

 闘技場を観るとミウがこちらに手を振っている。

 ミウの周りには動けなくなった出場者が数人倒れている。

 どうやらバトルロイヤル形式で戦ったみたいだ。

 応援してやれなかった。

 残念な気持ちで気分が少し和らぐ。

 そう、俺にも守る物はある。

 守りたい場所があるのだ。

 もう、逃げる訳にはいかなかった。

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