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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
37/45

35話 もののふは馴れ馴れしい

 武闘祭開催当日。

 ミュースの熱気は普段の数倍に膨れ上がっていた。

 行き交う人々が胸を高鳴らせ、興奮を抑え込み、開始の時を待っている。

 商売人が人々に武闘祭のパンフレットや軽食を売って歩く。

 商店は帰りの客を掻っ込む、準備を始めている。

 そんな雑踏が起こす雑音で目が覚める。


 いつものベット。いつもの部屋。

 ただ、ここにクフェの姿はなかった。

 なんだか寂しい気分になる…

 まだ、帰ってきていないのかそれとも会場に直接向かったのか、

 ミウの試合は第一試合だ、朝一番で会場入りしていないと不味いはずだった。


 まさか遅刻していないだろうな… 俺を不安が襲う。

 『ミウが優勝する』に俺たちは全財産を賭けていた。

 もしミウが不戦敗したら俺たちは再び無一文に戻ってしまう。

 出場さえしてしまえば、ミウが負ける事など有り得ない。

 レベル141、クフェとの特訓でさらに強くなっている可能性もある。

 負ける要素が皆無だった。

 出来れレースもいいところだ。

 でも、遅刻すれば全てが台無しである。

 俺は念の為に武闘祭の会場へ向かう事にした。


 会場入り口付近は長蛇の列が出来ている。

 この世界にも順番を守るモラルは存在していた。

 力こそ正義。

 そんな野蛮なスローガンを基に存在してる世界でも、

 秩序は形成されている。

 力による支配がなせる業なのか、人が持つ性なのか…

 どちらにしろ、

 俺は順番を守る気など無かった。必要もない。

 出場枠はフリーパス。特権ですな。

 長蛇の列を見下しながら、俺は会場裏の関係者入口に向かった。



「お通しできません!」


 衛兵が声を荒げる。

 顔パスを主張する俺を不審人物と見定めたようだった。


「は?俺は出場者だぞ?」

「存じております。

 シード枠のナナシ殿。

 ですが決まりですので、通行書をお出し下さい」


 通行書???

 そんな物は無い。クフェから聞いてない。

 俺の動揺に、衛兵が付け加える。


「ルールが変更になった件はご存知か?

 申し訳ないが、その件で大会の規模が膨れ上がり、

 警備も例年より強化しております。

 他国の要人がお越しになられる事もあり、出場者が膨れ上がりました。

 今日は日程が変更され、本戦ではなく予選を開かれます。

 申し訳ありませんがナナシ殿は本戦よりの参加。

 ここを通す訳にはいきません。

 通る場合は通行書を用意して下さい」


 良くわからんが急な日程変更か…

 ミウはどうなるんだ?


「分かった。

 一つ聞きたいんだが、ミウ・ホンジョウと言う選手が出場するはずなんだが…

 来ているか?」

「ミウ様!存じております。

 クフェ様の推薦でシード枠が用意されたにも拘らず、それを辞退。

 初戦からの参加を希望された高潔なお方。

 私、ファンなんです!」


 衛兵が自身の胸の内を語り始める…

 そんな情報はイラン。


「ミウは来ているのか?」

「勿論です!朝一番に入場の確認をしております。

 ですが… ご気分が優れないのか、顔色が悪く…」


 俺はひとまずの安心を得る。ミウは出場するらしい。

 しかし、顔色が悪いか… 一度会っておきたいな。

 通行書… どこに行けば貰えるんだ?

 確認す…


「これはナナシ殿ではありませんか!」


 急な声かけ。豪快な声音。

 振り返ると其処に奴はいた。

 深紅のフルプレート。

 前日、俺に襲い掛かった張本人。


「如何されました?お困りのようですが?」

「ここが通れん!」


 正直に答えた。

 こいつとは関わらない方が良い、そう思ったからだ。

 変に勘繰られて、話が長引くのを避ける。


「それは困りましたな。

 もし良ければ私とご一緒しませんか」

「は?」


 不意打ちだった。

 なぜそうなる?俺は敵じゃないのか?


「私の息子と言う事でご一緒しましょう」


 楽しそうな物言い。

 そこに、昨日の敵意は感じ取れない。


「あの…、聞こえておりますよ。赤騎士殿」


 申し訳なさそうに、衛兵が告げる。


「いやーすまない!

 ここにおるナナシは婿養子でな。私の息子なのだよ」


 そんな事を宣い始めた。

 衛兵は食い下がる。


「先ほどのお話し…」

「息子なのだよ!」


 物凄い迫力だった。

 衛兵の心が折れる音が聞こえた。


「なーに、これを観なさい。

 これで通さないか?」


 フルプレートが勲章の様なものを衛兵に手渡した。


「し、、失礼しました。どうぞお通り下さい」

「結構。

 さあ、息子よ!入ろうではないか」


 そんな強引な申し出に、俺はのる事にした。

 入れるならそれでよかった。

 後は、逃げればそれで済む。


「ありがとう、パパ!」


 出来うる限り気持ちの悪い声でお礼を述べた。

 そんな俺に、赤騎士が身震いする様は少し面白いものだった。



 会場に入り出場者の待機室に向かう。

 それこ大部屋で数十人の出場選手が待機している。

 しかし、ミウを見つけるのは容易い。

 本当に美人は見つけやすい。なぜならそこに注目が集まるからだ。


「大丈夫か?

 体調が悪いと聞いたぞ?」


 目を閉じ精神を集中させているミウに話しかけた。

 無視された。イラ…


「お兄ちゃん。心配だな」


 以前、集中力を高めるミウ。

 イラ… イラ… 気付いてないのか???


「無視しちゃう子には、お仕置きだぞ…」


 そう言いながらミウの胸に指を突き出す。

 ミウの胸の先端、その突起部分を指で…


「ヒぎゃぁ―――ーーーー!!!!」


 俺の指はおかしな方向に曲がっていた。


「クフェ様を裏切るなと言って有る筈ですが…」


 いつもより十倍増しの迫力がそこにはあった。

 まるで、大型の猛獣を前にしている気分だ。


「ミウさんが元気で何より、お兄ちゃんは嬉しいな」

「分かればいい。

 それで兄上。後ろの御仁は?」


 そこには深紅のフルプレート。

 そして、さっきまでの陽気は何処に吹き飛んだのか、

 深紅にあった憤怒のオーラをむき出しにした鬼がいた。


「な・ナナシ殿?そちらの御仁は?」


 ミウと同じような事を聞いてくる。

 どうしたんだ?このオッサン…

 怒りは、ミウだけではなく俺にも向いている。


「パパは気になりますね…

 その女、、、事と次第では、、消えて貰いますかな」

「パパ?

 兄上のご両親?ご両親が健在でしたか?」


 ミウとフルプレートが見つめ合う。

 目と目で何かが通じ合った様だ。


「いやー!中々のお嬢さんですな。

 ナナシ殿の妹君であったか。納得ですな」

「パパさんこそ中々ですよ。

 正直この武闘祭にはがっかりでした。

 クフェ様を相手にした今ならわかります。

 本当に人はゴミばかりだと… でも、パパさんはお強い。

 私には分かりますよ」


 色々食い違ってるが、納得し合ってるなこいつら… 

 ミウのうっかりもここまでくるよ有能に感じた。


 ミウと赤騎士が意気投合している。

 武人同士、通じ合う所があるのだろう。

 ミウは不調では無い様だしもうここに用が無かった。


「ミウ、クフェは何処だ?」

「VIP席です」


 あいつそんなに偉かったのか?

 何故、俺は入口で通れなかったし…

 VIP席、俺も顔を出してみるか… 

 いや、アリア帝国の件もある、やめておこう。

 どうせ試合はミウの蹂躙で終わるだろうしな。


「ミウ、俺会場で応援してるから」

「クフェ様にお会いしないのですか?」

「あいつも忙しいいだろ?」

「そうですね、メルファン殿に連れまわされているかと…」

「だろうな」

「クフェ殿とは?」


 ミウとの会話に赤騎士が割り込んでくる。


「私の妹です」

「なるほど!」


 納得しちゃったよ…

 ミウの一言で、赤騎士は納得していた。

 妹に様をつけるのはおかしくないんですかね?

 これだから脳筋は。


 そんな事を思いながら俺は待機室を後にした。

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