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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
34/45

32話 姫様はちょろくない

「で?貴様、調子はどうだ?」


 不機嫌な声音に一同が振り向く。

 そこには行儀悪く机に腰を掛けた女性がいた。

 その者は、長い黒髪と深淵の様に深く濁り淀んだ瞳が特徴で、

 そしてその瞳はナナシを見据えている。


「いや、悪いな。呼び出して。

 こんな直ぐに来てくれるとは思わなかったよ。

 まさか、呼ばれるのを待っていたとか?かな?」


 こいつ間違いなく元気だ。

 そして私に向かって下種な笑みを向けてきている… 


「私が… 呼ばれるのを待っていただと…

 言うに事欠いて… また、随分と思い上がったものだな」


 冷静さを保ちつつ、何とかナナシに言い返す。

 心配して来てやったと言うのに… なんだその言草は!!

 顔が熱い、、いや、ばれていない筈だ。

 私がナナシを待つなど有り得ん事だ!

 そうだ!そうだとも。。


 ナナシがジト目を向けてくる。

 疑っているのか?この私を?


「まあ、いいけどさ…

 押してダメなら、引いてみろってな!

 案外これでころっと行くかと思ったんだけど、、

 まあ、そんなチョロイ訳ないか」


 完全に見くびられている… だと?

 この私が???


 身体の力が抜ける。

 恥ずかしさで、ナナシが直視できず俯く。

 なんだこの状況は、レンとやり合ってまで、、

 貴様を庇ったのだぞ?この私が…

 なのに何だその態度!!


 グヌヌヌヌ…

 オノレ… ナナシ…


 憤怒が沸き上がってくる。

 今まで溜まりに溜まったナナシへの感情が一つの方向性を探し当ていた。

 ナナシを睨み付ける。


 ―――ドサ!

 リンによる常軌を逸した殺意。

 その余波で、クフェが泡を吹いて倒れた。

 その横ではミウが青い顔をして膝をついる。

 そしてその足元には大きな水溜りが出来ていた。

 この世界において化物扱いされる2人。

 しかし、リンにとっては視野にすら入らない外野でしかなかった。


 リンを中心に世界が崩れていく。

 世界が黒一色に塗り替えられていた。


「おいまて、、りんさん… いや、姫様… それは良くない。

 悪かったって、、、な、この通り」


 動けない事もそっちのけで瞬時に土下座の姿勢をとる。

 黒い世界は丈夫だった。

 筋力35万の渾身の土下座でもビクともしなかった。

 そして、姫様に土下座は効果がなかった…


 怒りのメーターが既に振り切れている。

 一度暴れずに、収まりなどつくはずがなかった。


「や・・めて・・・

 いやぁあああああああああああああああああああ!!」


 俺の悲鳴だけが黒し世界で響き続けたのだった。



 地獄の花園。その庭園。

 そこでもう一人の名無しが、その寸劇を観ていた。


「いいな。ナナシさん。

 リンお姉様すごく楽しそう」


 脳裏で繰り広げられる、

 躾と言う名の遊びを羨ましそうに見詰める。


「この人が… ナナシさんか。

 カコイイな。リンお姉様と殴り合うなんて(一方的)、素敵かも。

 ナナシさん! お姉様! ウフフ」


 楽しそうに微笑む名無し。

 脳裏映るナナシに触れる。

 映像に過ぎない、それから反応が返って来る事はない。

 お兄様!フフフ。

 熱の入った視線をナナシに向ける。


「今度、一緒に遊びましょう。

 フフフ、ウフフ、アハハハハハ」


 独り言が誰かに届く事はない。

 何故ならその庭園は彼女の世界なのだから。


◇ 


「怒り… 冷めましたかね…」


 パンパンに膨れ上がった顔でリンに尋ねる。

 ちなみに、黒い世界は継続している。

 身動きがしやすいので都合は良い。

 殴り疲れて息を荒げたリンがこちらに目を向ける。


「大した生命力ね」


「リンの力なら俺の魂、

 いつでも消せたんだろう?」


「消えたいの?」


「俺はお前と居たい」


 不意を衝く発言。

 真顔の俺にリンは顔を赤くする。

 リンの言葉遣いが、どこか何時もより幼い。

 あれ?これっていけるんじゃ…

 いや待て、いつもの悪い癖だ。

 血迷うな俺。


「ばかじゃないの!」


「バカが一番楽だ」


 見詰め合う俺たち…

 いや行けるだろこれ。

 据え膳食わずして男と言えるのか?

 否。断じて否だ。

 ここは直球ストレート。


「リン! お前が好きだ!!」


「…」


 無言。しくじったか?

 いや違う!もうひと押し。

 ここで壁ドン。イケメンの特権行使!


 黒い世界に壁なんてなかった…


 アカン。沈黙が長すぎる!!

 断られるか?

 この俺が?チクショウ!

 その前に強引に一発。

 手をつけて…


 ―――ドン!

 抱きつかれていた。

 リンは目に涙を蓄え、俺に縋りつく。


 勝った。今度こそ勝った!!

 異世界一勝目。

 ちょろ。

 姫様チョレ―――――――――――!!!

 リンちゃん俺の物!

 俺、大勝利!!!


 これからの妄想が膨らむ。

 リンは間違いなく美人だ。

 俺の正妻で構わない。

 ハーレムの頂点。

 大奥の支配者リン。良いじゃないか。


「良い訳あるか!!!!!!!!!!!!!!!」


 姫様の絶叫!

 俺に抱き着く手に力がこもる。


 まさか、、心を読んでいた??


「そのまさかだ」


 目が笑っていない。

 この世界に連れてこられた時以上の憤怒を感じる。


「まて、そろそろ本題に移らないか?

 俺の力をどうにかしてほしい」


 言い訳紛れに、話を変える。


「お前に力なんてあるのか?糞虫!」


「え?」


 いやな予感がし、

 俺は慌ててステイタスを確認する。

===========================

 ナナシ 21歳 男 人間 


 レベル:1

 HP :1/1

 MP :0


 筋力 :404 (404322/1000)

 体力 :2

 敏捷 :6

 魔力 :0 (0/1000)

 耐久 :2

 耐性 :1


 next :?

 経験値:―


 スキル  :眷属支配(lv1)

 共有スキル:闇の羽衣★

 共有魔法 :獄卒の腰袋(lv1)


 称号 :神の子の主人

 特性 :地獄の囚人 獄卒の憤怒 罪の代償 

     即死耐性★ 自覚なき歯車★

     経験こそパワー★

===========================

===========================

 :特性:

 獄卒の憤怒  

「獄卒の不興の上位特性。罪の重さが更に増加する。

 担当獄卒の任意で二つ基礎能力を低下させる」

===========================

 

 なんですのンこれ…

 1000分の1って事?

 40万が400になってる。

 

 後は、また経験が増えたのか?

 前に見た時は35万位だったはずだ。

 5万も増えてる。

 気になってはいた事だが、経験値の増えるタイミングが良くわからん。

 魔獣を倒しても相手の強さによって一定量稼げるが、こんなにドカッと貰えない。

 俺は何をした?

 理解できれば俺はもっと強くなれる。

 たしか、

 姫様にボコボコにされた。

 後は空に穴をあけた位か…

 そんな事で5万か?


「貴様。

 やはり、悲観せんのだな」


「俺だって悲しくなる事はある」


「本来そこにあるべきは、絶望。

 簡単に希望を見い出してくれるな」


 姫様の怒りは消え、

 柔らかな笑みを浮かべている。

 どこか寂しそうな笑みだった。


「空に穴をあけておいて、

 そんな事か… 全く貴様は呆れた奴だよ。

 私を相手にする事が… そんな事か」


 最後にそう呟くと笑みがまた消える。

 何かを思い出したかの様に目に涙が浮かんでいた。


 ミシィ―――

 体の軋む音。

 おいおい、まさか…


「ナナシの馬鹿――――――――――――――――――――――――!」


 絶叫と共に黒い世界は砕け散る。

 勿論、俺の背骨と共に。


 場所はいつもの宿やいつもの部屋。

 そこには、泡を吹いて倒れる少女。

 失禁し足腰が立たず呆けている少女。

 更には、サバ折にされた男。

 そして、泣きじゃくりながら男を放さない女の姿があった。

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