31話 獄卒たちの茶会
「…。…。何故だ」
リン様の呟きに、私は動揺を示す。
ここ最近のリン様は何時もこんな感じで、
何かを考えてはふと何かを呟く。
自身が不興を買った訳ではないので、
直接関係していないが、こちらに怒りを向けられる事が恐ろしい。
呟いているうちはまだいい。
しかし、一度癇癪を起こし世界を粉々にしている。
勿論すぐに世界は再構築されたが… 本当に心臓に悪い。
理由の見当はついている…
ナナシ殿。
娘と海辺の街で暮らしてると聞く。
だが情報はそこまで。
ナナシ殿の定期報告は途絶えていた。
最初こそ、平然としていたリン様。
しかし、今は…
イライラとした顔立ち。時にソワソワ。
目を離すといつの間にか顔を赤くして剥れている。
そして、はっと何かに気付いた様な顔をすると顔面蒼白になりフリーズする。
まさに百面相。普段の威厳など何処にもない。
とても不安定な精神状態。
私が言うのもなんだが、力を持つ者の責任をしっかり守ってもらいたい。
このまま行くと、リン様に世界は消されてしまうのではないだろうか…
そう思うと私は顔を青くし身震いするのであった。
進言するべきだろうか…
もう一度ナナシ殿の心を読まれるように…
いや、それは無粋と言うもの。
ナナシ殿と会話する事をリン様はとても楽しみにしている。
そこに水を差す事は出来ない。
せめて意地を張らず、リン様、御自らナナシ殿に呼びかけて下されば。
無理だろうな…
私の娘にあんな見栄を張ったのだ。
後悔を『させてみろ』でしたか…
ものすごく後悔してますよね、リン様。
リン様が物凄くションボリしている。
その姿に私はとてもやるせない気持ちになった。
◇
地獄のとある区画。
そこは、辺り一面の花の世界。
咲き乱れる花々は、別の種との調和を崩さず咲き誇っていた。
その中にポツンと存在している庭園。
中央には円卓。椅子の数は3つ。
その一席に一人の少女が座っている。
見目麗しい少女。黒い髪は何処かの誰かを思い浮かばせる。
しかし、虹彩の色は金色。瞳孔は縦に割れ。人ではない事を物語っていた。
そして彼女は待っている。
二人の来客を。
少女には二人の姉がいた。
一人はリンお姉様。もう一人はレンお姉様。
でも、少女には名前が無い…
羨ましいと思った事はない。
でも、私にもお名前があれば… と思う事はあった。
お姉さま達にはお前や貴様で呼ばれている。
お姉さま達が私を嫌っている訳ではない。
でも、どこか寂しい気持ちになった。
「お待たせしましたかしら?」
妖艶な声。白髪に深紅の瞳。
長女、レンお姉様。
私は顔を振り、待っていない事を主張する。
「お前。大きくなりましたね」
レンお姉様が頭を撫でてくれた。
嬉しい表情を隠す為、俯く。
顔が赤いのをごまかせているだろうか…
レンお姉様の手が私の頭から離れる。
少し名残惜しいが、、、仕方がなかった。
「リンはまだですか?」
「はい、リンお姉さまは少し体調が優れないと聞いております」
「そうですか。
今日の本題はリンなのだけど…」
お姉様方はあまり仲が良くない。
姉妹とはそんなものだとリンお姉様から聞いたけど。
私はお姉様達が仲良くしてくれたらいいなと思うのです。
たった3人の姉妹。
私にはこの関係がとても大切です。
「またせたな」
リンお姉様!!
私は機嫌は頂点を迎えます。
お姉様と3人仲良くお茶会…
「遅いんですが!
お謝りになりましたら?」
レンお姉様が不快感を顕わにする。
私の機嫌は頂点から急下降しました。
「わるかった」
それだけ言うと、リンお姉様は席に着いた。
レンお姉様は不服そうではありますが、納得はしたようです。
「それでは、お茶会もとい緊急会議を始めます」
「えーーーーーーーーー」
私の素頓狂な声に
レンお姉様が優しく微笑む。とても怖い顔でした。
「議題はリンの担当。ナナシ君ですか?
彼についてです」
リンお姉様の担当? 衝撃的な内容でした。
リンお姉様は今まで、担当の選考を通した事がありません。
要するにナナシと言う人物はお姉様のお気に入りと言う事です。
心が軋む。
とても不安な気持ちになる…
そでも議題は続きます。
「数刻前。
世界を打破る波動の流れを確認しました。
発信源はナナシ君。
どういう事かしら?
リン?場合によっては強制的な洗浄が必要になるのだけど?」
「自由に生きろ。
そう発したのはレン!貴様だったはずだが?
想定外だったか?」
楽しそうに笑うリンお姉様。
「彼奴がどう生きようと自由だ。そうだろ?」
苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべるレンお姉様。
対称的な二人。
「だがアレは私も想定外でな。
まさかこんな短期間で強くなるとは思ってもいなかった。
アレはバランスブレイカーだ。あんな者がいてはつまらん。
そう言う事だろ?」
「解っているなら早く何とかしなさいな」
レンお姉様の表情が和らぐ。
「それで?どうするつもりなのです、リン?」
「彼奴の出方を待つさ。
彼奴は聡い。あの力の危険性は自覚しているだろうさ」
「何を手ぬるい事を言っているのですか!!
どうせ、リンお前が弄って作り上げた玩具なのでしょ?
さっさと、始末しなさいな!!」
再び険悪な状況が生まれる。
お姉様方、双方の睨み合い。どちらも引く様子が無い。
「彼奴は私の物だ。だが、弄ってなどいない。
彼奴は勝手に強くなった。それだけだ」
「そんな馬鹿な事がありますか!
力の規模が違います。そんな事有り得…」
「無いとは言えないだろ?
あの世界には、色々危険物が放置されていたはずだ。違うか?」
悪そうな笑みを浮かべる、リンお姉様。
レンお姉様は黙り込んでしまった。
「ですが…」
「ああ、対策は必要。
彼奴の出方で、私も心を決めるさ」
レンお姉様がリンお姉様を見据える。
双方真剣な顔。そして、
「解りました。この件は一時不問とします。
正し、早急な対策をリンには願います。
でないと、私自ら動きますよ」
有無を言わせない迫力。
リンお姉様が押されている。
「安心しろ、
今ナナシから連絡が来てな。彼奴、泣き付いてきおった」
「ほう、ならばここで解散ですね」
「えーーーーーーーーー!」
私の素頓狂な声が再び響く。
「お茶会はどうするんですか?」
私の会議初意見に、
お姉様方が優しく微笑む。
はい、とても怖い顔でしたとも…