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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
32/45

30話 経験こそパワー

 宿のいつもの部屋。いつものベット。

 そこで俺は微動だに出来ない状況に置かれていた。

 今動くと、とても不味い気がする…

 心配そうに見つめるクフェ。

 だが今回の件、首謀者は彼女だった。



 事の始まりは、武闘祭出場の件をクフェに尋ねた時だ。

 どうやらクフェは俺に渡したい物があるらしく、

 『それを装備すればナナシさんは強くなれます』

 自信満々にそう語ってくれた。

 武闘祭出場の件もそれを試す為の場所だそうだ。

 理由が俺の為だと言う事で無下にする事も出来ない。

 それに、キラキラと瞳を輝かせるクフェに対し断る勇気が持てなかった。


 俺が強くなれない根本原因。

 『地獄の囚人』『獄卒の不興』『罪の代償』

 この三つの特性による、三重奏とも言うべき鉄壁の壁が、

 俺のステータス強化を妨げているのだ。

 その三重奏を突破する秘策がクフェにはあるのだろう。

 半信半疑ではあるが、強くなれるなら、それは有難い事だ。

 それに、仕事で忙しいクフェと戯れるのも久しぶりの事。

 たまには、子供のお遊びに付き合うのも悪くなかった。

 

 クフェに抱えられて、ミュースを離れる。

 過行く風が心地よい。素晴らしいスピードだ。

 クフェの乗り心地はやはり最高だった。

 ただ一つ、前と違うのは追従者がいる事。そう、ミウである。

 ミウからのジト眼がとても痛い。

 自分で走れと言わんばかりのその視線は、俺の心を抉っていた。

 俺だって、こんな不格好は嫌なんだぜ…

 ミウの評価がまた下がった気がした。


 ミュースから4、5分走った所で俺は降ろされる。

 4、5分と言ってもクフェ達の脚力でだ。

 もうミュースは見えなくなっていた。 

 そこは海辺に面した海岸。

 綺麗な海と白い砂浜。海の青さとひいては返す波。

 思わず燥いで、飛び込みたくなる場所だった。

 しかし人がいない… 殺風景にも程があった。


「こんなきれいな海岸なのに、人がいないとか勿体なすぎる!!」


 思わず叫んでいた。だってそうだろ?

 海辺には可愛い子の水着姿。あって然るべきである。

 

「街から離れています。人がいないのは当然でしょ」


 さも当たり前のように語るミウ。

 まるで俺に常識が無いような言い草だった。

 ミウは怒っている。

 クフェを乗り物の様にした俺が許せないのだ。

 クフェ様に乗るなら私に乗れとまで言っていた。

 何か卑猥に聞こえたのは男として仕方のない事だろう。

 しかし、その申し出はクフェの眼光により却下される。

 ミウは顔を青くしながらクフェに許しを乞うた。

 勿論、それで俺への怒りが鎮火する事はないのだが…


 本題に入る。

 クフェが俺の為に用意した逸品を見せる。

 そこには禍々しい波動が放ち、嫌な予感をさせる、無骨な黒い腕輪があった。


 また黒かよ… それが、正直な俺の感想だ。

 クフェからのプレゼントはうれしい。

 でも、この世界に来てからと言うもの俺の着る服は黒ばかりである。

 最近、色にアクセントを加える手段を手に入れたのだが、細かい事までは無理だ。

 正直痛い服装しか作れない。結局、今まで通りの黒と偶に他の色を混ぜる位の工夫で我慢していた。


 だが、プレゼントはプレゼントだ。

 俺はこれをつける。

 断る事なんてできない。

 そこにクフェの屈託のない笑顔があるのだから。

 俺は腕輪に手を伸ばす。


「待ってください!!」


 クフェが俺を制止させる。

 心配そうに見詰める瞳。

 さっきまでの自信は何処に行ったのか、妙にソワソワしている。


「どうした?」


「それは呪いや悪魔といった名前を冠したアイテムです。

 装備すれば二度と外せません。覚悟はできていますか?」


 え?

 何てもん渡してくれてるの…

 唖然とする俺にクフェが続ける。


「しかし、それをつければナナシさんは強くなれます。

 ナナシさんはレベルが低い。支払う代償も少ないはずです」


 代償??

 俺は既に罪の代償支払ってますよ。

 これじゃ多重債務者になちゃいますよ!!

 俺の心の叫び、、、誰も聞いてないよね…


「このアイテムは代償と引き換えに絶大な力を得る事の出来る代物です。

 それはスキルだったり、特性だったり。基礎能力だったり。

 その… 効果は… 不明です。ですが今よりは良くなるはずです。

 ナナシさんには、強くなって欲しい!!」


 クフェの本音。

 強くなって欲しい… か。

 弱いご主人とかやっぱ嫌だよな?

 俺だったら嫌だもん。当然か。

 クフェは目に涙を溜めている。

 男だったらここは一発…


「さっさと装備しろ!!

 クフェ様から賜ったのだ。

 つける選択肢しかないだろ!!!」


 ミウの咆哮。

 有無を言わさず装着される腕。


「「え?」」


 あまりに出来事に硬直する、俺とクフェ。

 腕輪はそこに存在していなかったように俺も腕に吸い込まれ消えていった。


 …変化が無い。

 クフェとミウも俺の変化を聞きたそうな顔をしている。

 要するに見た目の変化もないのだろう。

 あとは内面の変化。

 俺はステイタスを確認する。


 ―――!? 

 絶大な変化がそこにはあった。

 ふざけた特性名。

 そして、基礎能力値…

===========================

 ナナシ 21歳 男 人間 


 レベル:1

 HP :1/1

 MP :0


 筋力 :354322

 体力 :4

 敏捷 :12

 魔力 :0

 耐久 :5

 耐性 :3


 next :?

 経験値:―


 スキル  :眷属支配(lv1)

 共有スキル:闇の羽衣★

 共有魔法 :獄卒の腰袋(lv1)


 称号 :神の子の主人

 特性 :地獄の囚人 獄卒の不興 罪の代償 

     即死耐性★ 自覚なき歯車★

     経験こそパワー★

===========================

===========================

 :特性:

 経験こそパワー★  

「全ての経験を力に。経験の損失によりレベルは1に戻る」

===========================

 筋力354322だと…

 どういうことなの。


 こちらに期待の眼差しを向ける、クフェとミウ。

 これは俺も期待をせざるえない。


 拳に力を籠める。

 有り得ないような力の躍動。

 これまで感じた事のない充足感。

 十全とはこの事。

 俺は力を込めた拳を天に突き上げた。


 ―――パリィン。

 甲高い響き。

 そして、空の一部が砕けていた。


 唖然とする一同。

 これは見た事がある。

 姫様が神獣に対して行った事。

 姫様は優しく握っただけだったが。

 俺は全力。でも、とどいた。

 姫様の力に…


 グシャ!!

 突然そんな音が響いた。

 全身に駆け巡る破裂感。

 神獣に潰された時の感覚だ。

 俺は血をぶちまけながら、その場に倒れた。

 

 近くで悲鳴が聞こえる。

 意識が揺らいでいる。

 身体が壊れる、、いや魂が壊れそうだ、、

 ああ、そうだろう。。。

 これは人が手にしてはいけない力…

 本来なら一発で自身も消し飛ぶ力。

 とんでもない地雷の特性だった。

 薄れゆく意識の中、

 クフェとミウの泣き声だけが響く。


 この力もう使えないや…

 そう心の中で誓う俺なのでした。


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