27話 クズには信用がありません
ギルドの仕事とミウの手続きをメルファンに任せ、
俺達は宿への帰路に着く。
右にはクフェ。左にはミウ。
良い。実に良いではないか。両手に花。
通りすがる者たちが、興味の視線を向けてくる。
良いじゃないか。
羨ましかろう。当然の光景だ。
これから美人をどんどん追加していく。
俺の王国。俺の世界。
実に小気味よい。
俺のあるべき姿がここにある…
「見て、奥さん! あれ」
「あら、やだ。 クフェちゃん。可愛いい」
「違うわ。その横。クフェちゃんのお兄さん」
「あらあら、あのクズで有名な?」
「そうそう。みて。
情婦かしら? 女を連れているわ。
クフェちゃんが横にいると言うのに…」
「穀潰しと聞きましたけど、お金持ってるのかしら?」
「きっとクフェちゃんのお金よ」
「「本当に、最低のクズね」」
街のおばちゃん達の反応。
そのヒソヒソ話が周辺の者にも伝播する。
俺への羨望の眼差しは消え、ゴミを見る視線へと変貌する。
何かがおかしい… なぜこうなった。
間違っていない事が、尚更たちが悪い。
慌ててクフェとミウの手を掴むと喧騒を抜け宿への道を直走る。
そこに、言い逃れ出来ぬ悪評を残しながら。
◇
宿に戻るといつもの部屋をとり、ベットの上に座る。
新しく増えた仲間にフィーさんが何か言いたそうだったが、無視した。
そんな事よりも重要な話がある。今後についての話。
クフェとミウを向かいのベットに座らせる。
ミウは恐れ多いとクフェとの相席を断ったが、無理やり座らせた。
真剣な表情を作る。ここからは真面目な話だ。
クフェは俺の物。だからこそ今までなあなあで済ませてきた。
でも、ミウは違う。
ミウはクフェに忠誠を誓っているが、それは俺に向けたモノでは無いのだ。
こちらの事情をある程度話し、理解させる必要があった。
「クフェは俺の物だ」
「はい!」
突然の物言い、クフェは嬉しそうにいつも通り元気良く返事する。
ミウは言っている意味が解らないと言う感じで呆然とした後、
眼から光が消えていく。
「まさか、、貴様。
妹に手を掛けたのか?
それどころか、、我が王を物呼ばわり… 万死に値するぞ!」
絶叫と共に刀が抜かれ俺の首筋で止められていた。
予想通りと言うか、何というか…
「ミウ。落ち着け。
真面目な話だ。クフェは俺の眷属だ」
「はい!」
クフェの屈託のない返答。
それを見たミウは驚愕と共に刀を落とした。
「安心しろ。
クフェは俺の物だが大切な存在だ。
俺はクフェを裏切らない。だから、ミウもクフェを裏切るな」
そうすれば、命令権は俺の物、グヘヘ良い感じだ。
クフェが大切と言われ照れくさそうな顔をする。
ミウは俺の邪気を見抜いているのか、少し返答に間が空いた。
しかし、クフェを王と仰ぐミウに否定する言葉はなかった。
俺は心の中で会心のガッツポーズを決める。
勝った。長かった。ここまでどれだけの時間が過ぎた?
俺はここに合意を得た。
店で済ませる、そんな妥協を考えた時期が俺にもありました。
だが、手に入れた。最高の花を。
妥協では到達できない極地がある。
俺はその極地に足を踏み入れるのだ。ニヤニヤ
、
「クフェ。ちょっと遊びに行ってこい。
俺はミウと個別の話がある。グフフ」
クフェがベットから降りると部屋を出ていく。
そしてミウもそれに続く。
「何処へいく!ミウちゃんはここ!」
声を荒げ俺の横を指さす。
ミウは事を把握したらしく、目を瞑り思案した。
そして、口を開く。
「私はクフェ様を裏切らない。
だからナナシさんもクフェ様を裏切らないでくれますか?
クフェ様の御心、裏切るなら… 魂すら切り刻む!!
いずれ我が王になるかも知れない御身… 大切にされよ」
イエス、マム!!
俺は心の中で即答していた。
ミウさん、のほほんとしたキャラはどうしたんですか…
怖い。怖すぎますよ…
しかし、魂すら切り刻むか。
やはり聞いておく必要がある。
顔を真面目なモノに戻し、ミウを見詰める。
そして、
「ほんじょう みう。
君は何処から来た?そして何者だ?」
一番大事な質問。
これを聞かずに仲間とするのはあり得ない。
ミウもこちらの雰囲気を察し、体を此方に向けなおした。
「極東の島国、和。その大名が第3子。本庄 美羽。
今はクフェ様にお仕えする身。ただそれだけです」
大名?第3子?
地獄と関係ないの?無関係?
「地獄から来たんじゃないのか?」
本当に聞きたかった事が、口から滑り落ちる。
「地獄?
ああ、和は絶えず戦を繰り返す国。そんな偏見を聞いた事があります。
この世の三大地獄と言う不名誉な位置付けにされている事も知っています。
他に名を連ねるのが魔国と悪神の住まうとされる神王国だと言う不名誉…
本当に遺憾です。嘆かわしい限りです」
力説するミウ。
俺の勘違いだったか。
まあ、仲間が地獄に落ちる様な悪人で無い事が判ったんだ。
とりあえずは良しとしよう。
◇
ミウと一緒に宿の一階へ。
そこには賑わう酒場とその中で注目を集める少女の姿があった。
クフェはこの街に来てから人気者である。
店中の客から声をかけられ、食べ物をもらったり、仕事のお誘いを受けたりしている。
中には下心を持つ者もいる様だが、店の空気がそれを許す事はなかった。
今や、この時間帯の酒場はクフェにとって一番の遊び場になっていた。
いつものカウンター席に腰を下ろす。
「フィーさん。うちの子働かせないでくれます」
「あ? 何か言ったかいナナシ? 聞こえんよ」
まったく、都合のいい耳だ。
ミウも横の席に腰を下ろした。
クフェを心配そうに見つめている姿はまるで姉の様にも見える。
「ナナシ? そちらさんは何だい?」
「見て分からんのか? 俺の妹だ」
少々無理があるかもしれないとは思う。
なんせ、美男美女ではあるが見た目が違い過ぎる。
クフェの時も怪しまれたのを思い出す。
しかし、妹と言う言葉は年下の女を傍に置くうえで便利な言葉なのだ。
抱けない女ならなおのことである。
ミウにもこの設定で行くと話をつけている。
義兄妹の契が如何のと嬉しそうにしていたが、聞かない事にした。
俺の言葉に暫しの沈黙が続く。
しかし、それは起こった。
フィーさんが哀れな者を見る目でミウを見詰めだしたのだ。
その眼には涙が浮かんでいる。
「さぞ、苦労したんだろうね。
こんな穀潰しを兄を持つ業を背負うとは… 見るに堪えんよ。
ほらこれを食いな!」
持っていた他の客に出す品をミウに与える。
そして目尻にたまった涙を拭いた。
顔を拭き終えるとフィーさんが俺を睨む。
「この馬鹿野郎が!!
自分の妹達をどれだけ不幸にする!!
この子もアンタのせいで捨てられた口だろ!!
いい加減にしろ、この屑野郎!!!」
「え?」
あまりの展開に俺は呆然とする。
周りの客もフィーさんに同意見らしく、俺を睨む。
クフェを俺から隠す様に前へ出る客すらいた…
まずい…
この場にいたら非常にまずい気がする。
すぐさま立ち上がる。
そして全てを放置して俺は宿から逃げ出した。