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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
2章 恬淡な友
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25話 クズは彼女の出自が気になるようです

 少し栗色をした髪を後ろで束ねる少女。

 どこか和風を思わせる服装が印象的な少女。

 更には腰の帯に日本刀?らしき物を差している少女。

 そんな彼女がこちらを見て手を振ってくる。


「これ美味しいよ。

 おにいさんも一緒に食べようよ」


 本日の釣果が無残にも捌かれ、焼かれる。

 焼けた傍から少女の胃に収まっていく。

 満足そうに微笑む少女。そりゃ、美味しいだろ。

 獲れたての焼きたて、そして海の塩味がほんのりきいたソレは絶品だろうよ。


「うまぁーーー。おにいさんも食べよ。

 でないと無くなるよ」


 頬に汗が伝う。

 俺の頭には警鐘が鳴り響いていた。

 それは一瞬の出来事。

 釣果を俺から奪い取ると日本刀?で捌き、指から出した炎で焼いてしまったのだ。

 その手際の良さは、クフェが偶にみせる残忍な一面を思い浮かばせる。


「なあ、おにいさん! 

 要らないの?全部貰うよ?」


 警戒心のない少女は、

 こちらに微笑みながら、さらに食を進める。

 既に釣果の大半を食べ終えている。

 そんな少女の姿に俺は…


「俺の分を食うな!!!」


 それは釣りに出て初めての大物。

 初めての戦果とも言うべき代物。

 それを好き放題やられて黙っていられる俺ではなかった。


「食べるの? いいよ」


 少女から残りが差し出される。

 そこには、魚の頭だけが残っていた。


「食えるか!! こんな物」


「えぇーーーー! 美味しいよ。

 一番美味しいからとって置いたのに…」


 俺の言葉に残念そうな顔をしながら、

 魚の頭をボリボリと食べる涙目の少女。

 少し間の抜けた喋り方をする少女。

 おっとりしていると言えば聞こえはいいが、

 何処か足りてない気がする残念な少女。

 それが、彼女に対する第一印象だった。



 ミウ・ホンジョウ。それが彼女の名前。

 『ホンジョウミウ?』同郷を思わせる名前に俺は驚いていた。

 もしかしって俺と同じ地獄から来た口か?

 そう思ったのだが…

 のほほんとした彼女に地獄が似合うかと言われると… それは無い。

 俺の勝手な感想ではあるのだが、彼女からは悪人の雰囲気がしないのだ。


「なあ、みう?」


「はひ」


 ミウが驚いた顔をする。

 顔が赤くモジモジとした感じだ。

 いきなり名前を呼び捨てたのは不味かっただろうか?


「ミウさんは、何処から来たんですか?」


 直球を投げてみた。

 が、雰囲気はのほほんとしたモノから変わらない。

 言い直しに、少し残念そうな表情で彼女は答える。


「遠い国です」


 その言い回しに動揺する。

 おいおい… 当たりか?

 遠い国? 確かに遠いよな俺の暮らしてた国。

 こいつ本当に罪人か?


「海を越えた辺境の島国です。

 ナナシさんからは何か同郷の匂いを感じまして… 近づいてみました」


 顔を赤くして、照れくさそうに笑う少女。

 これは… 完全にアウトだよ。

 完全に同郷だよ。

 と言う事は地獄出身なわけで…

 何やったの? この子…


「ここにはどんな目的で?」


 慌てて話をそらしす。

 逃げた訳じゃないからな。

 誰も居ない心に言い訳をしておく。

 しかし、ミウはそれに飛びついた。


「武闘祭、ここでもうすぐ開かれる武闘祭が目的です。

 ミュースに強い女の子が現れたと聞きまして…

 今回の武闘祭に興味がわきました」


 興味がわきましたの言葉に殺気が籠る。

 俺にでも分かる程の殺気。

 のほほんとした雰囲気はもう消え失せていた。


「クフェルメリウス殿。

 外見は十を数えるほどと聞きますが、強さは折り紙付き。

 曰く、その脚力は大地を踏み抜き。

 曰く、その腕力は大岩を粉砕し。

 曰く、その咆哮は魔獣の頭蓋を爆ぜさせる。

 こなしたクエストは危険度最大級の物ばかり…

 国から士官のお誘いもあったとか。

 武神か天魔が顕現した存在だとの噂も聞きます。

 武を志す者の末席として、ぜひ真剣勝負を挑みたいのです」


「は?」


 クフェさん…

 俺の知らない所で何をやってんですか…

 また頬に汗が伝う。

 背中が汗でびっしょりだ。


「武闘祭… 彼女はデナインジャナイカナ…」


「いえ、優勝者との手合わせが約束されています。

 この国の王が士官を断る代わりに確約したそうです。

 敵に回るかもしれない存在の強さを見ておきたいのでしょう」


 適当な俺の受け答えに、彼女は目を輝かせ反論した。

 しかし、それは少女が持つ輝きではない。

 獲物を射抜く様な強烈な眼光だった。


「そんな危ない奴と戦わない方がいいんじゃ」


「勝算はあります。

 私も故郷で武神と呼ばれていますから。

 勝利の暁にはナナシさんにご馳走しますよ。

 今日のお礼です」


 自信たっぷりに微笑む少女。

 ミウさん、俺の故郷ではそれをフラグと呼ぶんですよ…

 それにクフェは正真正銘の化物…

 どちらかと言うと天魔です。

 忠告するべきだよな…


「やめておけ!

 アレはきっと人が手を出して良い相手ではない」


 真剣な顔をしてミウを見据えた。

 ミウは驚いたものの、

 何かを納得した様に返答する。


「お知合いですか?

 大丈夫ですよ。

 真剣勝負とは言っても、殺し合いにはならないはずです。

 それ位の処置、国がしてくれています」


 だからそれもフラグだって…


「ナナシさん付いて来て下さい」


 ミウは俺にそう言うと防波堤の先端まで案内した。

 そして徐に日本刀?の柄に手を添え、広く澄み渡った海を見詰る。

 意を決したのか、深く腰を下ろし抜刀の構えをとった。

 ミウが見詰める先には巨大な岩礁。

 しかし、此処からではかなりの距離があった。

 これから何をするのか理解したが、その構えがはったりにしか見えない。

 ミウの体から波動ともいうべき目に見える闘気が迸る。

 意識が一点に集中されていき、それは起こった。


 「斬」という音が聞こえた気がした。


 ミウの刀が振り抜かれ刀身を顕わにしている。

 刀身の先には薄っすらと残影が残っていた。

 岩礁に変化はない。いや…


 ―――ドドドドド!

 轟音は遅れてやってきた。

 斬られ崩れいく巨大な岩礁。

 そして、斬られた場所から火の手が上がる。

 崩れた岩礁で起る波。その波を受けても火は消えなかった。

 岩が熱せられ爆ぜるその光景を前にしながら、俺は思う。

 こいつも化物だと…


 歯車が廻る音が聞こえる。 

 運命が動き出す。

 俺の知らない場所で… それは始まっていた。 

 俺の知らない時に… それは起こっていた。

 物語は動き出す。


 目の前で、少女が高らかに笑う。

 その眼には勝利を確信した光があった。

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