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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
1章 自覚なき者
21/45

20話 苦境に立たされるとクズは… 上

 霊峰ガルガットのお膝元にある森林を抜け、クフェと街道を歩く。

 現在、俺たちはガッハーク北部の草原地帯を通る街道に入っていた。

 この街道を南下すれば砂漠地帯を通らなくて済むとクフェが告げたためだ。

 目的地は交易都市へリム。

 俺の欲望を満たせる場所が其処にしかないとクフェは言う。

 ガッハーク北部は元々農村地帯であり、娯楽施設がそもそも存在していない。

 しかし、南部に行けばその限りではないらしい。

 アリア帝国中央部からの流通も盛んで賑わいがあり、

 そして中央よりも締め付けが弱く血気盛んな街だと言う事だ。


 今の俺には危ない場所かも知れないがクフェもいる。大丈夫だろう。

 そして何より限界なのだ。ここに来てから溜めに溜め込んだものを発散したい。

 娼館とかあるだろうし、奴隷を買うと言う選択肢もある。

 品質は一地方都市にすぎない為に期待薄なのだが、そこで我慢する事に決めた。

 背に腹は代えられないのだった。


 隣を歩くクフェを見る。

 大人びた表情。しかし幼い肢体。

 俺に知識をくれる時はまるでお姉さんの様な表情をする時さえある。

 だが11歳である…

 神獣との会話で知ってしまった事実。

 小学生なんだよな… 紳士として手は出せなかった。


 ◇


 南下を開始して数日が過ぎていた。

 正直ここまで遠いとは思っても居なかった。

 たまに出来わす商隊から水や食料を調達する。

 勿論、襲ってなんていないよ(棒)

 金はそれなりにある。そして、狩で得た獣の皮との交換にも応じて貰えた。

 やっぱギブアンドテイクでしょ、常識的に考えて。


 え?

 なぜ商隊に運んでもらわないのかって?

 そんな事… 忘れてましたよ。

 それに、クフェは野宿をすると楽しそうに笑うのだ。

 そんな密かな喜びを取り上げるなんて卑劣な事、俺にはできないよ(棒)

 俺自身への言い訳は完璧であった。

 はあ、空しい。

 そして、しんどい…


「クフェ!」


「はい!」


 突然の呼称にクフェがびくりと返事をする。


「ちょっと、遠すぎない?」


「そうですか?

 後三日も歩けば着きますよ」


 平然と言ってのけるクフェに少しイライラする。


「無理…

 歩けない、死んでしまします」


 そこには、11歳の少女に弱音を吐く大人の姿があった。

 勿論、俺なのだが…


「乗ってください」


 クフェが屈み込み俺に背中を見せる。

 え?おんぶ?

 さすがにそれは…


 はい、快適でしたとも。

 風を切る速度。乗り心地。どちらをとっても最高。

 手に伝わる柔らかさもグットですクフェさん。

 そして何より闇の風呂敷でおおわれている安定性。

 揺れなんて気になりませんでしたよ…ハハハ。


 大人が子供におぶさる姿がそこにはあり、

 そんな俺を見る街道上の視線がとても冷たいモノだった。



「あとどれぐらいで着くんだ?」


「数十分と言うところです」


 三日が数十分だと?

 初めからこうしておけばよかった。

 本当にクフェ様々だ。何かお礼をしないとな。


「なあ、クフェ」


「なんですか?ナナシさん」


「町に着いたら、お風呂一緒に入ろうな。

 洗ってやるから、俺の背中もよろしく・な、うお! ごふ、へぶ」


 ドオ―――ン!

 俺は街道に放り出されていた。

 クフェが顔を真っ赤にして急ブレーキをかけた為だった。

 交通事故で車から投げ出されたらきっとこんな感じだろう。

 シートベルトの重要性を理解した瞬間だった。


「いてーーー。どうしたんだよ」


「すいま…せん」


 何時もの元気のいい返事はなく、

 顔を赤から青に変え俯いてしまった。

 そこには親から怒られるのを待つ子供のシュンとした顔があった。

 それを見た俺は、頭に手を乗せ撫でてやる。


「!」


 クフェが俺を見て不思議そうな顔をした。

 俺はそっと笑いかけ。手を差し出す。

 クフェは戸惑いはしたものの勢いよく俺の手を握ってきた。

 そしてそれを握り返す。小さな手だった。

 守ってあげたくなるような手だった。

 自分が少し顔を赤くしてるのではと気づき、クフェから顔を背ける。

 まだ、先は長い。

 俺はクフェのてお引き街道を歩き出した。


「あの… ナナシさん。

 私、臭いですか」


「いや、クフェは良い匂いだぞ」


 即答してやった。

 クフェはあまり納得していない顔をしているが、

 そういう事にしてくれたみたいだ。


 勿論、旅の途中であり、身体を洗う機会は少ない。

 少し匂うよ、当たり前だろ?

 そう、生きている匂いと言う奴だ… 



 俺も生きているんだよな?不意にそんな事を思った。


 貴様は死を繰り返す。姫様の言葉だ。

 死ぬと言う事は生きている。当たり前だ。

 しかし、俺には死への恐怖が欠けてる。

 俺は不用意に死に過ぎていたのかもしれない。

 本来あるべき、危険信号である恐怖。俺は何処で失った?

 俺はどこかで死への抵抗を無くしていたのだろうか?

 何かとても大切な事を忘れている気がした。

 自分の死が二の次…そんな事、俺にあるはずがない。

 そう、俺は自分が大切だ。

 それはきっと、クフェであっても…

 姫様であっても…

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