19話 ナナシさんとの生活
最近の生活は単調です。
朝起きて、寝ているご主人様をおこさない様に傍を離れ
狩りに出かけます。狩とは言っても朝食用です。
小さな草食獣を見つけて殺してさばきます。
毛皮は売れるので後でご主人様に渡します。
後は木の実や果実を探し、そして川で水を汲み
朝の作業は完了です。
料理はご主人様がします。
私は生でもいいのですが、それをご主人様は良しとはしませんでした。
そしていつも怒ります。何故、血抜きをしないのかと。
良いじゃないですか、血の滴る肉こそ至高の味です。
ご主人様は何もわかっていません。
その辺いずれ話をつける必要があります。
昼間は仕事と稽古です。
私達の近くを商隊が通れば襲います。
勿論、通行料を払えば見逃しますが。
ご主人様はカワイイ子がいないといつも唸っています。
本当に困った人です。
獲物が通らない時間は稽古の時間です。
ご主人様は経験値稼ぎと晩御飯の調達に向かいます。
私はその援護です。
ご主人様の動きがだいぶ様になってきました。
とは言ってもレベル1のままですが…
ご主人様がこれは呪いだと言っていました。
確かにそういった知識が私にはあります。
呪詛や呪具といった呪いの力です。
あまりお近づきに成りたくありません。
いずれは解けるとの事ですが、何時になるんですかね…
闇の羽衣。私の託したスキルをご主人様は好んで使います。
その使い方も段々理解してきたみたいで、洗練されてきました。
後は攻撃に転じて使えるようになれば、大きな力になります。
ですが、基礎能力が低いうちは教えるつもりはありません。
逃げに徹してもらう方が生存率は上がるのです。
そうこうしている内に小型の草食獣を2体狩り終えました。
ご主人様はゼイゼイ息を切らせています。
本当にダメなご主人様です。
やはり、私が守らないとだめですね。
ご主人様は姫様への定期的な報告をします。
私はあまりそれが好きにはなれません。
ご主人様の楽しそうな顔が見て取れるからです。
私は居た堪れなくなり、その場を離れます。
勿論、無防備なご主人様に意識を向けてはいますが。
話が終われば私とご主人様の時間です。
夕食をとりながら、話をします。
とは言っても話題なんて特にありません。
ですが、ご主人様の顔を見ていると
なんだか落ち着き、楽しくなるのです。
とても、とても、楽しい時間です。
眠く、なって、きま、した。
◇
眠ったクフェに布をかける。
火に薪をくべ、火力を上げる。
俺は今後について悩んでいた。
姫様とは見栄を張って会話しているが、やはり自信はない。
なる様になる。俺のアイデンティティーが揺らいでいるのを感じる。
俺は動揺していた。先の300名の部隊。
あんなものがまた来たら?クフェにやらせる?
そんなものが続くはずがない…
いずれもっと大きな者に消されるだけだ。
俺も強くならないと…
そして、今。
必死で頑張ってはいるのだ。
だが、結果はレベル1。
俺の底が見えている気がした。
無いモノをねだるな。姫様に言われた言葉が頭を過る。
本当にその通りだった。
俺には何もないのだ。すべては借り物の力だった。
飽きたな。この生活。
街に出て遊ぶか。
不意にそんな事を思った。
人前に出る前にレベル上げたかったけど…仕方ないよね。
クフェの心も知らず。
俺はそんな風にこれからを決めた。
さて寝るか。
布をもう一枚取り出しかぶる。
もう一度、火に新しい薪をくべる。
見張りは必要ない。
何故ならここいらの魔物がクフェを恐れて近寄らない為だ。
ホントこんなに可愛いのに…
クフェの頭を撫でた。
気持ちよさそうな寝顔が其処にはあった。
クフェと体をくっつけ俺も眠る事にした。
◇
朝です。
今日は何時もよりご主人様が私にくっついています。
昨日は寒かったのでしょうか?
自分の布をご主人様にかぶせます。
ご主人様の寝顔… ゴクリ…
私は、顔を近づけていき、そして
ペロリ。
頬を舐めていました。
すぐにやった事を後悔します。
顔が真っ赤な事が自覚でき、この場に立っていられませんでした。
慌てて森の奥へ今日の朝食調達へ向かいます。
変革は突然でした。
帰ってくると、ご主人様が私にこう言ってきました。
「町へ行こう」
私は…
「はい!」
元気よく返事をします。
ご主人様もいつも通り笑いかけてくれました。
少しの名残惜しさを感じながら。
私は、ご主人様についていきます。
ご主人様の笑顔は私が守ります。