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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
1章 自覚なき者
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16話 神獣の心労

「どうした、貴様。

 気分が優れんのか?」


 顔色の悪い俺に姫様が語り掛けてきた。

 神獣を連れ帰ってから、暫く音信不通になっていた為、

 懐かしく思える。ああ、俺の癒し。愛しき人。


 目を瞑り姫様のイメージを鮮明にする…

 するとそこには、姫様の他にもう一つの巨大な影があった。


「なんですか・・それは」


「質問に質問で返すとは…

 貴様、本当に疲れておるのか?

 まあよい、どうだ?

 なかなか様になるであろう」


 姫様の後ろに控える大きな影が俺をのぞき込む。

 首?には大きな首輪がされており連なる鎖を鳴らした。

 影が一つの形を造る。

 そこには鎖に繋がれた大きな狼の姿があった。


 あはは、似合ってるね… 

 最初から凶悪な雰囲気を持つ姫様が化物を従える図…

 ラスボスだ… いや裏ボスかな…


「おい、どうした?

 似合ってはおらんのか?」


 少しハニカンで聞いてくる。姫様に何時もの威厳はない。

 視線を逸らし、てじかにあった神獣の尻尾を掴むと手の中でモフモフさせながら、俺に期待の視線を送ってきた。


「似合ってますよ。

 何というか、神に守られる薄幸の美少女って感じで絵になります」


 いつもの適当であったのだが、

 姫様が怒ってくる様子が無かった。


「そうか」


 姫様はとても上機嫌だった。表情から笑顔が漏れる。

 …有りえない。素直にそう思った。

 普通なら侮ったと怒られるパターンだ。

 彼女は心が読める。故に不意を突かれた時点で俺の負けなのだ。


「貴様の目にもそう映るか。私も捨てた者ではないな。

 貴様の事だから悪の組織の首領だとか言うと思ったが、中々に口がうまい奴め。

 心を読まない会話と言うのも中々に楽しいものだな」


 姫様の予想がニアピンすぎて汗が出たが、動揺を抑える。

 

「心を読まない会話ができたのですか?」


「ああ、可能だ。

 だが、少し前まではする必要が無かった、それだけだ。

 心を読むと言う事が意思疎通の阻害になる可能性を失念していてな。

 勿論、必要な時には使うが。貴様との会話には控えようと思う。

 その方が楽しい…のだ」


 照れながら話す姫様は、大人びた雰囲気から離れ

 幼さを漂わせる天使に見えた。

 姫様。あんたがNo1だ。何処までもついていきます。

 俺は心の中でそう叫ぶのだった。


「ところで貴様。

 私は神獣がほしい。今回の件で私は飼う喜びを知った。

 聞けば、こいつの他にも可愛がりがいのある存在がいるそうな。

 探せ。捕らえるのは私がやろう」


 可愛げのある顔から一変、

 邪悪を帯びた表情はいつもの姫様だった。

 有無を言わさず協力しろと目が言っている。

 一人で探せよと思った事は勿論内緒であった。



 一応の報告を終え会話を切ろうとした時である。

 神獣が慌てて俺に話しかけてきた。


「ナナシ殿。

 少しお聞かせ頂きたい事があります」


 予想はついていた。


「クフェルメリウス。

 私の娘は無事でありますか?」


「クフェなら無事だ」


 俺の言葉に安堵したのか、

 目尻から涙がつたっていた。


「化物が泣くなよ…」


 失言にも気づかず、

 ただただ、神獣は涙を流していた。




「ナナシ殿。

 これからも娘を頼みます」


 落ち着いた神獣が頼み込んでくる。


「あれは、なかなかの器量です。

 上手く遣えば一国を落とす事も可能でしょう。

 ですが幼い。あれを生んで11年。

 あの子は心がうまく成長していないのです。

 ちぐはぐな感性。自分に都合のいい正義感。

 そして私の与えた知識と経験…

 私が言うのもなんですが、

 あの子は心に化物を飼っています。

 ですが、どうかあの子を見捨てないで下さい」


 俺はそれに即答した。


「ガキが不安定なのは何処も一緒だ。

 お前のせいじゃねーよ」


 晩婚で子宝を授かるのが遅れた親が

 子供に向ける行き過ぎた愛情を感じる。

 神獣でも子育てには苦労するのな。


「ダダジドノ… アリガトウゴザイバズ」


 再び涙を流しなが礼を述べてきた。

 神獣が感涙している。

 おいおい、いつもの適当だぞ…


 神獣が言う事を終え姫様の後ろに下がる。

 この光景は確かに絵にはなるのだが…

 犬を飼うお嬢様て感じだな。

 ラスボスの威光はもう存在していなかった。



 ◇



「良い匂いがするな。

 貴様また何か始めたか?」


 急な質問だった。

 姫様が楽しそう笑う。


「怒り、いや… うまく味付けすれば憎悪になるか?

 心地よい下種の匂いも混ざっておる。これは面白い」


 姫様が何かを理解した様にこちらに微笑む。


「貴様は本当に良いものだ。

 私は本当に果報者よ。ハハハハハ」


「なにを…」


 俺は姫様の言っている事が理解できなかった。

 心当たりすらなかった。

 ただ、漠然と不安だけが過る。

 その時だった。 



「ナナシさん敵襲です」


 頭の外からの声に姫様との会話を切る。

 慌てたクフェに報告を求めた。


「どうした」


「それが、騎士団と思われる約300名の部隊が、

 こちらの方に向かっています」


「何故敵だと?」


「先日逃がした男が部隊の中にいます」


 どうい事だ?

 盗賊行為に300人の部隊??

 対応が過剰過ぎないか???こんな筈じゃ…

 放心する俺にクフェが告げる。


「大丈夫です。

 あれぐらいなら私でも行けます」


 頼もしい限りだった。

 クフェならいけそうな気がする。


「頼めるか?」


「はい!期待に応えますよ」


 笑顔がとてもカワイイ。

 これから300もの部隊を相手にする者には見えなかった。


 しかし、これはなんだろう… 寒気がする。

 クフェは勝つ。当然だ。

 ならなぜ…

 

 結論から言う。

 俺はこの時逃げるべきだったのだ。

 この先に待つのは過去のトラウマに似た風景。

 俺の隠したいトラウマがもう一度現実に起ころうとしていた。

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