15話 クズはお預けをくらったようです
ふぅ。
大漁!大漁!
これは俺の野望が叶うのもすぐだな。
重装の男5人が出てきた時はまずいと思ったが。
何とかなるものだ。主にクフェがやった訳だけど。
それにクフェから得た闇の羽衣は有能なスキルだった。
お手軽にステルス効果を得る事ができるうえに、
闇でいる間は敵の攻撃が当たらないのだ。
俺も攻撃できないけど、そんな事は気にならなかった。
また、副産物として全裸を卒業する事が出来た。
闇を纏う事によって、黒い外套に似せた物を着ている。
黒一色なのが痛々しいのだが、外套に飽きれば鎧と言う選択肢もある。
こちらの世界の基準に合わせた服を象ればバリエーションは増えそうだ。
本当に万能スキルだった。
そして、今回の戦果には臨時ボーナスがあった。
「ナナシさん、この人如何するんですか」
「これからグフフな罰を与えるんだ。
俺を殺そうとしたんだ当然だろ」
クフェの疑問に俺はそう答えた。
しかしクフェは不満の様だ。
可愛い仕草の思考をしながら足元を見る。
そこには軽装姿の少女が倒れている。
布と木の枝で作った簡易の猿轡を噛ませ、後ろ手に縛り上げていた。
「私が、殺しましょうか?
でも罰を与えるなら全員捕まえたほうが良かったと思います」
何言ってんですかこの子は…
人を殺して事件を大きくするのはまだ早い。
俺にはまだ力が無いのだ、小規模な相手ならクフェで行けるが。
もし大軍が攻めてきたらどうなるか…
その時はその時か。
今は戦利品を楽しむのが先だった。
「クフェ。殺すのはだめだ。殺すには勿体ない。
その子は罰を与えて帰す」
「そんな事をすれば、報復に来ます」
「その時は、また捕らえて罰を与える。
願ったりかなったりだな。
クフェは俺を守ってくれるだろ」
それはクフェにとって卑怯な質問だった。
見殺しにできるわけがない。ご主人様だし…
顔を赤くし俯いてしまう。
それをナナシは肯定ととった様だった。
「グフフ、お楽しみをはじめますか。
クフェは少し離れたところで周囲を見張ってろ」
「いえ、私もここにいます。
ナナシさんの捌け口にするにはこの女は危険です。
この女を奴隷商に売り払う事を推奨します。
捌け口は奴隷商から買えば良いと思います。
そうすれば報復の可能性も薄れます」
クフェはこれから俺がする事を理解している様だ。
どれだけムッツリさんなのこの子…
たまに大人びてみえるし、まさか合法ロリと言う奴か?
いやそれはないか、神獣の慌てる様は幼子を探す感じだったし。
しかし、この子の倫理観はどうなってるんだ?
簡単に殺すとか言うし、人を売り払うという事にも躊躇いが無い。
でも村人は救おうとする。どうやったらこんな子が…
いや、そうだこの子は魔獣だった。
人間の倫理観など期待でる訳がない。
俺はクフェに尋ねる事にした。
「クフェ、俺は大切な存在か」
「はい!
ナナシさんは大切なご主人様です」
何故会ったばかりの人間にここまで心を許すんだ?
母親が気掛かりだからだろうか?
それとも魔獣の感性なのか…
瞳が綺麗に輝き俺から目を離さないその顔は嘘をついている様には見えない。
「クフェ、俺が好きか」
「はい!」
照れながらではあるが
しかし力強く答えるその様は本当に可愛かった。
「なら俺を守れ」
「はい!」
クフェは嬉しそうに笑っていた。
即答に対して俺は取りあえずの安堵を得る。
そして…
「だが、俺は止められん」
闇の羽衣を解き全裸になる。
そして軽装の女の子に飛びついた。
「ぎゃーーーーーーーー」
俺の絶叫が響く。
軽装の少女が頭突きをしてきたのだ。
そして、ひるんだ俺を押しのけて逃げ出した。
どうせ解くからと足を縛っていない事が裏目に出た。
「だから危険だと言いたのに。
ナナシさんは本当に弱いんですよ。
死なないのが謎ですが自覚されてます?
意識があって身動きが取れる子を襲たって返り討ちにあいますよ」
正論だった。失念していた。
俺はイケメンで、可愛ければ来るのを拒まず食ってきた。
自分から襲う必要なんてなかった。
嫌々と言いながら最後はみんな俺に身を任せてくれた。
要するに嫌がる相手が俺に抵抗する事を忘れていたのである。
本当に失態だ。
「クフェ。追え」
「いやです」
ニコニコ顔でクフェが拒否を示した。
「忠告を聞かないご主人様は嫌いです」
笑っていた目が開き、俺にゴミでも見るかのような視線を向けてくる。
クフェの雰囲気に気圧され後ずさる。
「ご主人様としての自覚が足りていません。
あの獲物は授業料として頂きます」
言うが早いか、クフェから少量の影が飛び、
こちらを振り返る事もせず逃げる軽装の少女の頭を撃ち抜いていた。
そこには俯せに倒れ、こと切れた少女の姿があるだけだった。
「本当にダメなご主人様です。
私がじっくり育てないと」
不穏な声が聞こえたような気がした。