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クズはクズ箱の中でもクズでした  作者: モモノ猫
1章 自覚なき者
13/45

13話 そして神は出荷される

 そこには、酷い光景が広がっていた。


 1つは跪き、天を仰ぎ見ながら泡を吹く全裸の男。

 1つは吐瀉物を口から垂れ流し、地面に蹲る幼い少女。

 最後に手を汚らわしそうに振りながら号泣する女だ。


 娘を助けたい神獣は、戸惑っていた。

 自分の行動が娘の命に繋がると考えていたからだ。

 本心では娘の傍に駆けつけたかった。

 吐瀉物で喉を詰めていないか心配だった。


 勿論、神獣の行動を遅らせている原因はリンである。

 リンの殺気から解放され動けるようにはなっていたが、

 いつ動き出すかわからないリンに目が離せない。

 娘を素早く連れ出しても、逃げ切れる自信がわいてこなかった。


 覚悟を決した。

 神獣は人のカタチをとりリンの傍まで近づくと跪いた。


「畏れながら、名のある神とお見受けします。

 どうか私の命一つでこの場を納めてはくれませんか?

 どうか娘とその男はお目こぼし下さい。

 私は、どの様な所業でもお受けいたします」


「頭が高い

 平伏の仕方も知らんのか?」


 リンの冷たい声が響く。

 泣き腫した顔を手で拭いながら、神獣を見据える。

 神獣は何も言わず体勢を変え、地面に額が付くのも構わず深く平伏した。

 リンの顔には愉悦の色がにじむ。


「貴様、勘違いしているぞ。

 あの男は私の物だ。そしてその眷属も私の物だ。

 お目こぼしだと?何故そんな配慮をする必要がある?

 それに貴様から貰うものなど無い。私が目を付けたのだ。

 貴様の命がもう貴様の物で無い事ぐらい理解しているのだろ?

 掌の命だ。どーだ?貴様から私は何をもらう」


 神獣にとって予想もしていない返答だった。

 掌の命?私の命は既にあのお方の物…

 体が震えだす。汗腺があれば汗が止まらなかっただろう。

 リンから漏れる尋常ではない重圧に押し潰されそうだ。

 何を贈ればいい。何をすれば納得する…

 神獣には娘を助ける方法が思い当たらなかった。


「激情のまま私に怒りをぶつけんのか?

 意気地のない事だ。娘が大事ではないのか?」


「大事です!」


 リンの重圧をはねのけ神獣が吠える。

 リンは少し驚きの表情を見せたが、

 膨らむ愉悦の感情がそれを抑えた。


「良い返事だ。ご褒美をやろう」


 言うが早いか、リンは神獣の頭を踏みつける。

 丁寧に優しく踏みつぶさない様にそれでいて額が地面で擦れる様に。

 リンは内に秘める加虐心が満たされていくのを感じていた。


「てい」


 頭を叩かれる。リンは頭を押さえながら。

 後ろの人物を睨んだ。


「何をする貴様」


「お前が何してんだよ!」


 そこには珍しく真剣な顔をした。

 ナナシの姿があった。



 ◇



「さっきも言ったが、娘の前だ。

 もう少し気をつかえ」


 姫様を睨む。


「貴様がなぜ指図する」


「主の教育も偶にはしないとなと思ってな」


 適当を宣う。


「言うに事欠いて教育だと?

 貴様、立場が理解できていないのか」 


「理解も何も、罪人と獄卒だ。それ以外にあんのか?」


 真面目な顔をした反論に、姫様の表情が曇る。


「姫様さぁ。あれ」


 ナナシが指し示すそこには、クフェの怒りの表情があった。

 神獣とは違い今にも襲い掛かろうという気配がする。


「恨まれてるぞ」


「だから何だ」


「後々飼い犬に手を噛まれる事になる。俺の野望が遠のく。

 姫様は俺の生き方を見たかったんじゃないのか?

 そうじゃないなら本当に罪人と獄卒、それだけだろ」


 言っている意味を理解した様だった。

 姫様の足が神獣から離れる。動揺が顔に出ていた。

 図星つかれた位で動揺するんだからこれ位でいいか。

 最後に本当に言いたかった事だけ述べる事にした。


「時と場所を選べよ、姫様」


「「!?」」


 場が凍り付く。

 あれ?何かまずったか?

 神獣が呆けている。クフェが何か言いたそうに睨んでくる。

 姫様は怒っていない事に気づいてホッとしている様だった。


 クフェが俺に近づいてくる。

 可愛い口から牙がはみ出している。


「ナナシさん。聞き間違いですかね?」


 クフェの矛先が俺にすり替わっていた。

 へ?何で怒ってんの?俺良い事言わなかったか?

 じりじりとクフェが詰め寄ってくる。


「やめろ、吐いた口近づけるな」


 止めの一言だった。

 ブチ!!そんな音が聞こえた気がした。

 クフェが俺の腕に噛り付いていた。



 ◇



「貴様に後は任せる」


 姫様はそれだけ言うと。

 神獣を連れて帰って行った。

 

 姫様が下した沙汰はこうだった。


 ・クフェの従属を認める。

 ・クフェの面倒は俺が見る。


 この世界で子供の面倒を見ながら生きるのは大変な事だ。

 それを貴様への罰とするとか何とか言っていたが、

 許可を出す口実にした感じがあった。可愛いな姫様。

 そして神獣クフェルメキアは…


 ・私が持ち帰る。


 勿論これにはクフェが噛みついた。

 しかし次の一言で解決する。

 『こいつは私が飼う』

 姫様が母を殺さないと知ると渋々クフェは引き下がった。

 殺さないだけなんだけどな…俺はそんな事を思っていた。

 姫様…本当に時と場所を選ぶんですね…

 全てを察している神獣が出荷される豚の様に思えた。



 さて、終わったな。

 そう思いながらクフェを見る。

 幼い顔がこちらを見詰めている。

 守るものができてしまったな…

 いや、俺より強いのか。


 まあいい、やることは変わらない。

 とりあえず盗賊だ。襲って襲って金をためるぞ。

 決意を新たにする俺なのでした。

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