12話 神獣クフェルメキアの独白
私はちっぽけな存在でした。
ちっぽけであり。愚かな存在。
でも、其の事に気づくのが遅すぎたのです。
気付けば私の周りには何者もいなくなっていました。
這いよる闇。私の種はそこまで強い存在ではありません。
闇と同化出来るものはごく一部であり、
得意の擬態能力を使い、森で狩を行う種族でした。
基本的な性格は温厚で、他の種とも良好な関係を続けていました。
ですが、私という異常個体の発生により、状況は変化します。
私は私の力に溺れてしまったのです。
私の種はある程度成長したら、分裂する事で同種を増やします。
他の種と交わる者もいますが、私は分裂で生まれた純粋種です。
しかし、母はそれに手心を加えました。
母は強い子を残そうと分裂際に、自分の力の全てを私に捧げたのです。
そして母は言いました。私が朽ちる前に私を食べろと。
実行した私は他の同種より自分が強い事に気づきました。
私は他より優れている。私は優越感に浸り過ごしていました
ですが、所詮は井の中の蛙。大海が現れるのに時間はかからなかった。
あの日、狩に出た時の事を私は忘れない。
地竜がそこにいたのです。私の種など地竜にとって餌でしかありません。
私の仲間は逃げまどい。ある者は食い殺され、ある者は引き千切られました。
私はその光景を目にし、私に悔しさが込み上げて来る事に気づきます。
もっと強くなりたい… そばには仲間の死体…
食べたら、もっと強くなれるだろうか?同機はそんな感じでした。
そう、私は地竜が食い荒した同族の死体を食べて回ったのです。
効果は劇的でした。自分の強さの桁が変わったのを感じました。
そうしたら、地竜に対する怒りが芽生えます。
私は獲物を狙う側に立ったと自覚しました。
地竜を追い、殺し… そして食べたのです。
私より強い種の味は格別でした。
いや、腹にたまった私の同種が調味料になっていたのだと思います。
私はまた強くなりました。
里へ帰ったとき同種が食材にしか見えなくなっていました。
勿論、里の全てを食らいましたよ。私は本当に強くなっていました。
その後は、世界を回り他の同種を探しました。
幾つかの里を食べ歩きましたがその後は、警戒され私に姿を見せなくなりました。
それからは、強い奴を狙い食べました。なぜかって?
簡単です。強い捕食者からは同種のスパイスの味がしたからです。
そして強い奴を狩り続け、霊峰ガルガットの神獣を食した時、
同種の味を感じなくなっていました。
探し求めた味が消失したのです。
私は急に怖くなりました。周りには誰もおらず。
私を見る目は冷たいものです。
近づいて話しかけても、恐れが伝わってきて楽しくありません。
私は、酷い孤独を味わいました。
私はちっぽけな存在です。そんな事に今更気づきました。
私は孤独を紛らわせる為、分裂を行います。
力の消失を恐れ、ちっさな分裂です。
私はその分裂個体にクフェルメリウスと名付けました。
クフェルメリウスは私を恐れません。
私の孤独は和らいでいました。
このまま、クフェルメリウスと共に此処で過ごすと決めたのでした。
消失は突然でした。
クフェルメリウスがいないのです。
私は霊峰と森を駆け回り探します。でも見つからない。
私は恐怖しました。娘がクフェルメリウスいなくなったら私は…
遠くから悲鳴が聞こえます。聞き覚えのある声と娘の匂い。
私は全力で駆けます。そこには娘を連れた全裸の人間がいました。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
「小僧… 唯ではおかんぞ!!」
私は絶叫しました。怒りのままに人間を叩き潰します。
しかし、人間は無傷です。
「何だ貴様は?何故潰れん」
「はあ、いてぇー。
娘を帰しに来ましたよ。怒りを鎮めてくれませんか?」
人間の声が目障りでした。内容が聞き取れません。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
「ふぅ・はぁあ・・ ああああああああああああああああ!!!」
再び絶叫し、攻撃を加えます。
気付けば私は最大出力の満月の咆哮を構えていました。
人間一人にやりすぎです。過去にこれを撃った時は島が一つ消し飛びました。
しかしあの人間が許せない。
私は形振り構わずこれを撃つ事にします。
「終わりだ、小僧。
この一撃でお前を許そう」
私の口から自然とこんな言葉が零れました。
この攻撃に耐える者などいません。
人間もそれを理解しているようでした。
―――満月の咆哮!!
私の咆哮が人間に向かいます。
その時でした。
「だめーーーーーーーーー!」
クフェルメリウスが人間を庇います。
咆哮が止まりません。このままでは娘が…
人間が何かを悟ったのかクフェを優しく抱いた。
「すまない、アレじゃ盾にもなれない」
私は後悔で頭がおかしくなりそうでした。
また私は大切なものを失う。そう思いました。
そこにあの女が現れたのです。
それは恐怖そのものでした。
アレは私の咆哮を一撃で砕き。私を睨みます。
私には解ります。アレは触れてはいけない物です。
娘がアレに睨まれて倒れます。
助けないと… でも体が動かない。
アレと人間が会話をしています。
あの人間がアレを前に平気なのが不思議でした。
急に2人が絶叫します。
男は口から泡拭き。
アレは、手が穢れたと泣き出しました。
アレから私への殺意が消失しました。
私は動ける事を確認し、
そして覚悟を決めます。
何としても、娘だけは生き残らせると。