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一之瀬夏燐は憧レル。  作者: 木邑 タクミ
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第七話

 ランニング開始から三十分。普段なら十五分くらいでいったん帰るんだが、今日はそうしていない。何故か? もうランニングをやる気なんてほとんど残っていないのに、それでも俺は家に帰っていない。何故か? 

――そう、俺は今、MAIGOだからだ。こんなに迷子になったのは久々ってくらい迷子。ザ・マイゴ。

帰り方がまるでわからねぇ。あたりは段々オレンジ色になってきたし、田舎町ということもあって電灯も足りてねぇ。

「くっそ……」

 こんな時俺にスマホがあればなあ。家まで楽々ナビゲートしてくれるだろうに。交番に行けばいい、と俺も一瞬思ったさ。だが交番すらどこにあるのかわからん。

「はあああああ」

 俺は肺の中の空気を一息に吐き出した。困ったああ。そんな風にうろたえていた俺の耳に届くのは奇妙な音。

「……?」

 バチバチと何かがはじける様なような、音だった。普段なら気にも留めないであろうその音も、田舎町独特の静寂の中だとかえって大きく聞こえる。俺は何故だか興味が湧いて、そっちへ向かうことにする。





 じりじりと男たちが私に近づいてくる。その距離約三メートル。私が逃げられないように、三方向から詰め寄ってくる。弱ったな。

 黒いスーツにサングラス。いかにもという格好だけど、私と彼らの間には三十年もの技術差がある。私は戦闘型アンドロイドじゃないけれど、そう簡単に捕まってたまるか。

「おとなしく捕まってくれよぉ」

 私の正面にいる男が猫なで声を出す。気持ちの悪いことこの上ない。私は自機のモードを臨戦態勢へと変更する。初期設定で搭載されている自衛用だ。手のひらから、人間を気絶させることができるくらいの電流がバチバチと流す。戦闘プログラムは一切変えてないけど、三十年の技術差を信じて足掻くしかない。近くには澪奈がいる。でも、澪奈が対処できるのは改造人間一人というところ。静がいたら――この状況は、あっさりと覆るんだけどな。二人にはもう救援信号を送ってある。澪奈は敵に見つからない程度の距離からおそらくここを監視している。今ここで助けに来ても意味はない。三対二ではあまりに分が悪いし、それなら攻撃されないはずの私が時間を稼ぐのは定石の手段のはず。静が来るにはあと五分ほど必要らしい。それまで耐えるしかないみたい――だったら。

「――はぁっ!」

 短い裂帛と共に正面の男へ肉薄する。全身のマシンをフルに駆使した神速だ。相手には私の影も見えてないだろう。そのまま男の腹へと雷撃を帯びた掌底を打とうとして――驚愕する。

「……お嬢ちゃん、遅いよ」

 私の攻撃が当たる間合いのほんの外側から――男はにやりと笑っていた。

「かはぁっ!」

 男の蹴撃が私の腹部に炸裂する。お腹に入った痛みは鋭く私は身体を曲げてしまう。そんな自分の反応もうっとうしくて、私は痛覚を遮断する。

「なるべくきれいな状態で運んで来いって言われてるんだ。だからさ、ここはよぉ、無駄な抵抗は一つよしてくれんか?」

 へらへらと笑いながら男は言う。私はサーモグラフィを使って男を判断する。両足が真っ赤だ――つまり両足とも、最新技術で作られた義足。あの反応速度はそういうことか。

 彼らはどこかの会社から刺客だ。アンドロイド研究を専門に行う企業だろう。この時代ではまだ、人間に兵器的な腕を持つように改造するくらいのことしか出来ない企業。そんな大企業がどこからか私のことを知り――狙ってきた。

 後ろから二人分の振動を感じる。――やっぱり三対一は、キツい。

「それ以上近寄らないで! 私はあなたたちを気絶させるだけの電流を全身のどこからでも流せるよ!」

 私は振り向いて、両手からバチバチと威嚇電流を流しながら叫ぶ。

「怯むな! そんなもんハッタリに決まってんだろ! 拘束してとっとと運ぶぞ!」

 さっきの男の怒鳴り声が飛ぶ。私は目の前の二人に電撃を見せつけながら前へと進んでいく。なんとかここを抜ければ勝機は――ある。

「あめぇよ、嬢ちゃん」

 背後のリーダー格の男が、そうつぶやいたような、気がした。

 とたん、世界が反転した。違う、反転したのは私の体勢だと気が付くのに時間がかかる。無理やりにでも身体を動かそうとするが、じたばたと動くだけでまともに反撃できそうにない。

 裏腕ひしぎ十字固め。男は背後から私の左腕に飛びついたのだ。両の足を私の腕に挟み込ませるようにして重心を崩し倒れさせる。倒れた私は地面にひれ伏すような形になってしまって、その体の自由は完全に奪われてしまう。対人格闘技でよく使われる、極め技。

「アンドロイドつったって? あんたの場合はただ筋力が強いだけでそれだけなんだろ? だったらそういう相手には関節技が一番なことくらい、馬鹿でも気づくよなぁ」

 盲点だった。アンドロイドならば、力で勝つことができると思い込んでいた。確かにこの両手も両足も動けない状態では、私はただの一般市民にも負ける性能に違いない。

「おら、お前ら早くこいつを縛っちまえ!」

 男の号令と共に二人の下っ端が私の足を拘束具で縛ろうとする。なんとか抵抗しようとするけど、地面と抱き合う格好になってるから、足をうまく曲げられない。素早い手際で足首、膝、太ももの三か所に強固な硬い布が巻かれる。私の中で焦燥感が加速していく。お願い、早くだれか来て。

「おい! 絶縁体を持って来い!」

 男がそう叫ぶと下っ端は腰から一枚の布を取り出す。それはゴムでできたような光沢をもっていて――私は両手を固い錠で拘束される。もう足も腕も動かせない。

 リーダー格の男が私の足を持ち上げ、もう一人の男が私の身体を支える。なすすべもないままに私は連行される。不自然な体勢の私が出せる力では到底振り切れそうにない。そのまま黒いワンボックスカーに私は押し込められそうになる。

「やめてっ! やめてよ!」

 私の必死の叫びにも男は鼻で笑うだけだ。

「はっ、未来のアンドロイドはこんなにもしゃべんのか。これじゃあ人間と区別がつかねーよ」

「離して! 離しなさい!」

 じたばたと抵抗する。何とか時間を稼ぐしかない。誰か……誰か! 私はちらと遠目に映る澪奈を発見する。急いでこちらに走ってきてる――

「おら! お前らとっととこいつを詰め込んで逃げるぞ! そろそろこいつの仲間が来ちまう!」

 男は叫ぶ、私の身体はもうトランクの中だ。そしてドアをガタンと閉めようとして――私は悲痛に目を歪める。だが、その音は訪れない。逆に聞こえてきたのは、聞き覚えのある声だった。


「おいおい――女子高生を拉致ろうだなんて、物騒極まりねぇこと、やってんじゃねぇよ」

 

 少し日焼けした高校生――東雲くんが、悠然と立ちはだかっていた。


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