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一之瀬夏燐は憧レル。  作者: 木邑 タクミ
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第四話

 翌日。俺の心臓は狂ってんじゃねぇかってくらい派手に脈打っていた。

「ところで東雲くん。今日の放課後、ヒマかな?」

 ちょおおおおおおお。一之瀬さんがお、俺にデートのお誘い!? おいおい急展開すぎねぇかさすがに順序ってもんがあるんじゃねえかいや田舎だとこんなもんなのかえぇいわからん!

「ひひひひ、ヒマだぞ」

 内心の動揺を隠しきれない俺、情けない。一之瀬さんはまた人差し指を立てて、可愛らしく言う。

「じゃあ……ちょっと、付き合ってくれるかな?」

 つつつ付き合うだとぉ!? しかしそんな内心の高揚をあけすけと表現できるほど俺は素直じゃない。

「あ、ああ。かかか、構わないぞ」

 やべぇ緊張で一之瀬さんの目見れねぇ。ついでに呂律も全然回ってねぇ。

「うん! じゃあ授業終わったら一緒に喫茶店いこっか!」

 明るい笑顔でそう言って一之瀬さんは席に着く。転校二日目にしてさっそく恋愛イベント発生!? やべえ転校してよかったマジでテンション上がる。神様どうもありがとう。だけどこんな俺の期待はあっけなく裏切られる。



「じゃあ私の友達を紹介するね! こっちの女の子が四宮 澪奈。それでこっちの男の子が徳永 静くん。おっけー?」

 ピキィン! 俺の脳内に炸裂音が響いた。今一之瀬はこの男子生徒を友達と紹介した。つまり――一之瀬に彼氏はいない!

 そんなごくごく小さな喜びに浸りつつも、俺は冷静な気分になっていた。いや、でも待てよ。なんだよいったいこの状況。まずなんで友達同伴なんだよ。いや? まあ俺にもわかってたけど? さすがに二人でどっか行くにはまだ早すぎるってくらい楽勝で俺にもわかってたけど? っていうかそれ以外にもかなりおかしい。わかりやすく俺たちの席配置を説明しよう。俺たちは蓮田高校からすぐ近くにあるたった一つの喫茶店へと入った。そしてボックス席に座った。ボックス席ってのはあれだ。中央にテーブルがあってそのサイドに座れるスペースがあるやつな。そういうのって普通四人なら二対二で座るもんじゃん? ところが現在の比率、一対三。俺の前に三人が窮屈そうに並んでいる。え? 何これ面接でも受けるん俺?

 つーかさっきから誰も喋らなくて空気がヤバい。っていうか四宮って子と徳永くんは俺のほう睨んでるみたいな目つきしてるんですけどどういうことなんですかね……。意を決した俺は初対面の二人に話しかけるのを決意する。初対面での話題など――決まっている。

「よ、よろしく。俺は東雲。今日は天気がいいな」

「……………………」

 波が広がるように沈黙が続く。おいまさかこれ俺やっちまった系か?

「…………………………そうだね」

 耐え切れなくなったみたいに一之瀬が同意した。さっきの発言からすでに三十秒が経っていた。あれ、それって会話じゃなくね?

「……………………すいません」

 次に声を上げたのは徳永くんだった。何かしゃべるのかと俺は期待に目を輝かせるが、彼はウェイトレスを呼んだだけだった。それにしても徳永くんなかなか体格がいい。筋肉もかなりついてがっしりとしている。それに顔つきもなかなか渋めだ。そんな彼はコーヒーを頼むのが一番似合うな。徳永くんは低いハードボイルドな声でウェイトレスにぼそりと言う。

「……………………いちごパフェ、一つ」

OLか! おかしいだろ。お前自分のこと鏡で見たことあんのかよ!

「いや~東雲くんごめんね。この二人がどうしても来たいって言うから……」

 その割には全然楽しそうじゃないんですが二人とも。むしろ殺意みたいなものをビンビンに感じるんですが。

「いや、俺は全然かまわないぜ。それにしても随分変わった友達がいるんだな」

「そうなんだよ。二人ともすごく変わってて……」

 一之瀬が照れ笑いを浮かべながら話を続けようとする。その時隣でドンッ、という何かをたたく音が鳴る。それは四宮がグラスを机に叩きつけた音だった。四宮がぎろりと一之瀬の方をにらんでいる。なんか知らんけどマジこえええええ。

「……早く本題に入りなさい」

 四宮のその態度に、さすがの一之瀬も少しむっとしている。

「何よ。ちょっとくらい喋ったっていいじゃん。なんでそんなに高圧的なの?」

 四宮はまさか反撃されるとは思っていなかったのか、少し弱った表情を見せる。あれ、よく見たらこの子も一之瀬と変わらんくらいに可愛いことに気が付く。いやこええけど。

「そ、それは……」

「静も静だよ。昨日は行かないって言ってたじゃん。それなのに今日になったらやっぱり行くとか言い出して。しかも来て黙ってるだけって、二人は私の両親なのかな? 私が一人で東雲くんと会うのがそんなにイヤなの?」

 静はいちごパフェを口に運びながらぼそりと答える。

「……………………嫌だ。その男は危険、だからな」

 危険? 俺が危険つったらそんなの――ああ、昨日俺がスマホを壊しちまった、一件か。っていうか俺と一之瀬が会うのが嫌って、徳永は一之瀬のこと好きなのか?

「だから今日はそれを確かめるために来たんでしょ?」

「確かめるって、いったい何をだ?」

 俺が聞くと、一之瀬はごそごそと鞄の中から何かを取り出す。

「じゃーん! 格安豆電球でーす!」

 一之瀬がテーブルの上に置いたのは豆電球と単四電池だった。

「これを俺に壊せと?」

「そういうことです」

「……? なんでだ?」

「いやあ、昨日の話をしたらこの二人がどうしても見てみたいって言うから……」

 だからさっき四宮さんは机叩いてキレたんですか。どんだけ見たかったんだよ……。

「……そういうことだったのかよ。いいぜ。そういうことなら俺の体質を見せてやってもいい。ちなみにその豆電球いくらだ?」

「Amazonesで54円でした。あ、別に東雲くんは払わなくていいよ。私が壊してってお願いしてるんだし」

「あ、そう。んじゃ電池セットしてくれ。そっちのほうが分かりやすいだろ」

「うんうん」

 そう言って一之瀬は豆電球に電池をつなぐ。豆電球にか細い明かりがともる。

「それじゃ、壊すぞ」

 さっきまでパフェを食べていた徳永も、それをやめてじっとこちらを見つめている。四宮は言うまでもない。一之瀬も緊張しているような面持ちで見つめている。俺はゆっくりと豆電球に手を近づけていく。

 バチッ。

 豆電球は一瞬、ほんの一瞬だけ派手に光り――次の時にはもう消えていた。

「ほらよ」

 徳永と四宮は目を見開いている。

「まさか本当だったなんて……」

「……………………信じられん」

「その体質はいつからなの?」

 一之瀬は俺に問いかけた。

「うーん、確か物心ついたくらいから……だから、小学校入ったくらいからだな」

「それまではなんでもなかったんだ」

「ああ。かーちゃんの車のオーディオに触ったら故障して、ついでに車も故障した。それが最初の事件だな」

 俺があっけらかんと言うと、一之瀬の表情は少し曇る。

「……言わせちゃって、ごめんね」

「いや、全然かまわん。もう俺にとっては過去のことだ。俺も昨日一之瀬のスマホ壊しちまったしな。気になるんだったらどんな質問をしてもいいぞ」

「それは機械を壊す体質みたいだけど、具体的にどんな機械が壊れるのかしら?」

 隣で黙ってた四宮が何かを試すみたいに質問をしてくる。

「そうだな……電気で動くものなら全部壊しちまうな。でも逆に言えば、機械でも電気を使ってないものは壊さないで済む。ガスコンロなんかは電気を使ってないし、シャワーなんかも大丈夫だ」

「へぇ~。もしかして冷蔵庫も使えないの?」

「おう。使えないぜ。だから毎日買い物に行かなくちゃいけないし、しかもこの真夏だとすぐに腐っちまうから食べ物はすぐに使い切れるように買わなきゃいけない。ま、でもこれも仕方ねぇよな」

 俺の言葉に一之瀬は目を丸くする。

「た、大変だね……」

 そんな感じで、なんでこうなったのかはわからねぇが――俺の能力説明会は続いた。3人が俺に質問して、それに俺が答える。まあ珍しいからこれくらいはあり得るよな、と俺も思っていた。だが、途中から雲行きが怪しくなった。

 一之瀬はよく質問してくれる。よく質問してくれるんだが――問題は、横にいる二人。怪訝な顔つきでアイコンタクトを送りあっている。まるで俺を品定めしているような感じがしてあまり気分がよくない。件の一之瀬もそれに関しては気が付いているようで、表情が少しずつ曇っていくのが分かる。いったいこの二人は何がしたいんだ?

 その時徳永が一之瀬にこそりと耳打ちをした。「……だ、……かっただろ」一之瀬は慌てた表情で四宮の方を見る。四宮は顎に手を当てて、「……静の言うとおりね」とぼそりと言う。一之瀬は目を丸くする。いったい何の話をしてんだ? 一之瀬は焦ったようにきょろきょろと二人を見回してそして――その視線をぴったりと俺に固定する。嬉しそうに眉毛を上げてはにかむ。テーブルにぐっと体を乗り出す。強調されるおっぱい。そこしか目に入んねぇよ。そんな俺を置き去りにして一之瀬は俺の手をきゅっと――つかむ。

「おい!?」

 その時叫んだのはずっと静かだった徳永だった。すぐさま俺から一之瀬を引きはがし座らせる。え? 俺は一之瀬さんに触れることも許されないんですか?

「ほら! 今のでわかったでしょ!?」

 一之瀬は徳永に怒りながら言う。何が分かったんだ?

 対する徳永は首を横に振る。「ダメだ。確証がない」

 その一言が、きっかけだった。一之瀬はこぶしを震わせて、怒鳴る。

「このわからずや!」

 バンッと派手に席を立つと、一之瀬は立ち上がって店を出ていった。後を追うように徳永と四宮が店を出る。俺はひとりでポカーンである。残されたのはグラスと壊れた豆電球と――1枚の伝票だけ。『いちごパフェ一点 756円』

「俺が払うんかい!」


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