十八話
「……決意は固まったかしら」
翌日の早朝、四宮は俺の家の前まで来てから、そう言った。隣には例の石田という男のほかに、数人の体格の良い男たちが立っていた。
俺は毅然と言い放つ。
「ああ。やってやるよ。四宮の話に乗ってやる」
四宮はほんの少しだけ安堵の表情を見せた。
「……あなたがそう言ってくれて、嬉しいわ」
俺は少しだけ照れくさくなる。
「うるせえ。例の作戦とやらを確認するぞ」
俺の言葉に、四宮の表情も冷静になる。
「ええ――確認、しましょう。石田、資料から確認するわよ」
「ああ」
隣に立つ大柄な男がぶっきらぼうに、手元の数枚の紙を澪奈に手渡す。
「まず私たち――徳永達がいる本部だけれど、あれは外見上二階建ての一軒家よ。でも地下室がある。夏燐が幽閉されているのはその地下室ね。徳永しか開けることができない厳重なロックがかかった牢獄の中に、夏燐はいるわ。それも相当な量の爆薬を使っても突破できないほど厳重な扉の向こうに、ね。
そこで、私たちは夏燐が輸送用の装甲車に夏燐が地下一階から地上に移動させられるその瞬間を、狙って夏燐を攫う。ここまではいい?」
「ああ」
俺はずっと閉じ込められている夏燐の姿を想像して、唇を噛んだ。
「どうしてそれほど正確な時間を狙えるかっていうのは、当たり前だけど私がその移動計画の全貌を知っているから、ね。夏燐が扉の外に出されたその瞬間に、私がすでに仕掛けておいた爆薬を起動させる。周囲の警備員は混乱し、事態の収拾に努めようとする。けれど犯人は見つからない。なぜなら内部犯だから」
澪奈はにっこりと笑う。
「ところで、夏燐が狙われていると知った徳永は、どう行動すると思う?」
俺は少しだけ考えてから、答える。
「夏燐をもう一度牢獄に入れて、安全を確保しようとするんじゃねぇのか?」
澪奈は言う。
「頭の回転が速いのね。そうよ東雲くん、恐らく彼はそうしようとするでしょう。けど、ここであなたの出番」
「ほう」
「ここの地域一帯の電源をすべてショートさせる。それが一つ目のあなたの仕事。これは比較的簡単ね」
「……それで何の意味があるんだ?」
俺は尋ねる。
「そのロックね、当たり前だけど電動なのよ。徳永の認証がないと開かないけれど、まったく同じように、徳永の認証がないと閉まらないの」
俺は手をポンとたたく。
「なるほど。それで徳永は夏燐をもう一度牢獄に入れることはかなわないってことか」
「そう。そして室内の電源が一気に落とされるから指令体系が混乱するわ。さらにさっきの爆撃の混乱もあって、かなり内部は乱れるでしょう。その隙を突いて石田隊の四人と、東雲くんを含めた五人は変装をして本部へと突入する。東雲くんと石田はそのままブレーカーへと向かってください。おそらく数分で非常電源が復活するわ。その電力を絶つ必要がある。けれどそこはすでに敵地の真っただ中よ。かなりの危険が伴うわ」
「任せとけ」
俺はにやりと笑ってそう言った。
「……頼もしいわね。電源を復活させないまま、私を含めた石田隊の三人はそのまま夏燐を奪還に地下へと向かう。おそらく乱戦になるでしょう――徳永と夏燐の周りにいるガードナーは四人。それもかなりの手練れよ。瞬殺が求められる」
「……」
石田の隣にいる男たちは無言でうなずいた。
「そしておそらく徳永はコントローラーを携帯しているはず。コントローラーといってもそれほど大きなものではないの。現代の技術者が夏燐を発見した際、パソコンから制御可能にするために作ったUSB接続のメモリのようなサイズのものよ。それを発見し、回収する。できなければ破壊する」
「破壊しちまっていいのか?」
石田が問いかける。
「ええ。向こうにそれがあるという状況が問題なのよ」
「なるほど」
「そしてターゲットを拉致しコントローラを破壊したうえで、極力敵との交戦を避けつつ逃走用のバンに乗りこむ。石田の仲間の一人はそこで待機。すべては迅速に行われなくてはならないわ。そうしなければ敵の増援が来て私たちは抹殺される。何よりもスピードが重要よ」
澪奈はそこまで言って、息を吐いた。
「これで作戦の説明を終わりにするわ。質問はあるかしら」
澪奈の質問に、石田の取り巻きの一人が手を挙げる。
「あんた、これどれくらいで成功すると踏んでいる」
「30パーセント、最大でそれくらいでしょうね」
澪奈は毅然と言い放つ。
「ずいぶん高いように思えるが」
石田が反応する。
「こちらには強い札があるから、十分勝算はあるってこと」
「……ふむ」
3割、か。少ないような気もするが、同時にそれくらいなのかもしれねぇなと思った。
「どんな作戦においてもだけど、重要なのは各々が自分の役割をしっかりと理解して、不測の事態に対し臨機応変に対処すること。今回の拉致対象はかなり素直に動いてくれるはずだし、運動能力も段違いにあるから、十分逃走は可能」
「……」
「けれど当然、死の危険は常に付きまとうわ。敵陣を堂々と突っ切る作戦、死んだっておかしくはない。みんな、覚悟を決めて」
皆がお互いの真剣な表情を見つめあっていた。俺は唾をのむ。死、俺はこの作戦に身を投じれば、死ぬかもしれない。そう考えると足がすくんだ。
「まあ、俺たちは仕事だから、いつも通りやるだけだ」
石田の取り巻きの男がぼそりと言う。
「右に同じだな」
石田も続く。
「私は立案者なんだから、命が惜しいなんて言ってられない」
澪奈は少しほほ笑んで言う。同い年とは思えないほどに強い少女だと思った。
「俺は――」
そう続けようとして、ふと、昨日見た夏燐の姿を思い出した。
『うまくやってね――シュン』
あの消え行くような儚い笑顔。幻のような一瞬。それを思い出すと、不思議と恐怖心が和らいだ。俺はにやりと笑う。ああ、やるしかねぇ。やるしかねぇとも。
「大丈夫だ。覚悟なら、できてる。絶対に成功させるぞ」
俺の言葉に、皆がうなずいた。




